2017年11月28日21時05分掲載  無料記事
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検証・メディア

日米首脳会談 安倍とトランプの蜜月関係ばかりを強調して政権を応援するNHKニュースウォッチ9   Bark at Illusions

 核・ミサイル開発を続ける朝鮮に対しては軍事力の行使も排除せず、圧力強化で臨むことを確認し、日米の貿易問題については日本が合衆国からのさらなる軍事装備購入を約束した日米首脳会談。NHKニュースウォッチ9(17/11/6)は、安倍晋三総理大臣とドナルド・トランプ大統領の会談についてほとんど批判することなく、安倍とトランプの蜜月関係ばかりを強調している。 
 
 とりわけニュースウォッチ9が強調しているのは、安倍とトランプの会食についてだ。番組冒頭から、 
 
「互いをファーストネームで呼び合う日米両首脳。2人の食事会は昨日から今日まで4回。共に過ごした時間は合計9時間以上。親密ぶりを強くアピールしています」 
 
と紹介。そして来日以来のトランプの動きを伝える中で、 
 
「2人が見せつけた親密な関係といえば、昨晩、両首脳がそろって味わったというステーキのように、熱々といったところでしょうか」 
 
と言って、安倍とトランプが会食した都内の高級鉄板料理店を取材し、 
 
「店長が特に印象的だったというシーン……トランプ大統領が左隣に座った安倍総理大臣により近づこうと、皿の位置をずらしたというのです」 
 
と親密ぶりを強調。さらにスタジオでトランプのスケジュールを参照しながら、安倍とトランプの親密ぶりを確認している。 
 
アナウンサー・桑子真帆:「とにかくこの2日の(トランプの)日程を見ますと、安倍総理大臣との時間を大事にしたスケジュールのように見えますね」 
キャスター・有馬嘉男:「その象徴ともいうことができるのが……食事なんです。今日の朝食を除くと、日本では全て、食事は安倍総理大臣とトランプさん、一緒にしていることが分かります」 
 
 他にもゴルフ場でのシーンや、安倍と大統領夫人・メラニアとのエピソードなどを紹介して、安倍とトランプの蜜月関係ばかりを強調している。 
 
 ところで、安倍とトランプの蜜月関係はどのように築かれたのだろう。この1年を振り返ると、2人の蜜月関係は、媚と国民の犠牲の上に築かれていることがわかる。 
昨年11月、ドナルド・トランプの大統領当選が決まると、安倍晋三は直ちにゴルフクラブを手土産に持参してトランプ邸を訪問した。トランプの選挙期間中の人種差別的・排外的な演説や、地球温暖化対策など国際的な協力が必要な課題にも背を向ける姿勢などを理由に、各国首脳が敬遠する中での電撃訪問だった。 
 今年2月の日米首脳会談では、共同声明で「日本は同盟におけるより大きな役割および責任を果たす。日米両国は、引き続き防衛協力を実施し、拡大する」と明記し、共同会見で安倍晋三は「(日本は)大統領の成長戦略に貢献できる。米国に新しい雇用を生み出すことができる」と述べている。 
 日本が「同盟におけるより大きな役割および責任を果たす」とは、現在NATO加盟国がイラクやアフガニスタンなどでやっているように、日本が合衆国の侵略戦争のお手伝いをすることを意味する。そのための法的な準備は、安倍晋三が合衆国政府の要望に応えて国民の反対を顧みず強硬に成立させた“安保法制”などによって既に整っている。 
 また「大統領の成長戦略」への貢献については、日本が合衆国のインフラ整備に4500億ドル(約51兆円)の資金を拠出し、70万人の雇用を生み出すとの考えを日本政府は表明している。その手法については「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が米国のインフラ事業に投資することなどを通じ、米で数十万人の雇用創出につなげる。対米投資などで米成長に貢献できる考えを伝え、トランプ政権との関係強化につなげる」(日経17/2/2)とも報道されている。 
国連では、総会の演説で2500万人が住む朝鮮を完全に破壊すると暴言を吐くトランプに対して各国代表から非難の声が上がる中、安倍はトランプを全面的に支持すると表明し、自国民ではなく合衆国政府の意向に従って核兵器禁止条約に反対し、核保有国に寄り添った誠意のない核廃絶決議案を提出して核廃絶を目指す多くの国の国民からひんしゅくを買っている。 
 
