2017年11月08日23時13分掲載  無料記事
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移民大国ニッポン

移住労働者を苦しめる労働現場の差別・排外主義

 2007年に設立されたAPFS労働組合には、これまで10年間で約500名のニューカマー移住労働者(外国人労働者)が加入し、労使紛争を闘ってきた。 
 彼/彼女らの出身国はアジアおよびアフリカ諸国が多い。現在はミャンマー(ビルマ)を筆頭に、エチオピア、パキスタン、バングラデシュといった国々からやってきた組合員で構成されている。 
 
<度を越した差別・排外行為> 
 
 使用者側は、多くが中小零細の製造業、サービス業である。こうした企業では「労使対等の原則」が日本人労働者に対してすら守られているとは言えない。移住労働者に至っては「使い捨ての労働力」として酷使されるケースが未だ多くを占めている。 
 移住労働者の労使紛争においては、ほとんどが使用者や上司、さらには日本人同僚による有形、無形の差別・排外主義が要因となっているのは間違いない。例えば、時間外労働や深夜労働、休日労働割増賃金の未払い、年次有給休暇の未付与、あるいは社会保険・厚生年金への未加入。これらは移住労働者が労働基準法や厚生年金保険法に通じていないことに乗じて行われるケースが多い。一方で、同じ事業所内の日本人労働者に対しては、それぞれの法令を守っていることが少なくないのだから、やはりそこに外国人差別があるのだろう。 
 
 露骨な差別言辞やパワーハラスメントも少なくない。「お前は仕事ができないな。○○(出身国)へ帰れ!」「言っていることがわからないのか。日本語くらい話せるようになってから日本に来い!」。 
 言葉だけではない。暴力も珍しくはない。業務でミスをすると頭を小突く、足を蹴飛ばす、服をつかんで乱暴に揺する等々。 
 このような度を越した行為は、日本人労働者に対しては、まずできないであろう。相手が、反抗することなく、どこにも訴え出ることができないアジアやアフリカの「ガイコクジン」だと思っているからこそ、平気でなせるわざなのだ。 
 
 移住労働者に付き物と言えるのが、正当な事由のない“不当解雇”である。使用者の気に入らぬ者、ほんの数日間でも欠勤した者、売り上げが下がった場合(無論「整理解雇4要件」など満たしていない)など、首を切られるのは、正規・非正規を問わず、日本人労働者ではなく、移住労働者である。 
 日本人労働者の雇用を守ろうという意識はかろうじてあったとしても、移住労働者に対しては別である。「明日から来なくていい」と即日解雇を平気で言い渡すのだ。移住労働者にも家族があり、守らなければならない生活があることには思い至らないらしい。そこには差別と排外主義が露骨に存在している。 
 
 最後に、なによりも移住労働者を苦しめる外国人差別を挙げる。それは“労災隠し”である。「労働基準監督署に睨まれるのが怖い」「外国人雇用状況届出(移住労働者の雇入時、離職時にはハローワークに届出なければならない)をしていないのがバレたらまずい」といった理由もあろうが、それよりも使用者側に「何よりも安く使える労働力であったはずの移住労働者から損害賠償請求されると困る」という思いがあるのだ。 
 製造業や建設現場では、時として重大な労働災害事故が発生する。プレス機による指の切断や、高所から落下しての受傷、現場で特殊車両に巻き込まれる事故等々。重篤な状態となり後遺障害が残るのは、よくあるケースと言ってもよい。 
 そして移住労働者の労災案件は、ほぼ全て使用者側に非の一端があると言えよう。生産効率を上げるためにプレス機の安全装置をあえて外していたり、ヘルメットや安全帯等の必要な装具を使用させなかったり、日本語を十分理解できない労働者に身振り手振りの指示だけで危険な作業をさせたり…。受傷した移住労働者は、使用者側による故意・過失の不当行為や安全配慮義務違反による債務不履行の損害賠償を請求できる立場にあることがほとんどだ。 
 しかし、使用者側は抜け目ない。後々請求されるであろう高額の損害賠償を避けるため、療養費と休業補償と、いくばくかの見舞金を支払うことを条件に、労災申請をしないよう移住労働者を説得する。その結果、後遺障害が残ったとしても、損賠どころか、障害支給金も障害特別一時金も給付されないという羽目になる。他方で、使用者・企業は大して腹を痛めずに済み、民事での責任から逃れることができる。このようなことが、実際にまかり通っているのだ。 
 移住労働者を巡る労働環境。そこには信じがたい外国人差別と排外主義があることを是非知ってもらいたい。そして、移住労働者を苦しめ、泣かせているのは、特別な悪人ではなく、この社会のどこにでもいて、事業を営む普通の「日本人」であることを直視していただきたい。(APFS労働組合 執行委員長 山口智之) 
 
※ 差別・排外主義に反対する連絡会 発行 
『Milestone(里程標)』8号(2017年11月8日発行)より転載。 
 
差別・排外主義に反対する連絡会ウェブサイト http://noracismnodiscrimination.blogspot.jp/ 
APFS労働組合ウェブサイト 
http://apfs-union.org/ 


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