2018年07月28日12時13分掲載
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映像美を通して訴えてくる労働と人権 『機械人間』 笠原眞弓
ラーフル・ジャイン氏の初監督作品の、シリアスなインド映画である。映画がはじまって数分、何の説明もなくただ工場の騒音と無言で働く労働者の姿が映し出される。大きな機械と人間の動き。暗い中にくっきりと浮かぶ「働き人」たち。光と闇とが交錯し、人の働く姿はこんなに美しいのかと思う。そして懐かしささえ覚える。私の家は、水道管のジョイントなどをつくる鋳物工場の隣りだった。いつも騒音の中にいた。働いているお兄さんたちをただ眺めているのが好きだった。そんな情景が浮かんでくる。
そのうちに、ここがスクリーン式とドラム式の布の捺染(プリント)工場だと分かってくる。レンガ色の染料を調合している(初めて出てくる鮮やかな「色」である)。それも何と手測りで微妙な色調整をしていく。
上から降りてくる布が自動で折りたたまれるが、幼さの残る少年工は、トウトウとしながら、「機械」的に布を引っ張ってプリント機械に誘導している。コンピュータの時代にアナログにも依存しているのだ。
重い染料をタンクに入れて動かす(運ぶ)のも引っ張るか、担ぐか。染料の詰まったドラム缶は、わずかずつ床をずらしていく。巻き取られた布を運ぶのも人力。フォークリフトも見当たらない。安い人件費が幅をきかせている。
一人の工員が話始める。1日12時間労働で、朝8時から夜8時まで。時給は200ルピー(324円)だという。昨年は、天候不順で農作物が穫れず、出稼ぎに来たという。1600キロの道のりを36時間かけて、煎ったひよこ豆をかじりながら水も飲まずに満員電車でここに来た。交通費が払えない人は、10%の利子で借金してくるという。子どもの教育費にと送金しているが、それには不足だという。
「貧困とは何か」「労働者は死んでやっと報われる」と、日本でも最近とみに聞くような言葉も挟まれる。法律に違反しているし、みんな不満を持っているのに組合はない。必ずリーダーが殺されるからと、彼は言う。人権無視の過酷労働の見本市のようだ。
工場主は、監視カメラのモニターのある部屋で「彼らの賃金を上げれば、酒やたばこにつぎ込む。彼らのためにならない」と太った体をゆする。
カメラを持つ監督は市場で多くの労働者に囲まれる。撮って帰るだけなら、演説して帰る政治家と同じだと鋭く突っ込み、労働時間の改善を交渉してほしいと言われる。
低賃金過酷労働はここインドばかりでなく中国から東南アジア、そして世界の貧困層に広がっている。
自分たちの染めた製品の山の上で眠りこける彼ら。彼らの汗にまみれた布を着るのは誰か。行動を起こせない彼らに代わって動くのは世界のこの映画を見た人、この布を身にまとう人たちではないか。
71分 監督:ラーフル・ジャイン(インド)
7月21日よりユーロスペースにて公開後、全国展開
写真のクレジット:
コピーライト 2016 JANN PICTURES,PALLAS FILM, IV FILMS LTD
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