2018年01月17日19時35分掲載
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肩を寄せ合う中国の底辺労働者たちードキュメンタリー映画『苦い銭』 笠原眞弓
この映画は、2014年から2016年にかけて撮影されたドキュメンタリーである。その頃、世界の格安アパレル産業の地図が塗り替わり、中国では既にひと頃の勢いは無くなっていた時期ではなかったか。
しかも、その移動した発注先の国でも更に工賃の安い国へと移動していて、いまや国際的な労働問題として、認識されつつある。昨年末に香港に本部を置くクリーン・クローズ・キャンペーン(CCC)が来日し、大口発注引き揚げによる賃金の不払いや解雇などの問題で「サプライチェーン(製造ネットワーク)の責任を問う」行動が銀座のユニクロ店舗や小川町のミズノの店舗前で行われた。このように、発注主の社会的責任を問われる時代でもある。
映画は、2014年8月の大きな地震で被害のあった中国・雲南省の山村からはじまる。若い女性が働きに出ることになり、迎えに来た女性との、希望と不安が交錯する会話が交わされている。
列車とバスを乗り継いで20時間。着いた先は東海岸の衣料の街、湖州。上海の南に位置する。延々と続く移動の車中。しかしこの長さこそ、この出稼ぎが彼女たちにとって何を意味するかが、見終わった後にジーンと伝わって来たのだった。
衣類工場での最初の仕事は完成品の包装。非常に効率的な手順で、次々仕上がって来る子ども服を袋に詰めていく。
いつの間にかカメラは同じ工場の従業員の夫婦喧嘩を追い、仲立ちをする人が現れる。そこに登場する彼ら彼女らは、現場事故で手を失っていたり、中国で全面的に禁止のマルチ商法に手を出そうとしている人。そんな人が、お酒のやめられない同室者の面倒を見ていたりと、何となく助け合っている様子が描かる。
若い女性は男性から遊びに誘われて、行くか行かないかを悩みもする。工場主も、決して悪人ではないのに、薄利多売の競争の中で、ギリギリ感が漂よってくる。
春節に帰るかどうかも大問題。何しろの長旅である。
日本で中国からの観光客の動向に注目の集まる昨今、その観光客の懐を支えているのは相変わらず彼ら中国国内の出稼ぎ労働者たちではないのか。そして彼らは今でも肩を寄せ合って生きている。
労働者や社会の底辺に生きる人々の生活を発信してきたワン・ビン(王兵)監督は、社会主義国だろうと資本主義だろうと変わらない彼らの今を、くっきりと切り取って見せてくれた。
哀愁の漂う工場の映像を見ながら、私が気楽に選ぶ服の陰で過酷な労働を強いられている人々のことに思いを至らせたいと思う。
●ワン・ビン監督作品 フランス・香港合作映画 2016年・163分
2月3日からシアターイメージフォーラム他全国公開
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