2017年10月29日16時00分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201710291600390
みる・よむ・きく
「読書三昧」 〜伊藤詩織さんの著書『Black Box』を読む〜 森まゆみ (作家、エッセイスト)
ただいま読了。記者会見も見ました。詩織さんに連帯します。伊藤詩織さんはアメリカで勉強した20代のジャーナリストで、2015年に帰国してロイターでインターンをしていた時、TBSのワシントン支局長だった山口敬之氏に就職の相談をして、ワシントン支局でポストをあたえるかのような回答を得たため、ヴィザの相談のつもりで、山口氏と二つの店をはしごしました。その後、シェラトン都ホテルに連れて行かれ、暴行を受けたと言います。
山口氏も認めていますが、1、性行為はあった。2、詩織さんは泥酔していた。さらに3、詩織さんは何度も近くの駅で降ろしてくださいと言ったとタクシーの運転手が証言している。4、ホテル内に引きずられている詩織さんがホテルの監視カメラに映っている。5、ホテルの従業員も見ている。
泥酔、嘔吐している女性に同意が示せるわけはない。就職の相談に来て、泥酔、嘔吐している女性を病院でなく、ホテルに連れていくのはおかしい。迷惑なら、交番に連れて行けばいいと思う。これが強制性交に当たらないという論理は成り立ちません。しかしその後、詩織さんが病院や警察、さらにマスメディアから受けた無理解と孤立感は大変なものでした。
ようやく警察が逮捕状を請求し、裁判所が認めたのに、成田空港での山口氏逮捕が行われなかったのは、当時の中村格刑事部長の一存だそうです。その中村氏は週刊新潮に対し「女も就職の世話をしてほしいという思惑があるからついていったのであって、所詮男女間の揉め事、2軒目の店にもついて行ってるんだからさ」などととんでもない発言をしていますが、これは女性全体、そして品格ある男性たちへの侮辱以外の何者でもありません。こういう人物が、刑事捜査の責任と判断を任されていることは驚きです。
2人きりで飲んだり食べたりすることが「その後の性交への同意」なら、男女間の友情など存在しえません。さらに、不起訴になった。このことに安倍首相のお友達である山口氏をかばうために何らかの政治的な圧力があったのか、徹底的に明らかにしてほしいものです。
記者会見で外国人ジャーナリストの「この件を日本の女性に話してみるがシンパシーがない。慰安婦問題にしてもそうだ」という発言に、私はズキンと痛いところを突かれました。「いやよいやよはいいのうち」とか、女性だけに責任を求める「枕営業」と言った偏見をこの際、徹底的に打破しなければなりません。
幸い、私はレイプされたことはありませんが、20代でようやく出版社に勤めた時、社長には、触られ、キスされ、手を握られ、抱きつかれました。「女性社員は皆自分の女」とでも思っているようでした。でも男女雇用均等法以前で、私はやっと得られた職場を失いたくはなかった。さらに当時セクハラという言葉はなく、私は一人で悩み、親にも言えませんでした。この社長は私だけではなく、他の女性社員にも同じことをしており、出るところへ出たら、かつての仲間は証言してくれると思います。でももう時効かもしれません。このことは40年間、忘れたいという思いだけで、口にしたことはありませんでした。
性犯罪に時効はありません。被害者には長い間トラウマで残ります。被害者が口を開くのには長い年月がかかります。詩織さんに対して、2年も経ってなぜ今、などという人がいるようですが、彼女が名前も顔も晒して記者会見もした勇気を讃えたいと思います。思い出したくない辛い経験でも、みんなで話して詩織さんに連帯しましょう。「me too」ということが支援にもなり、アメリカのように、セクハラ大物プロデューサーでもハリウッドから永久追放できるのです。そして、女性を大切にする男性たちもぜひ、連帯を。自分の意思に反して何事も強制されない社会を作るために・・・・。
森まゆみ (作家、エッセイスト)
「暗い時代の人々」「子規の音」など多数の本を執筆。地域雑誌「谷中・根津・千駄木」(谷根千工房)を創刊し編集するなど、新しい出版活動を行ってきた。
※森さんのFacebookでの書評から許可を得て転載させていただきました。
■伊藤詩織さんの外国人記者協会での記者会見 レイプされた体験と日本の警察・司法への疑問を世界からの記者団に告発
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201710242100452
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。