2018年05月13日14時07分掲載
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遺伝子組み換えミステリ――『感染領域』(くろきすがや著) 大野和興
全国屈指のトマト産地熊本でトマトの奇病が発生、農水省の要請を受け、帝都大学の植物病理学者安藤が農水省担当課長とともに現地に飛ぶところから話は始まります。そこで見たのは葉も茎も緑色が消えうせ、赤く変色した異様なトマト苗でした。
原因はウイルスだと検討をつけた二人は、苗をすべて焼き捨て、土も入れ替えるよう指示します。
いったい原因は何なのか。二人はトマト農家に問いただします。「すべてこれまで通りの手順でやってきた、心当たりはない」と。しかし問答する中で、農協の勧めで今年初めて使った防虫剤のことを妻が思いだします。会社名はビノート。農薬と遺伝子組み換え作物をセットで販売する多国籍企業です。
同時期、トマトをめぐる別の異変が起きていました。いつまでたっても熟さず、緑色のままのトマトが現れたのです。クワバという日本最大の育種会社が新品種開発中に出現したこのトマトは、緑のままいつまでも腐らず、種子もできない。
その間にも、トマトに取りついた未知のウイルスによる病害は、驚異的なスピードで拡大します。植物ウイルスではありえない空気感染をしているように・・・。
この二つのトマトが結びついたとき、恐ろしい事実が明らかになります。というところで、解説はお終い。2017年に「このミステリーがすごい!大賞」の優秀賞をとった作品ですから、これ以上の種明かしは営業妨害になってしまいます。
本作品の魅力は、分子生物学の知見を駆使しながら、生命操作の恐ろしさを訴えているところにあります。ミステリーですから当然殺人事件も出てきますが、主題の生命操作に比べたら取るに足らないものみえるから不思議です。(宝島社文庫650円+税)
初出『消費者リポート』2018年5月号
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