2017年09月30日13時51分掲載
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コラム
選挙とシナリオライター 野党にも練達のシナリオライターが必要な時代かもしれない
これはアメリカの政治コラムを読んで得た知識で、筆者が実際にこの目で確かめたわけではないのだが、アメリカではハリウッドのシナリオライターたちが政界のシナリオも書いている、というのである。政界のシナリオ、というのは選挙戦での逆転勝利とか、海外でのクーデターの脚本などだそうだ。僕が読んだコラムの場合は2009年のホンジュラスでのクーデターのケースだった。本当か嘘かわからないので、話半分で軽い気持ちで読んでいただけたら幸いである。
ハリウッドの劇映画では主人公は簡単に望みの物を手にすることができず、二転三転状況は逆転し、観客はハラハラドキドキさせられる。「敵」による反転攻勢にあって危機に陥ることまで物語に折りこんで展開していく作劇の技術力がある。そして最後の政治的な落としどころをきちんと書く。
1)第一部
ホンジュラスの場合、左傾したセラヤ大統領を軍が拘束して外国に連れ出して幽閉して政治変革を起こす。セラヤ氏に憲法改正の国民投票をさせないための電撃作戦だ。実はセラヤ大統領は大統領職を二期続けてやるために憲法を改正して秋の大統領選に再出馬を図っていたのである。憲法裁判所が改憲の動きに対して違憲の判決を下す。
2)第二部
ところが、セラヤ大統領が秘密裏に帰国し、ブラジル大使館にたてこもって抵抗運動を始める。ジャーナリストたちもブラジル大使館にたてこもる。セラヤ氏はラジオなどで首都に残る同志たちに降伏するな、と呼び掛ける。中南米の左派政府が連合してクーデターを行ったホンジュラスの軍事政権に抗議運動を行い、セラヤ大統領を支援する。
3)第三部
アメリカのクリントン国務長官が仲介に乗り出す。セラヤ大統領を復職させるかどうかが鍵となる。何度か仲介のための米交渉団がワシントンからホンジュラスの首都テグシガルパを訪ねるが、なかなか交渉が妥結しない。立てこもりも長引き、双方に疲労感が漂い始める。
4)第四部
セラヤ大統領を復職させない代わりに、セラヤ大統領抜きで大統領選挙を行うことで手打ちをする。この結果、反セラヤ派のロボ氏が大統領になる。こうして米国とホンジュラス右派がホンジュラスの左傾を阻止した。アメリカは形ばかりとしても平和の使者の役割を実現でき、危機を解決するストーリーに組み立てられた。ちなみにこの後、ホンジュラスではジャーナリストが大量に殺され、世界でも有数の殺人大国になった。
これが本当にハリウッドのライターが台本を書いて米国務省が製作した政治劇だったのかどうかは知らない。ただ、そういう話をアメリカの政治ブロガーが書いていた。しかし、もし本当だったとしても驚きではない。アメリカの政治は巨額の金が動いているから、金が動くところ、ライターやプランナー、映像制作会社も動いていくからだ。日本でも電通が動いているようにだ。この場合、セラヤ大統領が電撃帰国することが、話を面白くする。もしこれがなければ一方的にクーデターを行った印象が残り、軍事政権は世界の悪者にされてしまっただろう。だが、そうしてセラヤ大統領とドキドキハラハラの攻防戦をする中で、妥協が成立して、アメリカは望むものを手に入れた。アメリカの裏庭にあるホンジュラスがチャベスやカストロの陣営に引き込まれるのを阻止した、ということである。
日本の政治家で多少なりともこれに近いことができているのは目下、安倍政権とそのブレーンだけである。じっくり政治の様々な筋書きを頭に描き、そこから構想を膨らませ、複数の可能性の中から刻々と最善の流れを探知していく作業である。大切なことは逆転と驚きを入れておくことだ。そして、苦境の中で一生懸命もがく愚直な誠実さを観客(国民)にまず見せておくことだ。去年の小池百合子氏の都知事選の場合は、四面楚歌の中にある小池氏が形勢を逆転する爽やかで感動的なストーリーが書かれていた。これは起承転結のある劇映画の手法と言ってよい。小池氏が当時、自民党員だったことを忘れてはならない。四面楚歌の小池氏が汗を流している映像をTVメディアはよく報じた。
軍や国務省の参謀ではなく、ハリウッドのライターが関与する必要性と言うのは選挙で国民にアピールできる魅力的なストーリーを描く技術を持っていることにある。それは新聞やTVが喜ぶ驚きと共感のストーリーに落とし込む術でもある。野党にも練達のシナリオライターが必要な時代かもしれない、いや、皮肉で書いているのだが。
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