2017年10月26日19時24分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201710261924574
コラム
保守と革新 言葉の定義に混乱がある 欧州には「プログレッシブ」(進歩主義)という言葉がある。
今、保守と言う言葉がカッコいい傾向があるらしく、自民党支持者でも立憲民主党支持者でも保守をアピールしている人が少なくない。そして、むしろ、リベラル派が自らを保守と位置付けて、安倍政権を革新だと言っているようである。安倍政権が革新だという根拠は戦後70年以上続いてきた日本国憲法を一新して新しい国に作り替えようとしているからのようだ。これはこれで筋が通っているようにも感じられる。
しかし、すんなりと納得ができない。一例をあげると、自民党幹部の萩生田光一氏が日本会議のウェブサイトに「入会直後直面した、『行き過ぎたジェンダーフリー教育、過激な性教育』対策では日本会議の識者の先生方の後押しもいただき、党内でも問題を喚起し、ジェンダーの暴走をくい止め、正しい男女共同参画社会へと路線を変更する事ができました」と書いていた。「行き過ぎたジェンダーフリー教育」というのは男女平等の教育が行き過ぎたという意味だろう。それを食い止める、というのだから、私の言語感覚では「保守」になる。革新ではありえない。そして、自民党が平成24年に提示した改憲草案では家族の価値の復活を提案しているのであり、萩生田氏が考えているように、まさに「行き過ぎたジェンダーフリー教育」をやめる方向性にあり、それらは一体化しているものだ。
そもそも日本は男女の平等を憲法で保障した戦後にあっても男女間の差別がなくなったとは未だに言い切れない。日経新聞の今年の記事によると、フルタイムで働く日本の男女の賃金格差は27%、つまり仮に男性が30万円の収入だとすると女性は約22万円ということになる。今でも差別解消の途上にあるのである。離婚して子供を育てている多くの母子家庭の生活を取ってみてもよいだろう。「昔はよかった、だから保守」と言っていられる人々の多くは男性なのではなかろうか。
自民党にとって改憲はそもそも党の設立からの悲願であり、戦前の日本国家をよしとする復古主義的な自民党は保守政党だったし、ずっと戦後を通して保守と表現されてきた歴史があるのだ。政治の歴史を長い目で見れば宗教から政治権力が独立し、個人の自由が伸長し、人権がより認められる方向で動いてきた。女性の権利が低かったのも多くの場合、宗教上の理由だった。時どきに宗教原理主義が復活して神権政治を行うこともあるが、大局的に見れば個人の自由と権利の進展を勝ち取ってきた歴史であり、そのような方向性は欧州ではプログレッシブ(progressive) と呼ばれ、進歩的な立場ということになる。これは保守という意味ではない。進化していく立場であり、漸進的な進化もプログレッシブに入る。逆に革命的な急激な変化を求める人々はラディカル(radical)と呼ばれているのだ。英国の左派は伝統的にラディカルな革命は求めず、少しずつ資本主義の問題点を改革していこうという修正資本主義の立場を持っているが、これはプログレッシブということになる。だから、男女の同権や性的マイノリティの尊重、格差の是正、環境保護といった課題を少しずつ前進させる立場は、人類を進化させる方向性を持つと考えればプログレッシブだということになる。
※神権政治(しんけんせいじ、ギリシア語:
θεοκρατια,英語: theocracy シオクラシー)または神政政治、神聖政治(しんせいせいじ)とは、国家の政体の一種。特定宗教を統括する組織と、国家を統治する機構が実体的に同等な場合。(ウィキペディアより)
村上良太
■共産党は「保守」政党なのか?
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710241802192
■保守と革新 何が革新で何が保守なのか?
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201606200440541
■リベラル保守とフランス革命
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711062249021
■保守主義のバイブル 「フランス革命の省察」 下僕と王と貴族と Reflections on " Reflections on the Revolution in France"
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710271548505
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。