2017年10月27日15時48分掲載
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政治
保守主義のバイブル 「フランス革命の省察」 下僕と王と貴族と Reflections on " Reflections on the Revolution in France"
最近の保守主義を崇める論客たちが推奨するのがエドマンド・バーク著「フランス革命の省察」である。この本を書いたエドマンド・バーク(1729 - 1797)は英国人の貴族であり、言うまでもなく身分制社会を肯定する立場である。そこから、自由・平等・博愛の理念を掲げたフランス革命を徹底批判したのが「フランス革命の省察」である。本を自分の手で紐解いてみればわかるが、貴族らしい遠回しな表現にあふれていて、ジョン・ロック(1632 - 1704)の「統治二論」と比べれば格段に読みづらい。それでも我慢して読んで見ると、書かれているのはねちねちとしたフランス革命への批判であり、身分制社会の肯定である。たとえば次のような文章である。
「下僕たる身分の本質とは、誰か他者の命令に服従し、その意のままに追い払われるところにあります。しかしイギリス王は誰にも服従しません。彼以外のすべての人間は、個人としても団体としても彼の下にあり、彼に対して法的服従義務を負っています。法とは本来阿諛することも侮蔑することも知らないものですが、その法は、この高貴な権力者を目にして我が至高の君主なる王〜この謙虚めかした神学者のするように、我が下僕、ではありません〜と呼んでいます。我々の方は我々の方で、昔からの法の言葉を口にするのを学んではいても、彼ら神学者のバビロン的説教台からの支離滅裂な囀りなど学んではいません。
彼の方で我々に服従すべきではなくて、我々の方で彼の中に体現される法に服従すべきなのですから、我が憲法は彼について、如何なる程度においてであれ責任を負わされた下僕とする規定のようなものは何一つ設けなかったのです」
つまり、エドマンド・バークは民衆が君主に服従するのが当たり前であり、君主が民衆の下僕になるようなことはありえない、と言っているのである。これは立憲主義の立場から見てどうなんだろうか。バークは君主の中に法が体現されている、ということを自明のこととしているのである。これは憲法とは権力者を縛るものである、という立憲主義の考え方と逆なのではないだろうか。日本でバークの本書を盾に保守主義を称揚する人々は立憲主義なのか。「フランス革命の省察」は人民主権の考えを否定するがゆえに保守派から長年、尊重されてきた本なのではないのだろうか。バークの発想は平成24年版の自民党改憲草案によく似ているとさえ言えるだろう。
さらにエドマンド・バークは自らの階級である貴族制度を批判する人々を徹底批判するのである。
「貴族に対するこうした激しい非難の声は、すべて故意に作り出されたものに過ぎないと私は思います。法や世論や自国の長年の慣習〜この慣習は幾時代にも及ぶ偏見の中から育って来るのです〜などによって名誉を与えられたり、また特権すら与えられたりするのは、誰にとっても恐怖や憤懣を挑発する事柄ではあり得ません。そうした特権に固執し過ぎることでさえ、絶対的に罪であるとは言えません。各個人が、自分に帰属し、かつそれこそが自分を他と区別すると考える事柄の所有を維持しようと力強く闘うことは、不正と専制を免れるための保障の1つであり、我々の安定した状態に維持する本能として作用します。そこに何か人を不快にさせるものでもあるでしょうか。貴族は文明ある秩序という柱式の優雅な装飾です。洗練されたコリント風柱頭です。」
「洗練されたコリント風柱頭」とは何とも貴族とはいいものだ。ここでバークは貴族が特権を持っていることは正当なことであり、このことが貴族たちの社会の安定を保障するものであり、平民たちに譲り渡すことなど到底できるものではない、と言っている。
一度でも自分でこの本を読めばわかるが、バークは少年時代にフランス皇后に謁見した時のあふれるような感動を語り、宗教が社会にとって一番大切だと語り、貴族社会を肯定し、王を崇め、市民革命を徹底批判している。「フランス革命の省察」は貴族の思いを一方的に吐露した本である。そして本書こそ保守主義者のバイブルなのである。バークは日本で言えば日本会議に極めて近い主張をしているのではなかろうか。逆にこうも言えよう。日本会議は日本独自の組織のように見えるが、案外と保守主義の国際標準に近いのではないか、と。フランスではかつての王党派であり、現代の国民戦線である。サウジアラビアの王族にも受けるだろう。日本人が現代文明を反省して、18世紀からもう一度やり直したいと思うのであれば「フランス革命の省察」を片手に改憲してみるのもよいだろう。
※みすず書房「フランス革命の省察」を参照した。
村上良太
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