2018年07月25日12時46分掲載  無料記事
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検証・メディア

安倍、功をあせりて、民主主義が滅ぶ  根本行雄

 第196回通常国会は、会期末の7月22日を前に20日に事実上閉会した。「自民1強」を背景に与党は強気の国会運営で臨んだが、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する財務省の決裁文書改ざんや「加計学園」を巡る問題などが表面化した。「森友学園」や「加計学園」を巡る問題で、政府・与党は疑惑解明に後ろ向きな姿勢を取り続けた。そして、約半年にわたった国会論議が深まることはなく、真相究明には至らなかった。与党は働き方改革関連法、参院定数を「6増」する改正公職選挙法に続き、20日にはカジノを含む統合型リゾート(IR)実施法も成立を強行した。安倍政権は、これらの問題を数多く抱える法律案を熟議することなく強引に成立させた。議席数にものを言わせて、国会の存在意義を根底からなし崩しにし、改ざん、隠蔽、虚偽答弁、強行採決などなど、議会制民主主義を亡ぼす道を押し進めている。 
 
 
 西日本を襲った記録的な豪雨災害の捜索・復旧作業が酷暑の下で続いている。 
 
 IR法案は災害復旧の先頭に立つべき石井啓一国土交通相(公明党)が担当で、連日のように国会答弁に立つ。7月17日の参院内閣委員会には安倍晋三首相も出席して、この法案の審議が続いた。でも、そこまで急いて成立させなければならない緊急性、重要性のある法案なのか。 西日本の一部で避難指示が出ていたにもかかわらず自民党議員が安倍首相を招いて7月5日夜に飲み会を開いた。名付けて、「赤坂自民亭」。 
 
 与党は働き方改革関連法、参院定数を「6増」する改正公職選挙法に続き、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法も強行し、問題を数多く抱える法律案を熟議することなく強引に成立させた。安倍政権は議席数にものを言わせて、国会の存在意義を根底からなし崩しにし、改ざん、隠蔽、虚偽答弁、強行採決などなど、議会制民主主義を亡ぼす道を押し進めている。 
 
 
□ 働き方改革関連法 
 
 
 
 毎日新聞(2018年7月15日)は、次のように伝えている。 
 
 総務省が7月13日発表した2017年の就業構造基本調査によると、働く人全体の数は6621万人で、2012年の前回調査から179万人増加した。このうちパートや有期契約、派遣などの非正規労働者は90万人増の2133万人となり過去最多を更新した。団塊の世代が定年退職し、有期契約や派遣で再就職する事例が増えたためとみられる。 
 
 前回調査からの5年間は安倍政権のアベノミクスと重なる。雇用情勢は改善し、人手不足を反映して女性や高齢者でも働く人が増えているが、役員らを除いた雇用者数に占める非正規の割合は依然約4割と高い。6月に成立した働き方改革関連法では、定年後の再雇用を含む非正規労働者の待遇改善が盛り込まれており、企業側の対応が急務になっている。 
 
 都道府県ごとの非正規の割合は、沖縄が最も高い43・1%。最低は徳島の32・6%だった。非正規の中ではパートとアルバイトが計1472万人で最多。契約社員は303万人、派遣労働者は142万人だった。希望しても正社員の働き口がない「不本意非正規」の割合は12・6%。 
 
 
 世間では、「派遣労働者は自分で派遣を選んだ」と思っている人が多いが、実際には、雇用者側が非正規雇用の割合を増やしたため、正社員として就職したくてもできない例が増えているのだ。労働者派遣法を作らせ、改正によって適用範囲を広げ続けて事実上、自由化し、「同一労働同一賃金」が問題になる事態を作り出したのは雇用者側であって、労働者側ではない。 
 
 本当の働き方改革のためには有期労働契約の存在自体にメスを入れなければならない。少なくとも、有期雇用に関しては「3カ月の事業だから」「育児休暇を1年取る人の代替が必要」など明確で合理的な理由がある場合のみに限定すべきだ。有期雇用を例外措置とする、こうした「入り口規制」が妥当であり、「有期通算5年で無期労働契約へ転換」といった「出口規制」では雇い止めが横行するばかりだ。 
 
