2018年01月04日14時12分掲載  無料記事
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文化

[核を詠う](253)遠藤たか子歌集『水際(みぎわ)』から原子力詠を読む(2)「放れ牛に草を喰ませる除染法おそろしここまで来たるにんげん」 山崎芳彦

[お詫びとお願い:前回(252)につきまして、掲載時(12月31日午後1時)から1月1日午前10時までの時間帯の記事に全文を掲載出来ませんでした。その時間帯にお読みいただいた方にはこのページ右に表示の核を詠うをクリックして「核を詠う(252)」を検索いただき、全文をお読みいただければ幸いです。お詫びしてお願いいたします。筆者]。前回に続き、遠藤たか子歌集『水際』から原子力詠を読み続ける。 
 
 歌集『水際』の帯文に歌人の今野寿美氏が、歌集中の作品「原発はなぜ反対をしなかつた?被災地の『被』をけふは問はるる」を挙げながら、「虚しく、無意味であることは自明なのに、これほど残酷にひびく問いはない。天災も事故も過酷だが、人の心もまた冷酷だ。/遠藤たか子さんの淡々とした語りを追い、なかなか目をあげることができなかった。」と記している。 
原発事故の被災者、福島の人々に、なぜ原発を受け入れたのか、反対しなかったのかなどと言うことの残酷さ、核災害を他人事とする冷酷さは必ずしも特別な人びとのものではない。国策としての原子力社会推進が、この国の人々に何をもたらしてきたか、どのような現在があるのか、さらに未来を招こうとしているか、わが事として自らに問いかけなければならないだろう。 
 
 今野氏は、歌集『水際』から次の5首を帯文に揚げている。 
○災禍後の人心百年荒む説読みて少女の手紙も読みて 
○今年竹ひろがり伸びる今朝の庭ながい一年だつた おかへり 
○誕生日なにもなけれど研ぎ師きてそりそりと研ぐぺティを出刃を 
○馬を見きふるへて喘ぐ馬を見き津波の直後泥のもなかに 
○まなかひに瓦礫をいまだ越えぬ海みえておそろし〈越へる〉といふは 
 
 筆者も、この歌集を何度も読み返し、読み返しながら、今この国の政府、大企業を中心とする原子力固執勢力が進めている原発復活政策、核政策についてより真剣に立ち向かわなければと思う。 
 「わが亡きあとに洪水は来たれ」(あとは野となれ山となれ)という言葉があり、福島原発事故の後も、いや広島・長崎の原爆被爆以後も、この国の政治権力と大資本大企業が結託して進めてきた原子力政策は(だけではない)、この言葉どおりであり続けている。安倍政権のもと、現状は極めて深刻、危険である。アホノミクス(アベノミクス)の推進、軍事力の強化、大企業・超富裕層優遇の格差拡大政策、アメリカ・トランプ政権と結んでの核脅迫外交、憲法改悪による主権者「排除」への策謀…まことに容易ならざる新年を、私たちは迎えた。 
 
 その中で、歌集『水際』の作品を読み継いでいく。 
 
 ◇田ノ口(抄) 
  福島県富岡町は、東日本大震災及び東京電力第一原発事故により全町 
  避難となった。/平成二十九年四月一日帰還困難区域を除き六年ぶり 
  に避難解除された。「田ノ口」という地区名は昭和五十年の行政区画変 
  更によって改められ今はない。そこが私の生地である。 
 
ふるさとの夜の森のさくら人住めぬゆゑにテレビに映されて咲く 
 
そんなに有名にならずともよしバリケードのさくら無人の町をこそ問へ 
 
国道を車に行くとき鳴り出してふいに止みたり線量計は 
 
ふるさとに近づくほどにハンドルを握る手の甲チクチク痛し 
 
澄みきった青空なれど報道はまだなれど変だ放射線とぶ 
 
一刻も早く逃れむものを「いいオレに構ふな 逃げろ」と動かざる父 
 
われは父母を案じて来しにふるさとのこの母われを信じてをらず 
 
顔を見ただけでもよいか義妹も甥も居るなりまづは帰らむ 
 
わが祖らは位牌背負ひて移り来し一族『家史』に記されてあり 
 
位牌背負ひて移りし裔ら原発の事故に位牌をかかへて逃る 
 
思ひ出したくないと言ふ誘導し最後に町を出でし弟 (*弟は町の職員) 
 
