2017年08月29日11時43分掲載
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コラム
安倍政権の知恵袋 田原総一朗氏 二つの顔を持つ新自由主義の導き手
田原総一朗氏が支持率激減で悩む安倍首相になにやら提案をしたことが話題を呼んだ。中身が不明だったため、冒険的な内容らしいとか、北朝鮮への電撃訪問か、といった憶測が飛び交った。
田原総一朗氏と言えば1987年に始まった「朝まで生テレビ!」の司会者としての顔が最も代表的と言ってよいだろう。この番組では左派から右派まで様々な論客を集め、1時間とか2時間と言った昼間の時間帯の番組編成の常識を破り、夜通し討論をする、というスタイルで人気を集めてきた。司会の田原氏はこの討論番組では頻繁に話の途中に介入することで知られ、世界的に見て独特の司会と言えるだろう。
ジャーナリストの顔を持つ田原氏が政治家に進言することは今回が初めてではない。そもそも、「朝まで生テレビ!」でも「サンデープロジェクト」でも政治家をスタジオに呼び、特定の政党を越えて親交を持ってきたはずである。だから、政治家との距離は近い。「朝まで生テレビ!」が始まった1987年から今日までの日本の政界の変化には大きく分けると3つ挙げられると思う。
1、二大政党制を目指す小選挙区制の導入、
2、日本型雇用の構造改革 「聖域なき構造改革」
3、憲法改正運動
田原氏は司会者として、多くの政治家や論客をスタジオに招き、こうした冷戦後の日本の変化を自分の出演する番組で論じさせてきたはずである。田原氏のポジショニングは左でもなく、右でもない、ということになるだろうが、実際には右派に位置するのではないだろうか。その証拠の1つとして、日経bp誌に寄稿した田原氏の寄稿文「ドイツの『シュレーダー改革』を見習うべきだ」が挙げられるだろう。
社会民主党のシュレーダー首相は「アゲンダ2010」と称する構造改革を2003年に導入し、社会保障制度を改革し、労働法を大幅に規制緩和した。この改革によって失業率は数字の上では11%前後から6%前後に半減し、ドイツ経済は勢いを取り戻したと評価されてはいるが、同時に貧富の差が拡大し、就職したと言っても雇用の不安定な人々や貧困層が増え、極右勢力が増大する結果となった。失業率は確かに数字の上では下がったが、労働者のクビを簡単に切れるようになったのである。さらにこうしたドイツの政策は欧州連合と言う枠組みを通して、ギリシアやフランスの社会保障切り下げや労働法の規制緩和への大きな圧力にもなっている。だが、田原氏は「社会保障改革と同時に、『岩盤規制』の撤廃により企業の競争力を高める改革を行う必要がある。安倍政権はシュレーダー氏の『アゲンダ2010』をぜひ学んでほしい。」と書くのである。
田原氏は「岩盤規制の撤廃」をアベノミクスの成功のために進めるべきだ、と安倍首相に進言しているのである。岩盤規制の撤廃の象徴は今話題の国家戦略特区に他ならない。これは竹中平蔵氏と小泉首相が進めてきた新自由主義改革のさらなる進展を求める発言である。田原氏がどのような政治的見識を持ち、どのような発言を行うかは田原氏の自由であり、なんら問題はない。けれども、左でもなく右でもない、というポジショニングとは言えない。「左でも右でもない」と田原氏が言ったかどうかは知らないが、左と右を集めた討論番組「朝まで生テレビ!」の司会者としては中立的なポジショニングを持っていることが番組の構造としては求められるはずである。ところが、田原氏は本質的には右派の論客である。こうした一見、二つの顔を持つヤヌスの神のような人々が時代を右に引っ張ってきたのが冷戦終結後の四半世紀の日本だったのではないだろうか。
村上良太
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