2018年06月08日16時29分掲載  無料記事
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核・原子力

「日立製作所には原発技術でなく優れた再生可能エネルギー技術を輸出してほしい」〜英脱原発市民団体PAWBメンバーが来日して訴え

 英電力企業ホライズン・ニュークリア・パワー社(日立製作所100%子会社)が英中西部ウェールズ地方のアングルシー島で2基の原発建設計画(建設開始予定:2019年、運転開始予定:2025年)を進める中、英国の脱原発市民団体PAWB(People Against Wylfa B/ウィルファB原発に反対する人々)メンバー3名が5月下旬に来日した。 
 PAWBは、アングルシー島でのウィルファB原発建設計画が浮上した1988年に地元の反対派住民が結成した団体で、来日したPAWBメンバーは、福島県内で開催された報告会で講演したり、帰宅困難区域が一部残る富岡町周辺を視察したほか、東京では国際協力銀行、日本貿易保険、経済産業省、財務省、外務省に赴き、日立製作所による原発輸出に反対する意思を訴えるなど精力的に活動した。 
 さらにPAWBメンバーは、彼らを招聘した国際環境NGO「FoE Japan」(Friends of the Earth Japan)が、原子力資料情報室やグリーンピース・ジャパン、ピースボートなど他の国内NGOと協力して衆議院第二議員会館で開催した院内集会にも出席。会場に駆け付けた立憲民主党や日本共産党の国会議員を前に、ウィルファB原発建設事業をめぐる現地の状況を報告するとともに同事業の問題点を訴えた。 
 
<PAWBメンバーの訴え> 
 アングルシー島出身で、獣医として働く傍ら、10年以上に亘ってウィルファB原発建設反対運動に取り組んでいるPAWBスポークスマンのロバート・イドリス・デイビーズさんは、原発が地元にもたらす経済効果について、 
「アングルシー島は非常に美しいところですが、残念ながら経済的には恵まれていません。福島と同じような状況にあると思いますが、かつては原発を建設することによって地元で雇用が創出され、地元経済が潤うことを夢見る地元住民がたくさんいました。しかし残念ながら、原発完成から40年経つにもかかわらず、地元経済は恵まれない状況が続いています。今、ウィルファA原発の廃炉作業が進んでいて、原発敷地内で働いている人は、まだまだ多くいますが、それでも地元経済は潤うことなく現在に至っています。“原発=経済的に恵まれる”というのは“夢のまた夢”ということです」と経済効果が小さいことを指摘。 
 さらに、原発の存在はアングルシー島固有の文化にも悪影響を及ぼしているとして、 
「原発を建設するに当たって1万人もの技師・労働者が流入しますが、それに対して地元住民は数千人しかいません。だから原発建設は、地元の環境やインフラに悪影響をもたらすのはもちろんのこと、固有の言語・文化に対する悪影響も甚大です。1千年以上守ってきた私たちの文化・環境が台無しになってしまうことを阻止したいと思っています」と語り、原発建設に反対し続けていく旨決意を表明した。 
 
 教師、俳優、労働組合活動家、平和運動家として活動しながら15年以上に亘ってPAWBで活動してきたリンダ・クレア・ロジャーズさんも、原発が地元にもたらす経済効果を否定した。 
「原子力というのは、経済的にあまり恵まれていない土地に押し付けられる傾向にあります。アングルシー島は写真でご覧頂いてお分かりのように“手つかずの土地”とも言えます。そういうところでは雇用が必要とされています。しかし、原子力産業による雇用創出効果が無いことは、1971年にウィルファA原発が完成したアングルシー島が、今なお英国内で最も貧困状態にあることでお分かりだと思います」 
 
 ウェールズ中部出身で、若い頃から複数の市民団体で平和活動や反核活動に参加してきたメイ・トモズさんは、福島県内を視察する中でアングルシー島との共通点が多くあることに気付いたと語りながら、 
「福島現地の人たちから『どういう生活を送っているか』などの細かい話を聞いてきました。そのときに甲状腺のモニタリング検査をやっているという話を聞いて、私も息子たちがいるものですから、非常に感情が高ぶりました」と福島で大きなショックを受けてきたことを打ち明けた。 
 
<問われる日立製作所の姿勢> 
 PAWBメンバーからの報告を受けて、2015年にアングルシー島へ足を運んだほか、今年3月にも訪仏して核関連施設を視察するなど、脱原発に向けて活発に活動する菅直人元首相(立憲民主党)が日立製作所の姿勢を批判した。 
「日立は、日本国内で原発を建設できないからといって、英国に行って原発を作ろうとしています。英電力会社ホライズン・ニュークリア・パワーを買収した上、自社で建設する原発が完成したら、ホライズン社を売却しようと目論んでいるのです」 
「日立は、『自分たちだけでは経済的リスクを負えない』と言って、日英両政府に万が一のときのリスクを背負わせようとしています。日英両政府がリスクを負わないことを決断すれば、日立は原発輸出から撤退すると思います」 
 
 また、司会を務めたFoE Japan事務局長の満田夏花さんは、日立製作所や経済産業省など原発輸出推進派の思惑について、 
「日立は今、ホライズン社の株式を100%持っていますが、今後、誰かに51%以上持ってもらい、自分たちは49%以下にして連結決算から切り離すことで、とにかく誰かにリスクを担ってもらいたいという及び腰の方針のようです。それが事業継続のための日立側の条件のようです。すなわち、日立はこの事業のリスクをよく理解しているということです。その上で、経済産業省が日本政策投資銀行など政府系金融機関に日立を支援するようハッパを掛けているので、ウィルファB原発建設事業の背景には経産省の政治的な思惑があると見ています」と補足説明した。 
 
<FoE Japanの取組> 
 PAWBと連携するFoE Japanは現在、「日立製作所の原発輸出を止めるために、いろいろな手法で日立や日本政府に対して物申していく」という方針の下、緊急署名『日立の進める英・ウィルファ原発に公的資金を使わないでください』に取り組んでおり、これまでに集まった5,823筆を経産省・財務省・外務省などに提出している。この署名の狙いは、「ウィルファB原発建設の最大の弱点は“財政的な問題”にあり、公的資金を断つことができれば原発輸出を止められるのではないか」との考えに基づくという。 
 さらに、日立製作所が臨時取締役会を開催した5月28日には、署名の受け取りを拒否した同社に対し、署名をファックスと郵送で提出するとともに、FoE JapanとPAWBの連名で「イギリス・ウェールズのウィルヴァ原発から撤退の決断を!」と題する要請書を提出している。 
 FoE Japanの担当者は、「日立製作所による原発輸出の問題は、日本国内ではまだまだ認知度が低いので、日本の世論を喚起していく必要がある。また、英国内でもこの問題に対する関心が低いので、英国の脱原発市民団体との繋がりを強化しつつ、福島で被災した方の声を英国に届けるなどして英国世論にも働き掛けていきたい」と今後の抱負を語っている。 
 
 日立製作所は、英国での原発建設計画について、英政府と事業推進に向けた覚書を締結したが、事業に着工するか否かの最終決定は来年2019年に持ち越されている。日立製作所の取締役間では事業への賛否が今も拮抗しているというので、原発建設反対派が巻き返せる余地はまだまだありそうだ。(坂本正義) 


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