2017年10月05日13時06分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201710051306084

反戦・平和

北朝鮮のミサイルが飛んだ、さあ軍拡だ  根本行雄

 北朝鮮は核実験をやり続けながら、弾道ミサイルの開発も進めている。2017年7月、核弾頭が搭載可能になるとされる大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」を試射した。8月17日、日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が開かれた。8月29日に発射した中距離ミサイルは日本上空を通過した。北朝鮮は8月29日、9月15日に相次いでミサイルを発射したが、一部の自治体では防災行政無線から音声が流れなかったり、登録制メールによる情報発信ができなかったりした。 防衛省は2018年度予算の概算要求で、過去最大の5兆2551億円を計上する方針を固めた。安倍首相の9条解散は北朝鮮のミサイルの脅威を利用しての悪辣なものだ。 
 
 
 
 北朝鮮のミサイルが飛んだことによって、明らかになったことは何かを明らかにしておきたい。 
 
□ Jアラートが作動した 
 
 北朝鮮は8月29日、9月15日に相次いでミサイルを発射した。 
 
 政府は9月14日、北朝鮮の弾道ミサイルが発射された際に避難を呼びかける全国瞬時警報システム(Jアラート)のメッセージの一部を変更した。従来は「頑丈な建物や地下」への避難を呼びかけていたが、「頑丈な」の3文字を省き、「建物の中または地下」への避難呼びかけに改めた。 
 
 国が求めている避難行動は3つである。 
 国はミサイルが発射され全国瞬時警報システム(Jアラート)が作動した場合の対策として、国が国民に呼びかけているのは、3つの避難行動である。 
 国が求めている避難行動は、屋外にいる場合はできる限り頑丈な建物や地下に避難する。建物が近くにない場合は物陰に身を隠すか地面に伏せて頭を守る。屋内にいる場合は窓から離れるか窓のない部屋に移動する。以上の3つである。また、近くにミサイルが落下した場合は、口と鼻をハンカチで覆い屋内や風上に避難したり、窓に目張りをして部屋を密閉したりすることが有効であるとしている。 
 なんとおそまつな避難計画であろうか。 
 北朝鮮では、原子炉が稼働しており、使用済み核燃料を再処理して核爆弾の原料になるプルトニウムが抽出されている。ミサイルもさることながら、核弾頭の搭載についても考慮しておく必要があるだろう。 
 
 核弾頭を搭載したミサイルが撃ち込まれる可能性はある。そして、核弾頭が搭載されていなくとも日本国内の原発にミサイルを撃ち込むことによっても、大きな被害が起こる。 
 核シェルターを作ることもなく、「頑丈な建物や地下」へ逃げるだけとは、お粗末極まりない避難計画だ。これで国民の生命、財産を守るとは、どうして主張できるのだろうか。安倍の頭はどうなっているのだろうか。 
 福島での原発事故のことを思い起こせば、安倍のしている避難計画や防衛計画は絵に描いたモチである。なんらの具体性も、現実性もないことは明らかだ。 
 
 
 
□ 2017年8月17日、日米の外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が開かれた。 
 
 閣僚会合で河野太郎外相と小野寺五典防衛相の日本側はさまざまな言質を米側に与えた。 
・米国製の陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を自衛隊が導入する。 
・安保関連法制で可能な、さらなる日米協力の形を追求し、情報収集、訓練など新たな行動も探求する。 
・向こう10年間の防衛力のあり方を示す防衛大綱、中期防衛力整備計画を前倒しして改定する。 
 ―などと米側に説明し、 
 共同声明には「同盟における日本の役割拡大と日本の防衛能力の強化」が明記された。 
 
 安倍政権は北朝鮮の脅威を好機として自衛隊の装備拡充をし、憲法9条の名分改憲を目指している。 
 小野寺防衛相は先に国会の閉会中審査で、グアムが北朝鮮のミサイル攻撃を受けた場合には安保法制の「存立危機事態」として集団的自衛権行使の対象となり得る、との考えを示した。この小野寺防衛相の考えと、「2プラス2」での合意を考え合わせると、自衛隊には米軍の補完どころか肩代わりを可能にする、強大な軍事力整備を目指していると言えるだろう。 
 
 
□ 安倍首相はダンフォード米統合参謀本部議長と会談した 
 
 閣僚会合の翌日である8月18日、安倍首相はダンフォード米統合参謀本部議長と会談し、日米の防衛体制と能力の向上のために具体的行動を取ることで一致した。 
 いかに米軍のトップであるとはいえ、制服の軍人と一国の首相が1時間も直接話し合うのは異例の厚遇であるといえよう。閣僚会合で防衛相らが振り出した約束手形に首相が直ちに裏書きする形となったわけだ。 
 