 今回の首脳会談直前には、トランプの長女で大統領補佐官のイヴァンカが設立にかかわった基金に日本が57億円を拠出することを表明。そして会談では、冒頭で述べた通り、朝鮮に対して軍事力の行使も含めた圧力強化で臨むことを確認し、合衆国の対日貿易赤字削減と雇用創出のために日本が合衆国から軍事装備を今後さらに購入することを約束した。 
 朝鮮の問題に関しては、安倍もトランプも日本の拉致被害者救出のために全力を尽くすと言っているけれども、圧力ばかりでどうやって被害者を救出するのだろう。朝鮮に対して圧力を強化すれば、拉致されている日本人も苦しむことになるのではないか。そして合衆国が朝鮮に対して軍事力を行使するようなことがあれば、救出はさらに難しくなるのではないだろうか。また、朝鮮戦争が再開した場合の被害については、どの試算も東アジア(もちろん、日本も含む)で百万単位の市民が犠牲になると推測している。国際社会(国連安保理決議も含む)が朝鮮の核・ミサイル問題の対話による平和的な解決を求めている時に、そしてその可能性が十分にあるというのに(日刊ベリタ17/10/16)、軍事力の行使も辞さず圧力強化を確認するとは、あまりにも愚かで無責任だ。 
 
 合衆国からの軍事装備購入については、軍事費が増大すれば、社会保障費のさらなる削減など、日本国民の生活にそのしわ寄せがいくことになる。 
 また、今回の会談では日本側が合衆国側の要望を満たしておきながら、日本の国民の生活や安全を守るために解決しなければならない喫緊の課題──危険性が指摘されているオスプレイや、先月の米軍ヘリ墜落事故で改めて浮き彫りになった日米地位協定の弊害(米軍が現場周辺の土壌も含めて証拠物品を持ち去ったため、日本の当局は捜査できなかった)など──については、「米軍の訓練について沖縄などの地元に目的などを周知することで『安全に対する懸念を軽減する』ことを再確認した」(琉球17/11/7)以外、何ら対応策が示されていない。安倍晋三はおそらく、オスプレイの飛行中止や日米地位協定の見直しなど要求すらしていないだろう。逆に会談で辺野古新基地建設が「(普天間)飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることを確認」して沖縄の民意を逆なでしている。そして日本政府は首脳会談と同じ日に、辺野古新基地建設のための新たな護岸工事に着手している。 
 
 ニュースウォッチ9は会談についてほとんど批判することなく、安倍晋三の対米外交のこうした側面についてもほとんど言及していない。ニュースウォッチ9が唯一批判的な見解を伝えたのは、キャスターの有馬嘉男が「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプに「日本が追従していく」ことに疑問を呈した場面だ。しかし、解説のNHK政治部官邸キャップ・原聖樹は 
 
「2人が親密な関係を維持する中で、アメリカ軍と自衛隊の連携も今進んでいますので、アメリカの戦争に日本が巻き込まれるのではないかといった懸念も出ているのは、間違いないと思うんです。ただ政府内では、首脳間の強固な信頼関係、これは歓迎する声が大勢と言っていいと思います。といいますのは、例えば国際会議、G7サミットですとか、G20サミットなどで日本の主張を議長声明などに盛り込もうとしても、かなり苦労することが多いのですけれども、日米の連携がうまくいっていますと、かなりスムーズにいくケースが、まま見られるんです」 
 
と言って、安倍晋三の対米追従外交を肯定している。 
 安倍晋三が合衆国からのさらなる軍事装備購入を明言したことについては、今回の会談でトランプに対日貿易赤字の削減や二国間の自由貿易協定の交渉を要求させないためのものだったとして、むしろ成果と捉えている。 
 
 ニュースウォッチ9が会談についてほとんど批判することなく安倍とトランプの蜜月関係を強調するのは、森友・加計問題や国内政策で人気が低迷している安倍政権の支持率回復を図る狙いもあるのだろう。 
 しかしNHKは「公共放送」として、テレビのある各家庭から半ば強制的に集めた受信料で成り立っている放送局だ。 
N HKは、自身のウェブサイトの「よくある質問集」で「公共放送」について、 
 
「……一般的には営利を目的として行う放送を民間放送、国家の強い管理下で行う放送を国営放送ということができます。これらに対して、公共放送とは営利を目的とせず、国家の統制からも自立して、公共の福祉のために行う放送といえるでしょう」、 
 
 NHKが受信料を取る理由について、 
 
「公共放送NHKは、“いつでも、どこでも、誰にでも、確かな情報や豊かな文化を分け隔てなく伝える”ことを基本的な役割として担っています。そして、その運営財源が受信料です。NHKが、特定の勢力、団体の意向に左右されない公正で質の高い番組や、視聴率競争にとらわれずに社会的に不可欠な教育・福祉番組をお届けできるのも、テレビをお備えのすべての方に公平に負担していただく受信料によって財政面での自主性が保障されているからです」 
 
と説明している。 
 国際的にも合衆国国内でも評価されていないドナルド・トランプのご機嫌を取るために大多数の日本国民を犠牲にしている安倍晋三を批判することなく、ひたすら安倍政権を応援するニュース番組を放送するのであれば、私たちがNHKに受信料を払う必要はない。そしてNHKは「公共放送」と名乗るのもやめるべきだ。 


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