2017年08月30日00時06分掲載  無料記事
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近未来の死(ALS)に直面して何ができるのか  映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』  笠原真弓

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)を宣言された、有名アメリカンフットボールチームの歴史に残る名選手の話。聞いただけで私には「スポーツ、関係ない」と思ってしまうシチュエーションだ。だが待てよ、難病の話でもある。見に行くことにした。 
 
 そこに展開されたのは、とんでもない一人の苦悩する人であり、家族の物語、しかも父と息子の物語でもあった。実話だというが、この選手のことを針の先ほども知らない私は、先入観なくニューオーリンズ・セインツの名選手だったスティーヴ・グリーソンという一人の人に向き合った。 
 
 彼は、アメリカ史上に残るハリケーン「カトリーナ」(2005年)の被害を受けた後の最初のホーム試合で、勝利に導き、市民を勇気づけたヒーローだったそれから5年後、引退し新婚間もない妻と今後の人生設計を考えているとき、病気がわかる。それと同時期に妊娠も知った。 
 
 この病気はアメリカでも発病5年くらいで亡くなるといわれている。生まれてくる子どもがまだ幼いうちに自分は死ぬだろうとスティーヴは覚悟すると同時に、自分に父親の記憶がないことを思い起こし、子どもが父親のことを知りたいと思ったときに「お父さんは、こんな人で、こんなことを考えていた」という「自分の存在」を残したいと思うのだった。数年間に撮りためたビデオテープ1500時間分に写りこむのは、仲睦まじい姿であり、心が折れて互いに背中を向き合っているさまだったり。人手を借りなければ生きていけない切羽詰った思いと、息子との思い出をつくりたいとチャレンジしていく姿勢。それはスポーツで鍛えられた「絶え間のない努力」なのかもしれない。 
 その中に、自分の父親との関係も描かれる。リタイヤした父の、息子に対する和解の気持ち、息子の父親のその気持ちを受け入れる情景が、リアルに映し出さる。 
 
 この映像には、少ししか登場しないが、スティーヴ夫妻が設立した非営利団体チーム・グリーソンが注目される。そこでは、ALSの患者さんの最新テクノロジーでの支援と、この病気の治療法と根絶を最終目標とした研究活動を行っている。 
 中でも発語の困難なALSや脳性麻痺、脊髄損傷などの人に必要な音声合成機器の保険適用を法律化したことがあげられる。 
彼は発病5年を越え、人工呼吸器をつけながらもまだ私たちと同じ空気を吸っている。アメフトの希望の星は、いま世界のALS患者と家族の希望の星であることは間違いない。 
 
 
(111分)監督・編集:クレイ・イトゥイール 
8月19日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町&渋谷他にて全国順次公開 
(c); 2016 Dear Rivers, LLC 
 
 
※この映画上映に伴って、日本のALSプロジェクト前売券の売上げから『宇宙兄弟』ALS プロジェクト「せりか基金」に寄付の応援も行っている。 
詳細は→http://transformer.co.jp/m/gift/als/index.html 


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