2018年04月06日23時30分掲載  無料記事
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アジア

【バンコク便り】(3)実はタイは銃社会  高田胤臣

 旅行に来る日本人の多くがなぜかあまり知らないのが、実はタイは銃社会で、本物の銃が簡単に入手できるということだ。バンコクでは中華街ヤワラーを西の方向に進むと突き当たりになり、その辺りは銃器店が並ぶ。外国人は購入できないが、成人しているまともなタイ人であれば誰でも簡単に買うことができる。「まともな」というのは、職があって定期収入があること、犯罪歴がないこと、警察が認めてくれる、ということ。購入許可証を警察で発行してもらい、それを持っていけば合法的に買うことができる。 
 
 とはいっても、購入許可証はあくまで購入し、自宅に保管することを許すもので、持ち歩くには別に携帯許可証がいる。これは一般の人には普通は発行されない。また、購入できるのも自動連射の機能がないものに限る。いわゆるマシンガンは警察官でも個人所有はできないようになっているほどだ。 
 本来であればしっかりと管理されているので銃による犯罪は起こらないはずだが、これがそうはいかない。かっとなって撃ってしまうことが多々ある。身近に銃があるということ、徴兵制で銃の構造を知っている者が多いこともあって模造銃も少なくない。あるギャングに話を聞いたところ、日本でいう工業高校の課程で習得する技術だけでペン型銃製造や、おもちゃのエアガンを実弾発射可能な状態にまで改造できるのだそうだ。 
 
◆繁華街では銃が絡んだ事件が多い 
 
 タイに長く暮らすと目の前で銃絡みの事件が起こることはよくある話だし、レスキューに関わっていればなおさらその頻度は高くなる。 
 
 まだ早朝まで営業をして人気だったシーフードレストラン『ポーグンパオ』がラチャダー通りソイ6の向かいにあったころ、深夜2時以降は特にRCAやほかの地域から飲み足りない若者が集まってきたのでトラブルが多かった。 
 ある日、ソイ6の入り口で待機していた我々の耳に、通りの向こう側から銃声と逃げ惑う人々の叫び声が聞こえてきた。急いで渡ってみると、殴られたり蹴られたりで鼻血を流している者などが数名いた。彼らは仲間同士で、そのうちのひとりはくるぶしの少し上にぽつりと赤い点がついていた。銃創だ。つまり銃で撃たれた痕だった。 
 
 くるぶしの上に小さな点がある。その斜め下にもひとつ点があるので、貫通したのかもしれない。 
 
 不思議とケンカするグループは女性同伴が多い。かっこつけたい気持ちが悪い方向に行くのだろうか。 
 
 幸い、命に別状はなく、応急措置をしてから病院へ運ぶことになったのだが、どうやらディスコでほかのグループと揉め、その後『ポーグンパオ』の前で再びかち合ってしまいケンカになったようで、そのときに銃が出てきて撃たれたようだ。顔や心臓を狙われなかっただけ運がよかったと言えよう。タイ人の場合はカッとして後先考えずに罪を犯す輩は少なくない。 
 
 しかし、狙って撃っていたとしたら相当腕がいい。実際に銃を撃ってみるとわかるが、そこそこ大きなものでも動いているものを撃つのは難しい。脚という細いターゲット。しかもちょこまか動いているところを狙って当てたとしたらプロなのではないだろうかと思う。映画の世界ではなく、タイにはまだ殺し屋という職業が現実に存在するので、そういった輩の可能性もある。 
 
 タイではケンカしないこと。これが一番である。 
 
 タイで事件事故に巻き込まれると野次馬が至近距離に来るので見世物の状態になることもある。 
 
◆現場近くに戻ってきた犯人たち 
 
 さて、この話には続きがある。 
 結局我々が渡った時点で犯人は逃走。僕は見ていなかったが、我々のチームのひとりが車の車種とナンバーを目撃していた。 
 
 この現場での救助活動が終わったあと、渋滞がひどかったので近くのガソリンスタンドに待機ポイントを変更した。そこでけが人の氏名などを本部に報告し、警察署から車の目撃について無線で問い合わせがあったりした。事件発生から1時間経っていないくらいだろうか。 
 
 ガソリンスタンドに1台の車が止まった。たまたま僕がなんとはなしに立っていた目の前だった。ほかの隊員は一斉に物陰に隠れた。犯人の車だったからだ。犯人たちが通報した我々に報復しに来たのだとみんな思ったようだ。僕の位置からは車のナンバーが見えないので、完全に逃げ遅れてしまった。 
 
 しかし、結局彼らは現場の様子を見に戻ってきただけのようで、車から降りることもなく再び走り去っていった。彼らには我々が通報していることは知るよしもないのだから。正直、殺されるかと思い、背筋が凍った。 
 
(株式会社めこんWEBサイトより) 
http://www.mekong-publishing.com/ 
 
(たかだ たねおみ) 
タイ在住ライター 
2004年11月から華僑報徳善堂にボランティア隊員として参加 
彩図社より「バンコク 裏の歩き方』(皿井タレー共著)、「東南アジア 裏の歩き方」など。 


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