 
 「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)は、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す制度である。対象は年収1075万円以上の金融ディーラーやコンサルタント、研究開発職など「働いた時間と成果の関連性が高くない仕事」が想定されており、職種は省令で定められる。残業時間に対して割増賃金を支払うという労働基準法上の規定が適用されなくなる。 
 
 この制度は残業の概念をなくすもので、労働者の健康を守れるのかどうか大いに疑問であるだ。「労働時間」に代えて「健康管理時間」を設けるというが、制度自体は働かせ放題で「過労死ライン」を超える労働を誘発する恐れがある危険なものだ。月65時間以上の時間外労働で脳・心臓疾患が発症している実態を踏まえていない。 労働者の意思で制度から離脱できるというが、現状の強圧的な労使関係の下では、適用の同意を拒むことも離脱を申し出ることも労働者の自由意思ではできない。また、対象を1075万円以上とすることで「大方の労働者に関係ない」という印象を与えているが、いったん導入されれば年収要件が引き下げられ、労基法の根幹を崩す恐れがある。 
 
 
□ 参院定数を「6増」する改正公職選挙法 
 
 
 自民党などが国会に提出した参院定数を6増する公職選挙法改正案は、埼玉選挙区の定数を2議席増やし、比例代表は4議席増やした上で、一部に当選順をあらかじめ定める拘束名簿式の「特定枠」を導入ものだ。二つの合区で政党が公認できない候補者を、特定枠で優遇するためだ。 
 
 
 比例代表に特定枠を設けることには問題点がある。拘束名簿式の特定枠に登載された候補者は当選する可能性が高いが、それが民意を反映しているとは言えないからだ。 特定枠の存在により、現行制度なら当選していたはずの(特定枠外の)候補者が落選することもありうる。 
 
 特定枠を設ける目的は合区対象県の議員の救済だが、その議員を「地域代表」と認めることになる。国会議員を「全国民を代表する」と定める憲法43条とは齟齬するものだ。 
 
 
 
□ カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法 
 
 
 カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案は、7月19日の参院内閣委員会で可決された。政府が想定するカジノ施設の具体像や経済効果が示されぬままで、法成立後に決定が先送りされた事項が多く残っている。参院審議の終盤では、政府が「世界最高水準」と主張する入場規制のもとで「週6日の滞在」が可能な「抜け道」があることも焦点となった。具体性に欠ける答弁が繰り返された。 
 
 7月19日の内閣委で反対討論に立った立憲民主党の白真勲氏は、「法案は穴ぼこだらけだ。条文より多い331項目の政省令、規則への委任がある。条文にないルールを忍び込ませ、カジノ事業者に大きな自由を委ねると取られかねない」 と批判した。カジノ施設の詳細が、国会審議を経ずに政府が決定できる政令や省令、新設の行政機関「カジノ管理委員会」の規則で定められるためだ。 
 
 
□ 赤坂自民亭 
 
 
 毎日新聞(2018年7月11日)の夕刊に、与良正男氏の文章が載っている。 
 
 
 西日本を中心に多数の犠牲者を出した今度の豪雨災害。政府の対応はどうだったろう。 
 
 政府が関係閣僚会議を開き、安倍晋三首相が「先手先手で」と指示したのは7日。非常災害対策本部の設置は8日。ともに遅すぎたのではないかとの批判がある。 
 
 その遅れが被害状況に影響したのかどうかは、無論、今後検証する必要がある。ただし信じられないのは、5日夜、自民党の若手・中堅議員らが東京都内で開いた「赤坂自民亭」と称する会合に安倍首相が出席していたことだ。 
 
