2018年01月09日14時42分掲載  無料記事
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アジア

【バンコク便り】(2)タイの救急救命を担う慈善団体「華僑報徳善堂」 高田胤臣

 タイの救急救命を担う慈善団体「華僑報徳善堂」はポーテクトゥングと呼ばれ、タイ国内において同様の団体が大小数十ある中、最も長い歴史を誇る。名称の通り、タイに暮らす中華系住民たちが立ち上げた団体で、タイ語の読みは省略した「報徳堂」の中国語発音をそのままタイ語表記にしている。報徳堂に強い興味を持ち、気がつけば在タイ年数が12年を超えた。そして、憧れの報徳堂のユニフォームの袖に腕を通してから、今年で10年を迎えようとしている。そんな僕が、この「バンコク便り」の中で日本人にはあまりよく知られていない報徳堂について紹介しながら、現代タイ人の生の姿を書いていきたい。(2014年8月1日記) 
 
◆創立100年を超える報徳堂 
 
 報徳堂は2010年に創立100周年を迎えた。 
「この華僑報徳善堂の由来については、1896年に華僑の馬潤が、郷土である広東の潮陽県からバンコクのチャイナタウンへ宋大峰祖師金身塑像を持ち運び廊に納めたことが始まりである。(中略)それゆえ、1910年には、同じく華僑の鄭智勇をはじめとする12名の華僑有志により、社会慈善福利事業の全面的な開拓を目的に慈善団体として本格的に報徳堂(現華僑報徳善堂)を設立したのである」(引用:中山三照著「公的補助金に依存しない社会事業の実現」トレンドライフ発行) 
 宋大峰祖師は1120年頃に広東省潮陽県で災害に苦しむ人々を助けた僧侶として知られている。現在も報徳堂本部の寺院にこの像が祀られている。 
 
 設立当初の活動はリアカーを引き、行き倒れや引き取り手のない遺体を回収し埋葬することだった。その後、1937年に慈善団体としてタイ政府に認可され、タイ人で知らない人はいない、大きな組織へと発展した。遺体回収活動も徐々にEMS(救急医療サービス)などに変わっていき、現在の形になった。 
 
◆多岐に渡る報徳堂の活動 
 
 報徳堂の活動はレスキュー活動がクローズアップされるが、実はそれだけではない。 
 タイ国内災害地へのレスキュー隊派遣はもちろんのこと、バンコクで救援物資を受け付け、被災地へ輸送・配布も行う。2004年12月にスマトラ島沖地震により発生したプーケットなどの津波や、2011年のアユタヤなどからバンコクにかけて被害が出た洪水にもすぐに行動を起こしている。 
 こういった災害への対応はタイ国内にとどまらない。2011年3月の東日本大震災の際に500万バーツを日本大使館へ寄付し、ハイチ地震などでも素早く募金活動などを行った。 
 それから、タイ国内、主にバンコク近郊の低所得者のための寄付も定期的に行われている。米や生活用品などを報徳堂で購入もしくは寄付してもらい、それらを無償で配布している。 
 このような広範囲に渡った「人助け」全般を報徳堂は行っている。 
 元々の活動であった身寄りのない遺体の引き取りは行ってはいるが、住居登録証(日本の住民票に当たるもの)がオンライン化され、そもそも身寄りのない遺体というものはほぼなくなっているため、規模は縮小している。 
 
◆在タイ華僑のアイデンティティー確保のための活動 
 
 報徳堂は華僑病院(フアチアオ病院)という総合病院も経営している。一般的な西洋医学を中心にしながら、中国伝統医学にも力を入れ、ナコンラチャシマー県などに支店を出すに至っている。 
 それから報徳堂が運営する華僑崇聖大学(フアチアオ・チャルームプラキアップ大学)がスワナプーム国際空港の近くにある。中国語や中国伝統医学の学科がよく知られている。 
 このように報徳堂は中華系移民がタイ社会に溶け込みながら、子孫に故郷のアイデンティティーを守ってもらいたいという目的も持っているとされる。報徳堂設立当初、華僑の地位は現代ほど高くなかった。肉体労働者の多くが中国から渡ってきた人々だったため、タイ人(ここでは人種としてのタイ人)は華僑を下に見る傾向にあった。そこに登場した報徳堂が在タイ華僑を認めてもらう努力をし、結束することで自分たちを守ってきたのだ。 
 これが報徳堂の成り立ちである。現在は役員こそ中国名を持った中華系タイ人であるが、職員やボランティアはタイ族が圧倒的に多い。タイ社会に認められるというひとつの目的は果たせているようだ。 
 
写真は「設立当初のリヤカーの写真(報徳堂ホームページから)」 
 
 
筆者はバンコク在住のライター。 
高田胤臣(たかだ たねおみ) 
報徳堂ボランティア隊ホアイクワン005 
著書に、2011年2月に彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、2012年8月に同社より「東南アジア 裏の歩き方」を出版。現在はバンコクに編集部がある月刊総合誌「Gダイアリー」に複数の連載やほぼ毎月特集記事を、ウェブサイト「日刊SPA!」やバンコクの無料誌「DACO」にて不定期で執筆中 
http://nature-neneam.boo.jp/ 
 
(「めこん」ホームページから) 
http://www.mekong-publishing.com/ 


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