2018年04月12日14時17分掲載  無料記事
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検証・メディア

法案で過労死が合法化されるという問題を、目立たぬように伝えるニュース7  Bark at Illusions

 安倍内閣は6日、働き方改革関連法案を閣議決定し、国会に提出した。NHKニュース7(18/4/6)は法案のポイントのひとつとして時間外労働の上限規制を取り上げて説明しているが、法案が過労死ラインまで残業を認めていることについて、大した問題だとは考えていないようだ。 
 
 現行の制度では、企業は労使間の協定で特別条項を締結すれば、事実上無制限に労働者に残業させることができる。 
ニュース7は、 
 
「政府は過労死などの問題が起きる中、長時間労働を是正するため、(現在の仕組みを)見直すことにしました」 
 
 と述べて、 
 
「今回の法案では時間外労働の上限を原則として月45時間、年間360時間とし、違反した企業には……罰則規定も盛り込まれました。また特別な事情がある場合……年間6か月まではさらなる時間外労働を認めますが、休日労働も含め1ヶ月で最大100時間未満、また2か月から6か月までのいずれの期間も月平均で80時間を上限とします。そしてそのような場合でも年間では最大720時間以内としています」 
 
 と時間外労働の上限規制について説明している。 
 
 ここで問題なのは、「1ヶ月で最大100時間未満」、あるいは「月平均で80時間」まで時間外労働を認めるということは、厚生労働省の過労死認定基準まで労働者を働かせることを合法化することになるということだ。 
 厚生労働省は労災認定する際、労働時間について、「発症前1か月間ないし6か月間にわたって……おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること」、「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること」(厚生労働省『脳・心臓疾患の認定基準の改正について』)を考慮して判断している。 
 
 しかし、こうした法案の重大な欠陥について、ニュース7は「時間外労働の上限規制について、専門家からは様々な意見が出ています」と述べて、法案に対する賛否双方の次のような意見の中で指摘しているだけだ。 
 
「まずはどの企業でも確実に守れるものとしてルールを設定して、そのためには(時間外労働上限)100時間というのはいいスタートなのかなと感じています。全ての企業が円滑に業務が回りますね、ということがちゃんと確認できれば、今後その上限を引き下げる議論が可能になると感じています」(日本大学経済学部 安藤至大教授) 
 
「労働時間の上限を罰則付きで労働基準法で定めるというのは歓迎すべきこと……ひと月100時間まで上限になっているので、過労死の労災認定ラインと同じなので、そこはもっと下げるべきじゃないか」(日本労働弁護団 棗一郎幹事長) 
 
「過労死などの問題が起きる中、長時間労働を是正するため」と言いながら、実際には企業が労働者を過労死ラインまで働かせることを政府が合法化しようとしている時に、果たして法案に対する賛否両サイドの意見を取り上げる必要があるだろうか。しかも反対意見が法案に対する肯定的な意見を述べた上で問題点を指摘していることなどから、ニュース7が紹介した「様々な意見」は、今後修正が必要だがルールができたこと自体は反対側も含めて歓迎しているかのような印象を与える。 
 過労死をなくそうと考えているのなら、時間外労働の上限規制に対して「様々な意見が出ています」と言うのではなく、「……という批判の声が上がっています」とか、「……という反発の声が広がっています」などと述べて、法案が働く人の生命を守るものになっていないことを視聴者に明確に伝えるべきだろう。 
 例えば、ニュース7で反対意見を述べた前出の棗一郎氏は、毎日新聞(17/3/27夕刊)で以下のように政府案を批判している。 
 
「政府の目指した上限規制の目的は、過労死を二度と繰り返さないことだったはず。ならば、過労死ラインを大幅に下回るものでなければならないのに、『月100時間』では従来の基準と変わりません。これでは過労死の合法化です」 、「月45時間を超えれば業務との関連性が強まるとされています。月80時間でさえ、あってはいけない数字なんです」、「月80時間台の残業をさせていた企業に『安全配慮義務違反』として賠償を命じた判例は少なくありません。しかし今後、法律に100時間と明記されると、企業側は『法律の範囲内だ』と主張してくるでしょう。その時、裁判所は今までと同じ基準で判断を示すことは難しいのではないか」 


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