 要するに単なる飲み会である。秋の党総裁選を控え、首相に所属議員にサービスしたい気持ちがあったのは間違いないだろう。 
 
 だが、この日、既に西日本では京都、大阪、兵庫3府県で計約15万人に避難指示が出ており、危険は差し迫っていた。 
 
 驚くのは、会合に出席した議員の中に、首相と乾杯する写真を短文投稿サイト「ツイッター」に投稿し、「和気あいあい。まさに自由民主党」等々と上機嫌でコメントしていた人が複数いたことだ。 
 
 懇親会をするなとも酒を飲むなとも言わないが、時と場合による。被災者の不安など全く意識になかったろうし、東京が豪雨だったら延期していたのではないか。 
 
 付記すれば5日夜といえば、オウム真理教の元代表、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら7人の死刑が執行される前夜でもある。少なくとも会合に出席していた安倍首相や上川陽子法相は、この重大な日程も知っていたと思われる。 
 
 
 毎日新聞(2018年7月10日)は、次のように伝えている。 
 
 
 自民党の森山裕国対委員長は10日の記者会見で、西日本で大雨への警戒が続いていた5日夜に安倍晋三首相を含む自民党議員約50人が衆院議員宿舎で飲み会を開催したことに苦言を呈した。「大雨や大きな災害が予測されるときは、できるだけ慎んだ方がいい」と述べた。 
 
 森山氏は「こんなに大きな災害になるとは予測できなかったと思う」とも指摘。飲み会出席者の一人で、写真をツイッターに投稿して野党の批判を受けている西村康稔官房副長官から「迷惑を掛けた」と謝罪があったことを明らかにした。 
 
 
 毎日新聞(2018年7月17日)は、竹内望記者が次のように伝えている。 
 
 
 大雨の予報が出ていた5日夜に自民党議員数十人が参加した飲み会「赤坂自民亭」への批判が続くことに関し、麻生太郎副総理兼財務相と二階俊博幹事長が17日、問題はなかったとの見方を示した。麻生氏は記者会見で「閣僚や閣僚経験者が若手の無派閥の人と懇親するのが目的だ。そういう意味では極めて有効な手段だ」と意義を語り、「あの日は行かなかったがほぼ毎回行っている。ああいう(批判)話に取られたのは、はなはだ残念だ」と述べた。 
 
 二階氏は記者団に「ああいうことはなければなかった方がいいと思うが、目くじらたてて大騒ぎするほどのことではない」と指摘した。 
 
 
□ 安倍、功をあせりて、民主主義が滅ぶ 
 
 
 与党は働き方改革関連法、参院定数を「6増」する改正公職選挙法に続き、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法も強行し、問題を数多く抱える法律案を熟議することなく強引に成立させた。いずれの法案も、急いで成立させなければならない緊急性、重要性のある法案ではない。そのうえ、問題が山積している内容なのだ。こういう法案を十分に議論することなく、強行採決という手法を安易に繰り返しているが、それは亡国の政治である。 
 
 昨年10月の衆議院議員選挙において、小選挙区では自民党は48%の得票率で75%の議席を獲得した。過半数に達しない政党が、3分の2の議席を獲得するトリック。選挙制度は、代議制民主主義の根幹にかかわっている。主権者である国民の意思を反映しない制度は議会制民主主義を根底からなし崩しにしていく。安倍政権は「自民1強」の議席数にものを言わせて、改ざん、隠蔽、虚偽答弁、強行採決などなど、議会制民主主義を亡ぼす道を押し進めている。 西日本の一部で避難指示が出ていたにもかかわらず、「赤坂自民亭」と称される飲み会を自民党議員が安倍首相を招いて7月5日夜に飲み会を開いたという。与党自民党の議員たちは、だれのための政治をしているのだろうか。あきらかに、主権者である国民を軽視し、ないがしろにしていることは明らかだ。国民不在の政治であり、亡国の政治であることは明らかだ。 
 
 国民は見ているぞ。直近の世論調査によれば、安倍政権の支持が減少し、不支持が増加しているばかりでなく、自民党の支持率の下落が始まっている。 


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