見てはならないもののごと見つ引越しの荷物に紛れし防護マスクを 
 
散りぢりに避難をしたる田ノ口の人らの消息聞く半年後 
 
ビッグデータの解析進めど逃れむとして零(こぼ)れたるものらを入れず 
 
 ◇越える(抄) 
みぞれ降る今朝も竜骨さらす見ゆ津波後の田に明神丸は 
 
友の家たづねてみれば土台のみ土台は春の水溜めてゐつ 
 
まなかひに瓦礫をいまだ越えぬ海みえておそろし〈越える〉といふは 
 
福島駅前のけやきに椋千羽きて鳴く汚染のまちを頻(し)き鳴く 
 
エプロンのまま出でしとぞふるさとの友らいづくに逃れて生きる 
 
  内部被曝検査(ホールボディカウンター) 
測ること知ることなれば二分間立ちてしづかな曲を聴きたり 
 
ああわれらオートロックの密けさに組み込まれゐむ欠損遺伝子 
 
さしあたり内部被曝はしてゐない隈なくスキャンされたる身体(からだ) 
 
計画的避難区域に生れし蟇なにゆゑ蝌蚪のままといふ秋 
 
耕すもそのままでもよいどちらでもよい田荒らすなと人は耕す 
 
愚かともみゆるは知れどわが家は此処なり住める今はここに住む 
 
汚染田を翳らひわたる群雲にいふ ありがたう助かりました 
 
さりさりと地(つち)に積むゆき原発ゆかの日降りたるもののごと降る 
 
 ◇見しものは(抄) 
玉あぢさゐ藍を点して霧ふかし汚染水海に漏れつづく日を 
 
  (全村避難の飯舘村) 
その口に紙を貼られて佇つポストわれを見てゐる村過ぐるとき 
 
  (町中に放れ犬、放れ猫多し) 
飼主は聞くことなけむ彷徨へる犬の引き摺るリードの音を 
 
アサド、シリア、セシウム、水仙、スーチーさん サ行の寒さに三月は来る 
 
あんず咲く庭のあかるさ放射能ふり敷けるさへしばらく忘る 
 
関連死などと呼ばるる避難して逝きて葬儀さへできぬ伯母の死 
 
人住めぬふるさとの庭に夜はきて夜も咲きゐむ白侘助は 
 
一ヶ月訪はねば一ヶ月老いて父母は待ちゐむ仮の住まひに 
 
目凝らせばゐのしし親子のたむろして人を怖れぬ生れし家(や)の庭 
 
住める場所住んでもよい場所住めぬ場所自在に行き来す鳥けものらは 
 
さびしいからもう行かぬといへり一時帰宅にしばらく横になつてきた父 
 
被災して空巣這入るは悔しかりわが家も二回ガラス割られて 
 
斑濃(むらご)なす放射線量かへれざる十六万人 年あらたまる 
 
ふたとせを過ぎておもへば見しものは災禍にあらず人のこころぞ 
 
 ◇鈴(抄) 
ドアに鈴つけられし避難ひとはいふ その音われも聴いた気がする 
 
ごくふつうに暮らしてゐます時々は鈴つけあゆむ心地こそすれ 
 
 ◇擦過音(抄) 
きさらぎの梅のま白にふりかかる雪みゆ寄れば擦過音ある 
 
あの春に降りたるものをだれよりも記憶してゐむこの梅の木は 
 
わが庭のうめかきあんずゆすらうめ全て観賞用となりたり 
 
仮の駅 仮設住宅 仮置場 ほんもの次第に失せてゆく町 
 
放れ牛に草を喰ませる除染法おそろしここまで来たるにんげん 
 
還らざる産土を人を恋ふ時間おもひ切るための時間はながし 
 
亡き伯母の定番のみやげ〈水戸の梅〉まだキオスクに置いてある春 
 
 ◇ゲート(抄) 
乗り合はすバスに気付けば次つぎとマスクをかけるある地点より 
 
ヒロシマの朝の街路に影のみを写真にのこし消えし人あり 
 
影のみか影さへ遺さずフクシマに今ひつそりと関連死増ゆ 
 
ふるさとに帰れぬ十四万人のなかの二人はわが老いし父母 
 
基地のゲート福島のゲート相似たりけふつくづくと車に見れば 
 
幾重にも絡まる葛が電線に枯れながら垂るふるさとの道 
 
なぜわれは個々に生まれた人住めぬ町の入り口ゲートに鎖さる 
 
 ◇何もない場所(抄) 
 
見てほしいものは此処にはあらざるを夕陽に影をひくツアーバス 
 
ひと握り砂のこるとぞ津波死は火葬後かならず肺のあたりに 
 
潮退きし後の草生にゆれてゐる雛罌粟の炎(ひ)は誰のたましひ 
 
 次回も遠藤たか子歌集『水際』を読む。 (第3章)の作品になる。 
                           (つづく) 


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