2017年09月12日11時48分掲載  無料記事
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文化

「嬬恋村のフランス料理」21   コックコートへの思い   原田理(フランス料理シェフ)

   西洋料理の料理人が着る白い制服の事を「コックコート」と呼びます。言うまでもなくこの制服がわれわれの職業の象徴です。料理人の労働は基本的に長く、その間ずっとこの制服を着ているのですから、当人たちにとっては人生の大半を過ごす戦闘服でもあります。今回はそんな制服の話を。 
 
   料理人の白いまっさらな制服は幼少時から憧れでした。こと西洋料理のシェフの高い帽子を被り、パリッと糊の効いたコートに長い前掛け。その腕から紡ぎ出される美しい料理の数々は高校生の僕の眼には、その高度な技術や皿の上ははじめて見る魔法や手品のように映ったものです。辻静雄先生の著作に触れ、フランス料理の写真をいろいろと見ていくうちに自分の人生を決めたような気がしています。テレビや雑誌、さまざまな書籍で見かけるフランス料理人の姿は強烈に眼の奥に焼きつき、いつか自分のフランス料理でお客様を満足させるんだと思うようになりました。 
 
   修行時代はそれほど長くありませんが、下積みの見習いの頃、初めて与えられたコックコートは洗濯を重ねて疲れ、古いものも多かったような気がします。シェフのものだけがボタンも生地も、縫製も特別なもので、どのシェフのコートもそれはオーダーメイドの高級品と言うか、立派なものを着ていることが多かったのです。辛い下積み時代にぼろをまといながら、いつかこの高いコートに自分の名前を刻んで着てやるんだと思っていました。 
 
   初めてシェフになったときに一番うれしかったのは、自分のコックコートを選べることでした。つやつやした生地に、手作りのくるみボタン。刺繍で刻まれた自分の名前。料理長になったことを実感した瞬間です。なんだか自分がすごく仕事のできる人のような気になったものです。その頃から使っているコックコートは「BRAGARD」(ブラガール)。フランスのメーカーです。ウェブサイトで見つけてすぐにオーダーしました。国産のメーカーにはないフランスらしいデザインで、フランス料理をやる限り、このコックコートにしようと強く思いました。 
 
   今のホテルでは自分で選んで着ることは出来ませんから、会社が支給するものを着ていました。あるとき当時の総料理長に「原田、制服のデザインの変更の提案をしたい。テストケースとしてお前好きなの自分で買って着て良いぞ」と言われたことがありました。嬬恋村に来て、会社員になってからは着れらないと思っていたコートを再び着る事ができたのは非常に嬉しかった。すぐにオーダーしました。好奇の眼もありましたが、素の自分に戻った気がして仕事の気持ちが変わった気がしています。 
 
   そういえば、僕は結婚式もコックコートで行ったのです。白いコートは結婚式にもう打ってつけと思い、タキシードをオーダーする気持ちで結婚式用のコートに仕立てたのです。あいにくその日はバケツをひっくり返したようなどしゃぶりの大雨。黄緑色の嬬恋名産のキャベツにちなんだ愛妻のウエディングドレスと共に結婚式を挙げながら「キャベツとコックかぁ。いいカップルになれるなぁ」と感じたものです。今でも仲がよいですから、あながち間違いでなかった気がします。 
 
   そして今、再びブラガールでコートをオーダーして厨房に立っています。総料理長になり、会社の許可を得て、自分がオーダーしたコートを再び着ます。コックコートはわれわれの戦闘服であり、礼服。朝出勤して着替えるとき、タイを締めて白いまっさらなコートを纏うたびに、自分はフランス料理人になって本当に良かったと毎朝思います。嬬恋村は秋の長雨の時期に入ったようです。降りゆく雨を眺めながら思い出すことが多いのも秋の仕業かもしれません。 
 
 
原田理(おさむ)  フランス料理シェフ 
( ホテル軽井沢1130 ) 
 
 
※「BRAGARD」(ブラガール) 
http://bragard.co.jp/category-35/category-40/category-55/ 
 
 
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507250515326 
■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507282121382 
■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ) 
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■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ  原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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■「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ) 
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