2017年12月17日13時27分掲載
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文化
「嬬恋村のフランス料理」23 煮込み料理に寄り添う、冬のバターライス 原田理(フランス料理シェフ)
フランス料理での米料理と言うとイメージしにくいかもしれませんが、米はフランスでは野菜の一部としてよく食べられている食材です。今回はその中でも我が家でよく登場するバターライスのお話です。
日本人にとって米は非常に重要な食材で、日本人の魂と言っても過言ではないように思います。フランスではパンがその位置に該当するとは思いますが、米も比較的良く食べる食材です。もちろん日本人のように銀シャリの炊き立てを楽しむのとは少し趣向が違いますが、なんにせよ重要な炭水化物の位置を占めています。
フランスのレストランで米が皿を彩っているパターンはと言えば、バターライスに仕立てて煮込み料理に添えられているものでしょうか。高級店ではそうそうないですが、町のビストロや学校の食堂などではよく見る仕立てです。日本人がカレーライスにあわせる白米にもっちりとしたご飯ではなく、すこしぱさついたような、はらはらとした米を求めることが多いように、彼らも煮込み料理の美味しいソースにバターライスを合わせて食べる喜びはわかるものです。
我が家でも寒い冬の食事と言えばバターライスを使った料理が候補に良く上がります。単に僕が好きなだけかもしれないのですが。鶏でも豚でも牛でも羊でも、煮込み料理にはバターの香りと脂肪がたっぷりと効いた熱いライスが良く合います。それもあっさりと煮込んだブイヨン系の煮込みではもの足りなく、クリームをたっぷりと使った冬の煮込みのときに、よく併せて作り、食べています。炊いた単なる白米でなく、米にバターを吸収させて炊き上げ、冷めにくい様に濃度を高めた肉の煮込みに添え、たんぱく質、糖質、脂肪を同時に手軽に取る方法は、ヨーロッパ、ロシアなど、冬が厳しい地方の人々が取り入れてきた、先人の知恵というものでしょうか。
冬に頻繁に作る煮込み料理の代表と言えば、若鶏のクリーム煮込みでしょうか。銘柄には特にこだわらず、ブイヨンと野菜でこっくりと煮込んだ鶏に、炒めた茸や野菜、クリームを入れて仕上げるこの料理は、嬬恋が真っ白の風景を見せている間に何度もつくる我が家の定番料理、妻にとってはおふくろの味ならぬ、ダンナの持ち味と言ったところです。妻からのこの料理へのリクエストも多く、都度入れる肉、野菜や茸の種類を変えたり、色合いを変化させたりしますが、付け合せのバターライスは欠かせたことが無いように思います。そんないくつか煮込み料理のバリエーションの中から最近作った煮込みのお話を少しだけ。
最初にお話した鶏のクリーム煮込みが一番食べることの多い我が家の冬の煮込みですが、最近は昔と比べると、仕立てが変わってきました。数年前までは鶏をフライパンなどで焼かずにぶつ切りにしたものと、人参、玉葱などの香味野菜を水から煮出して真っ白な煮込みを作っていました。素材に焼き色をつけないことであっさりとした真っ白な煮込みになります。この方法だと白く綺麗に仕上がりますが、ベースとなるブイヨンの旨みが相当濃くないと仕上がりの旨みがぼやけてしまいます。出汁を煮詰める時間も含めるとかなり時間を要すので、遅い時間の食事には無理が出てきました。そこで最近は鶏肉や茸、玉葱などを一度しっかりと焼き色をつけて、少なめの濃い目の出汁でさっと煮る方法に変えました。仕上がりは少し茶色くなりますが、この方法だとうまみを濃く感じますし、香りも強く出るような気がしています。もちろん付け合せのバターライスは変えません。
もうひとつ煮込み料理を紹介するとしたら、それはビーフストガノフ。嬬恋同様に寒いロシアの伝統的な煮込み料理です。細く切った牛肉をパプリカ風味で焼き、玉葱、にんにく、若干のトマトなどとたっぷりのサワークリームで煮込む料理です。発案者がはっきりしない、諸説あるこの料理ですが、ルーツがあいまいでも美味しい煮込みであることには変わりがありません。サワークリームを常備していない我が家では少量のヴィネガーを加えることで本家のような風味を出すようにしています。少し酸味のあるこの煮込み料理は、深めのフライパンででも手軽に作れる煮込みで、バターライスとも相性がよいのです。
美味しいバターライスを作るときのコツは炊く時にベイリーフの葉を入れること、ごくごくわずかな塩味をつけること。こうすることで線香のような香りが米につき、そこはかとない風味と味が米につくのです。
まずは米を洗ってざるの取って水気を切り、みじん切りの玉葱と米をバターでじっくりよく炒めて水を加えたら、ベイリーフの葉を直火で焼いて少し焦がしたものを入れます。炊飯器を持たない我が家ではこのあとオーブンで炊きますが、家庭で作る場合は玉葱少量と米を炒めて、ベイリーフを入れたあと、炊飯器に移して白米と同じ分量の水を加えて炊くのが手軽で楽です。
どんなときもバターライスは冬の我が家の供。窓に露がつき、クリスマスツリーの柔らかい光の中、ほくほくと食べる濃度の高い煮込みと鼻腔をくすぐるベイリーフの香りのバターライス。冬の夜の一番の楽しみでしょうか。
※ベイリーフ
ローリエとも呼ばれる。月桂樹の葉を乾燥させた香辛料
原田理(おさむ) フランス料理シェフ
( ホテル軽井沢1130 )
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ)
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