2017年11月26日13時48分掲載  無料記事
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中野晃一著 「右傾化する日本政治」  新右派転換とは何か。

  市民連合での活躍でも注目されている気鋭の政治学者、中野晃一氏が書き下ろした「右傾化する日本政治」は憲法を軽視する今日の安倍政権を極右政権の特殊な一時期、と言う風にとらえず、80年代の中曽根政権から続く長いトレンドの一局面であると見る見方を伝える書です。そのトレンドを「新右派転換」と中野氏は呼んでいるのです。そしてこの新右派転換を促進したのが小選挙区制度でした。 
 
  新右派転換が何かについては、本書の冒頭で中野氏が説明しています。イメージとしては政治は振り子が左右に揺れるように時代によって揺れるものの、新右派転換が起こっている今、振り子の振れ幅が右に大きく揺れた後、左に十分戻らず、さらに振り子の支柱自身が少しずつ右にずれていく形で地滑り的に右に動いていくのだ、と言います。つまり、80年代の末に一時的に社会党が勝利したり、2009年に民主党政権が生まれたりした現象を振り子の左への揺り戻しの局面だとしても、その時、十分に振り子は「左」に戻らず、結果的に支柱自身が右に移動して、さらなる右傾化が起こっていった、というのです。この新右派転換の過程で、日本の政治自体が質的転換を遂げてきたと見ます。大きな右傾化の要素として新自由主義化とそれによる格差の拡大、軍国主義化、そしてナショナリズムがあります。新自由主義におけるグローバリゼーションとナショナリズムの勃興が一見、矛盾するかのようでいて、実際には互いに補完的な関係になっていることが重要です。個別具体的な時々刻々とした詳細は本書に書かれており、この詳細の部分が非常に参考にできて興味深いものです。 
 
  一番注意すべき点は安倍政権がアメリカに従順であることから右左を問わず多くの人の怒りを呼んでいますが、新右派転換のモデルによれば安倍政権の次に微弱な左への揺り戻しがあったとしても、その次にさらなる本格的な右翼政権が登場する可能性があるということです。そしてこの右翼政権は新右派転換モデルに当てはめると、右翼は右翼でありながらも安倍政権からさらに一皮剥けて変質している可能性があります。 
 
  今のまま新右派転換を続けたなら、安倍政権が日本国憲法を廃棄させ、様々な民主的な制度を廃棄し終わった時点で、民族派の極右政権が生まれる可能性があるということです。基本的人権の保証がなくなり、国家を守るためなら人権も犠牲にすべし、という制度設計に転換した時点で反米・反中を基軸とする極右政権が生まれたなら、まさに戦前と同様の事態に発展しかねません。最悪のケースは日米間の核戦争かもしれません。中野教授はそこまで未来予測的なことは書いていません。しかし、今、安倍首相をアメリカの犬だ、という風に笑い、風刺するうちにアメリカに対する怒りや憎悪が水面下に蓄積され、未来の極右政権を生む心理的な土壌になっていく可能性は十分にあるのではないでしょうか。 
 
  なんとなくこれまでに漠然と不安に感じていたものの、なぜそうなのか、わからなかったことを、長期的なモデルを立てて説明してくれた本です。その意味でも本書はこれから先を見通す上で、非常に有益かつ刺激的な本だという風に感じました。 
 
 
村上良太 
 
 
■野党共闘を考える 市民連合の中野晃一教授(上智大学)に聞く その1 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201711080022143 
 
■自民党憲法改正案「第十三条 全て国民は、個人として尊重される」(現行) ⇒「第十三条 全て国民は、人として尊重される」(改正案) 個人と人の違いとは? 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201509172355524 
 
■日本の司法は独立を保てるか? 最高裁判事が全員、安倍首相の応援団になる日 自民党改憲案の真の怖さ 
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■労働組合と安保関連法制 ドイツ労働戦線(DAF)と産業報国会 ドイツでは労組がまず解散させられた 
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■政治を考える 辻元清美氏に聞く リベラルが政権を担う日   その1 
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■野党共闘を考える 共産党幹部・植木俊雄氏に聞く 共産党はどのように共闘を決め、どのように進めてきたのか その1 
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