2018年04月28日00時46分掲載  無料記事
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畑尾一知著「新聞社崩壊」 

  今、街の書店の店頭に平積みにして売り出し中の本が畑尾一知著「新聞社崩壊」(新潮新書)である。このような趣旨の本は何年も前から何冊か見た記憶はあるが、畑尾氏が自ら書いているように朝日新聞社の販売局という裏方の視点で新聞ビジネスを見たところが新しいところだ。畑尾氏は今、どんどん新聞業界の縮小が進んでいるため、今のペースを考えれば2025年の新聞読者は人口の23%くらいまで落ちるんではないか、と推測している。なんと4人に1人も新聞購読者がいなくなるのだ。 
 
  その最大の理由は新聞価格がすでに割高になっていることと、内容に読者が満足していないことが大きく挙げられている。他にもあるにしても、この2点は決定打となる。メジャー紙の場合、朝刊と夕刊とセットで約4千円から5千円の値段は毎日、新聞を出す側からすれば決して高くないと思うかもしれないが、可処分所得が減少している庶民からすると年々その支出は重くなりつつある。感覚的には必需品から次第に贅沢品になりつつあるのだ。しかも、ページがたくさんある割には読みたい記事が少ないことだ。(第二次安倍政権以後に特に顕著になった傾向だが、誰の目線で記事を書いているのか曖昧になってきたことも新聞不信の原因にあったと筆者は考える)。 
 
  販売部数の減少で、いずれ社員を維持できなくなる恐竜はいずれは崩壊せざるをえないと畑尾氏は見るのだ。だが、驚くことに畑尾氏は日本の新聞業界の内部にサバイバルできる力はないと言い切っている。新聞ビジネスを新聞社の人々が理解できていないことが大きな要因であり、だからこそ上の2点が新聞社員は自覚できておらず、危機感が感じられないと言う。バブル崩壊の時に社長や支店長たちがのんびりしていられたのも、自分の在籍時代さえ乗り切れば後は野となれ山となれ、という感覚が蔓延していたからだが、今の新聞業界も同様らしい。 
 
  1990年代に金融界がグローバル化の波にさらされ、経営統合のラッシュがあり、三井住友とか東京三菱UFJみたいなメガバンクが誕生したが、新聞ビジネスのリアリズムから経営統合で新聞が救われるような甘い状況ではなく、抜本的に生産・流通・販売体制を一から改めないといけない、という。新聞が肥大化して高いコストを伴う体制になってしまっているからだ。マードックみたいな外部から来た経営者が日本の新聞社を改革する場合、新聞社のリストラ対象になった社員たちが販売部門の子会社に回され、新聞配達をやる可能性すらリストラでは起きるかもしれない。畑尾氏はさらっと書いているが、想像すれば新聞人にとって恐ろしい時代の到来だ。しかし、そこには希望もあると畑尾氏は言う。 
 
  最終的に新聞は政治、経済、社会と言ったビジネスマンや人々にとって死活の情報を求められるし、そこに特化して新たな新聞のビジネスモデルを誰が築き上げるか、これからそのさきがけの時代になるであろうと言うのだが、その考え方は日刊ベリタと言う吹けば飛ぶような業界最小のメディアの筆者と同じである。ただし、畑尾氏が記者クラブは大切だ、と言っている点には同意できない。いずれにしても紙の新聞は社会にとって大切なもので、民主主義を考えた時、プロフェッショナルに支えられた紙の新聞が健在であることは民主主義にとって不可欠な条件だ。 
 
 
村上良太 
 
 
 
■政界再編に伴う新聞界の再編の必要性  欲しいのは数十万部規模の独立新聞 (2017年10月20日の記事) 
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