2017年10月14日09時40分掲載
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移民大国ニッポン
連続セミナー:第6回 アジアにおける結婚移住女性(9/16)
以下のとおり、連続セミナー第6回「アジアにおける結婚移住女性」が9月16日に開催されました。参加者は28名でした。
講 師:李 善姫さん
(東北大学東北アジア研究センター・教育研究支援者)
日 時:2017年9月16日(土)17:00〜19:00
会 場:在日本韓国YMCA 302教室
(東京都千代田区猿楽町2−5−5)
1)発表タイトル:アジアにおける結婚移住女性
−「他者化」と「不可視化」−
2)セミナーの主な内容は、以下のとおり。
アジアにおける結婚移住女性、特に、仲介や紹介で結婚移住する女性は、移民一世の中でも言語弱者・社会関係性弱者になりやすい存在だが、同時に、社会になかで影響力を発揮し得る存在でもある。
結婚移住女性を取り巻く現状から、日本の移民政策の問題点を明らかにし、多文化・多民族共生社会を醸成したい。
結婚移住女性をめぐる研究・視座は、大きく二つに分かれる。一つは、結婚移住女性の脆弱性を強調するもの、もう一つは、結婚移住女性の主体性を強調するものである。
ところが、前者は結果的に結婚移住女性を「他者化」するという批判、後者は「不可視化」するという批判がある。台湾や韓国の研究は、前者が多い。近年の日本では、後者の視点での研究が多い。結婚移住女性が自分の意志で結婚・移住を選択したことから、彼女らの脆弱性やニーズを見落としているという点で、問題がある。
台湾における結婚移住女性は、大陸配偶者と呼ばれる中国本土の女性から始まり、のちに東南アジア女性へとシフトしていった。
韓国では、昔から華僑移民が多かったが、90年代初めから、中国朝鮮族の結婚移民が入ってきた。のちに、ベトナムをはじめとする東南アジアにシフトしていった。
台湾・韓国の共通点としては、初期には同化主義的な政策をとっており、マジョリティ社会へ適応するための言語教育等の支援、国民を育てる者・ケアする者への支援を主にしていたが、やがて、多元主義的支援に移行し、国際結婚家庭の子どもに対する二重言語支援や、自助コミュニティへの支援をするようになっていった点。就職支援や自立教育支援も行っている。
日本への結婚移住は、農村地域の過疎化による嫁不足問題の解消のため、80年代頃から行政主導の国際結婚として始まり、90年代から斡旋業者や紹介による国際結婚が増えた。韓国、中国、東南アジアからの女性と日本の男性の結婚が主。
日本の結婚移住女性に関する結婚は、80年代末から90年代末には、仲介型国際結婚に批判的なものが主だったが、2000年半ばごろから、移住女性の主体性に注目する研究が増えてきた。移住女性の主体性だけを論じることで、問題が不可視化されている。東北の結婚移住女性は、本人だけではなく配偶者も経済基盤が不安定で、夫婦間の年齢差が高く、日本語能力がなかなか伸びず、乏しい社会関係の中にいるという状況。
移住女性の中には高いモビリティで「ライフスタイル移民」と化している者もいる一方、帰るところがない場合にはますます周辺化され、厳しい状況に陥っている。高齢化、精神疾患、貧困化の問題も出ている。
日本の結婚適齢期男性の人口減に伴い、結婚移住は減少傾向にある。しかし、結婚移住女性がおかれている問題を放っておくと、そのツケは次の移住者、次のマイノリティが負うことになる。
台湾や韓国において、結婚移住女性は「多文化社会」に必要な外国人のための法律と政策の策定に貢献した。日本では、結婚移住女性の問題を個人的な問題ととらえ、外国人に対する政策策定には至っていない。
日本では、移民政策がない中で、結婚移住女性の活躍や社会とのつながりも「個人の頑張り」によるところが大きく、「頑張っている人」だけにスポットライトが当たっている。日本的な内と外の考え方の影響かもしれないが、脆弱性のある人は他者化され、不可視化される。「できる人とのみ」共生するのではなく、同じ社会の構成員として共生するべきであり、社会的資源がない人をバックアップする社会システムが必要。
社会運動においても、日本は縦割りで個別に平等のために闘っているが、そうではなく、横の連帯をもって差別禁止法の必要性を訴えるなどが必要。韓国では、移住女性が差別禁止法を求める運動を行い、性的マイノリティと連帯している。
3)質疑応答の主な内容は、以下のとおり。
Q:韓国では就労支援に力をいれているという話があったが、具体的にはどのような職業が多いのか。
⇒ 一時期、バリスタが流行った。支援センターが、移住女性のニーズを聞いて、やりたいという希望にそって実施しているようだ。裁縫、パソコン、バリスタなど。介護は、朝鮮族の女性がシステムを牛耳っており、他国の移住女性は入らない領域。
Q:結婚移住女性との離婚率はどれくらいか。
⇒ 2015年に調査した時には、10%になったころで、国際結婚の離婚率が高いことが社会的問題となった。離婚後の滞在許可については、初めの頃は2年くらいで取れていたが、移住女性がいなくなる問題も出てきたため、厳しくなった。韓国の場合は、帰化しやすく永住しにくいので、帰化してしまう人が多い。帰化していなくても、家庭内暴力の被害にあうなど、自分に非がない理由で離婚する場合は引き続き滞在することができるし、韓国籍の子供がいる場合には、滞在でき、社会保障を受けられる。韓国に結婚移住している女性は若い人が多く、子供がいるケースが多い。
Q:韓国の国際家族に対する支援の対象として、外国人同士で結婚した場合は含まれるのか。
⇒ 支援センターの所長の裁量によるところも大きい。支援がシステム化したことにより、厳しくなってきた。IMF時代に、健康家族支援センターと多文化家族支援センターができたが、今、統合の議論が出てきている。これまでは、韓国人と外国人が結婚した場合を「多文化家族」としてきたが、帰化した人も含むようになってきた。
Q:先ほど、移住女性と性的マイノリティの連帯の話があったが、日本も学ぶところが大きいと感じた。
⇒ 日本は政策を分割し対象を限定することで、連帯を阻んでいるようにも感じられる。障がい者、性的マイノリティ、移住女性等が、一緒に声を上げることを、韓国では社会が受け入れている。横の連携がなければ、差別撤廃等は成功しない。
4)移住連から、次回セミナーのお知らせと、刊行物の案内があり、閉会
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