2018年03月01日13時34分掲載  無料記事
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検証・メディア

裁量労働制が長時間労働を助長するという事を問題にしたがらないNHK  Bark at Illusions

 安倍晋三総理大臣が国会答弁で引用した「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短い」という調査データが捏造だったことが明らかになり、政府・与党は裁量労働制の適用範囲拡大を含む「働き方改革関連法案」の国会への提出を断念するよう迫られている。裁量労働制が長時間労働を助長するものであることは否定できなくなったわけだが、それでもNHKの主要ニース番組であるニュース7とニュースウォッチ9は、裁量労働制が長時間労働を助長する可能性について明言することを避け、制度の問題点を指摘することを怠って、政府・与党を擁護している。 
 
 裁量労働制とは、仕事のやり方や労働時間の管理を労働者に委ね、実際に何時間働こうが、事前に労使間で定められた時間を働いたと見なして賃金を払う制度だが、実際には「労働者には業務量や締め切りなどの(決定)権限がなく、仕事だけを押し付けられる」ことになるため、長時間労働や不払い労働の温床となっていると指摘されている(全労連・伊藤圭一雇用労働法制局長 赤旗18/2/22)。このような制度を拡大すれば、過労死する労働者が増えることが懸念される。 
 
 ニュース7とニュースウォッチ9は、裁量労働制のこのような問題点を全く指摘することなくニュースを伝え、安倍晋三が答弁で引用した調査データの信ぴょう性に問題を矮小化している。 
 
 例えば、最初にこの問題を取り上げた番組の中でニュース7(18/2/14)は、問題となっている捏造データを引用した安倍晋三の国会答弁の中身については全く伝えずに、 
 
「安倍総理大臣が働き方改革に関連したデータを巡る自らの国会答弁を撤回したことを受け、野党側は関連法案も検討し直すよう求めました。これに対し安倍総理大臣は、そのデータだけを基に法案を作ったわけではないとして見直す考えはないと強調しました」 
 
と述べて、安倍晋三の 
 
「(法案は)働く方の健康を確保しつつ、その意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とする」 
 
という国会答弁でニュースを終えている。 
 
 安倍晋三が撤回した国会答弁を紹介したニュース7(18/2/19)は、答弁で引用された調査データが異なる質問の回答を比較したものだったことや、その他にもデータに矛盾点があったという事実を伝えただけで、その結果裁量労働制が長時間労働を助長するものであることが否定できなくなったという事実や、制度の適用を拡大すれば過労死が増える可能性が高いという懸念を指摘することなく、菅義偉官房長官の 
 
「働く方々にとっても極めて重要な改革であると考えており、今国会での法案の提出・成立の方針には全く変わりはない」 
 
という会見でのコメントを紹介してニュースを終えている。 
 
 また、ニュース7(18/2/23)は、野党と過労死した人の遺族が集会を開き、政府に対して「働き方改革法案」を断念するよう訴えたことを紹介しているが、野党や遺族らが法案に反対する理由については、「考えられないようなデータがまだ増え続けています……とにかく再調査を」という集会に参加した福山哲郎参議院議員の発言を紹介するだけで、「国民の命を奪う裁量労働制の拡大は、家族の会は絶対に認められない。私たちは明らかに命が奪われる法律を、黙って見過ごすことはできない」(全国過労死を考える家族の会・代表世話人・寺西笑子氏 IWJ 18/2/23)という遺族の切実な声が伝えられることはなかった。 
 
 ニュース7とニュースウォッチ9は、2月27日までに合わせて16回、この問題を取り上げているが、裁量労働制が長時間労働を助長する可能性への言及や「過労死」という言葉は、国会答弁を紹介する中で時々出てくる以外は、一度もキャスターやアナウンサーから聞かれることはなく、裁量労働制の問題点については一度も指摘されることはなかった。 
 
 問題を調査データの問題に矮小化して裁量労働制の問題点を伝えなければ、なぜ野党や過労死で亡くなった人の遺族が法案に反対しているのかわからない。その結果、働く人の生命にかかわる問題が、単なる国会での与野党の攻防の問題にすり替わってしまい、実際には安倍政権は経団連の要望に応えて働く人を犠牲にする法案を提出しようしているにもかかわらず、労働者ための「改革」を行う安倍政権を野党が妨害しているかのような印象を与える。 
 このような番組作りは、公共放送を担う事業者としての資質が疑われるだけでなく、公共物である電波を合法的に独占している放送事業者としても無責任だ。またNHKは昨年、自らの職員が過労死で亡くなったことを公表しているが、そのことに対する反省も感じられない。 


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