 
□ 防衛省のミサイル対策 
 
 防衛省は2プラス2に先立ち、海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を陸上に置くシステム「イージス・アショア」導入を決め、システムを供与する米側に協力を求めている。イージス・アショアで日本全域をカバーするためには千数百億円以上が必要だとされるが、北朝鮮の脅威を好機として、導入を急いでいる。 
 
 
 毎日新聞(2017年8月23日)において、秋山信一記者は次のように伝えている。 
 
 防衛省は2018年度予算の概算要求で、過去最大の5兆2551億円(17年度当初予算比約2・5%増)を計上する方針を固めた。北朝鮮の弾道ミサイル発射技術が進展していることを踏まえ、大気圏外でミサイルを迎撃する海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を陸上に置く新システム「イージス・アショア」の導入費を盛り込む。 
 
 イージス・アショアは米国製で1基700億〜800億円。2〜3カ所への配備で日本全体をカバーするとされる。SM3配備のイージス艦、高度十数キロで対処する地上配備のパトリオット(PAC3)と共に運用することで、より重層的な迎撃システムを構築する。小野寺五典防衛相が今月17日にワシントンでマティス米国防長官と会談した際、イージス・アショアの導入方針を伝え、協力を取り付けていた。概算要求では金額を明示しない「事項要求」として、年末の予算編成に向けて金額を確定し、基本設計費などを計上する。 
 
 ほかに概算要求には、中国などが高性能化を図るステルス機に対する探知能力を向上させるための新型警戒管制レーダーの試作費196億円を盛り込む。航空自衛隊には衛星攻撃兵器の動向などを監視する「宇宙監視部隊」を創設。日米で協力する方針で、米軍が主催する宇宙空間での多国間演習に参加するための関連費用も計上する。 
 
 
 
 安倍政権は実際の役に立つかどうかも判らない迎撃ミサイル計画を押し進めようとしている。そして、日米軍事同盟をさらに緊密にしていこうとしている。そのための自衛隊の存在を憲法に明文化したいと考えているのだ。ミサイルが飛んで来たら、国民は核シェルターがないので、「頑丈な建物や地下」へ逃げるしかないない。ほんとうに、お粗末極まりない安全対策だ。これで国民の生命、財産を守るとは、どうして主張できるのだろうか。 
 
 
 
□ 「これからは国民に丁寧に説明する」と述べた首相が9条解散をした 
 
 北朝鮮のミサイルは、ついに、9条解散をもたらした。 
 
 安倍首相は8月の記者会見において自らの政治手法を反省してみせ「これからは国民に丁寧に説明する」と述べた。 
 しかし、安倍内閣は、野党の憲法第53条に基づく適法な要求を無視して国会の臨時会を召集せず、違憲状態のまま放置してきた。そして、軍事大国化、自衛隊と米軍との一体化に向かってひた走りに走っている。 
 野党が憲法に基づいて要求した臨時国会の召集に3カ月も応じなかった。そして、ようやく、開いた臨時国会は、質疑なしで解散してしまった。 
 安倍首相は「国難突破解散だ」と主張した。首相は会見で、情勢が緊迫して解散の判断に制約を受ける懸念を踏まえ「民主主義の原点である選挙が北朝鮮の脅かしで左右されてはならない」と力を込めた。だが、そもそも選挙をするのは安倍首相の判断であって、北朝鮮が注文をつけたわけではない。北朝鮮のミサイル発射や核実験は、以前からずっと続いてきている。安倍首相は北朝鮮のミサイルの脅威を利用しようとしているのだ。安倍首相は、またしても、本音を見せてきた。あくまでも戦争ができる「普通の国」を目指し、明文改憲をし、憲法第9条を骨抜きにし、自衛隊を合憲化し、有事の際には人権を容易に制限できる緊急事態条項の新設を目指しているのだ。 
 
 安倍政権が衆院議員の任期を1年以上も残して解散する意図はなにか。それは政権維持だ。北朝鮮によるミサイル発射、核開発問題を利用してナショナリズムをあおり、政権浮揚、基盤固めを狙っているとみるべきだろう。もちろん森友学園、加計学園をめぐる疑惑を国会で徹底的に追及され窮地に追い込まれる前に先手を打って選挙を実施する、という思惑があることも明らかだ。 
 内閣支持率の回復傾向をにらみ、民進党の混乱、野党の立ち遅れ、新党の準備不足など、安倍の計算では、またしても、3分の2超の議席が取れそうだとソロバンをはじいたのだろう。 
 北朝鮮のミサイルの脅威は安倍政権にとって強い追い風になるはずだとの判断があることは間違いあるまい。いずれにしろ、安倍の9条解散は「政権維持」を最大目的としての計算、判断、思惑である。要注意。くわばら、くわばら。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。