2018年08月04日15時34分掲載  無料記事
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検証・メディア

おい、マスメディア 「北朝鮮の非核化」より、朝鮮戦争の終結の方が先やろ Bark at Illusions

 米兵の遺骨返還やミサイル施設の解体着手など朝鮮政府が米朝首脳会談での約束を着実に履行する一方で、合衆国側は米朝間の合意の柱のひとつである「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」に向けた交渉に背を向けているようだ。しかしマスメディアは相変わらず合意に忠実であろうとする朝鮮側を厳しく評価し、合意を守ろうとしない合衆国側に対しては批判を避けている。 
 
 まず6月に行われた米朝首脳会談での合意内容を確認しておくと、共同声明では合衆国のドナルド・トランプ大統領が「朝鮮の安全の保証」を約束し、キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長が「朝鮮半島の完全な非核化」に向けた責務を再確認するとともに、両首脳が「新しい米朝関係を構築」、「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」、「戦争捕虜や行方不明兵の遺骨回収と返還」を宣言している。 
 朝鮮政府はこの合意に従って、先月27日に米兵の遺骨の一部を合衆国に返還したが、これに対するマスメディアの評価は極めて低い。「体制保証」を得るためのアピールだとか「時間稼ぎ」のための戦術だとか、合意を着実に履行する朝鮮政府の動機を疑う言葉が並ぶ。 
 
「北朝鮮は約束どおり、ミサイル施設の解体を始めたほか、休戦協定65年を迎えた27日には、当時の行方不明米兵らの遺骨を米側に引き渡した。それは対話をつなぐジェスチャーではあるが、体制の保証につながる証しを先に見せよとの主張は変わらない」(朝日 社説『朝鮮休戦65年 「普通の国」めざすなら』18/7/30) 
 
「北朝鮮はこれにより早期の終戦宣言を米側にさらに強く迫るとみられる。戦争状態が解消されれば米軍の軍事力行使を封じ、安全の保証にもつながる。そんな思惑があろう」(毎日 社説『休戦協定締結から65年 終戦宣言は北朝鮮次第だ』 18/7/29) 
 
「北朝鮮はまず終戦宣言をテコに米国から攻撃されにくい状況をつくる狙いだろう。朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨を米側に返還したのも、そのためのアピールととれる」(日経 社説『朝鮮戦争終結は環境整えよ』 18/7/28) 
 
「非核化を先送りにしたまま、米国との協力姿勢をアピールし、体制保証などの見返りを求める戦術の一環ではないか。北朝鮮が、朝鮮戦争で捕虜・行方不明となった米兵の遺骨の一部を返還した」(読売 社説『米兵遺骨返還 北朝鮮の非核化に直結しない』 18/7/29) 
 
「米兵の遺骨返還や形ばかりのミサイル発射場の解体は、北朝鮮が核戦力を強化する時間稼ぎのための宣伝戦術であり、騙されてはなるまい」(産経 社説(「主張」)『北朝鮮核危機 「時間稼ぎ」に騙されるな』 18/7/30) 
 
「北朝鮮が遺骨返還の見返りにアメリカに譲歩を迫ることも予想され、双方の駆け引きはさらに続くことになりそうです」(NHK ニュースウォッチ9 18/7/27) 
 
 そして朝鮮政府にさらなる具体的な行動を求めたり、安易な朝鮮戦争の終結宣言に警鐘を鳴らしたり、朝鮮に対する圧力の維持・強化を求めたりしている。 
 
「(休戦協定から)65年間も凝結した氷を溶かすには、金委員長のさらなる決断が必要だ。北朝鮮国民のためにも東アジアの平和のためにも、指導者の顔の見える北朝鮮外交を広げていくべきだ……『普通の国』をめざそうというのならば、国際会議への出席を臆する理由はあるまい。そして米朝対話を進展させる健全な姿勢を示してもらいたい。」(朝日 同) 
 
「朝鮮戦争の終戦宣言は確かに重要だ。……しかし、朝鮮半島問題の最大の焦点は、北朝鮮の非核化である。『完全な非核化』で合意した米朝首脳会談からこの約1カ月半、北朝鮮は非核化に向けた具体的な行動をとってきただろうか。……北朝鮮が非核化に真剣に取り組んでいるとは言い難い。……合意をしてもそれを破って核開発を続けてきたのは北朝鮮だ。核開発を温存したまま、北朝鮮が安全の保証を確保するような事態は避けなければならない。終戦宣言の環境が整うためには、まず、北朝鮮が国際社会が納得する行動を起こすことが必要だ」(毎日 同) 
 
「拙速は慎む必要がある。終戦宣言が及ぼす影響が大きいとみられるからだ。米朝の和解が印象づけられ、北朝鮮に科す国際社会の経済制裁網が緩みかねない。平和協定への転換をめぐる議論で北朝鮮や中国が在韓米軍の縮小を求める可能性もでてくる。やみくもな終戦宣言は禍根を残しかねない」(日経 同) 
 
「問題は、金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ氏に確約した『朝鮮半島の完全な非核化』について、北朝鮮が具体的な措置を取ろうとしていないことだ。……遺骨返還やミサイル実験場の解体を成果と受け止め、北朝鮮の交渉ペースに乗せられることがあってはならない。……非核化まで圧力の維持が欠かせない」(読売 同) 
 
「北朝鮮は朝鮮戦争の終戦宣言を要求するが、安易に応じては危うい。北朝鮮に対する軍事的圧力が一層弱まり、将来的には在韓米軍の撤退につながりかねない。それでは北朝鮮が核・ミサイル廃棄にますます応じなくなる。……北朝鮮が真の非核化に本気で踏み出そうとしているかを判断するバロメーターは、核・ミサイル計画、施設、戦力の全容の申告と、米当局による査察の受け入れである。その実現に向け圧力を強めなくては、平和は確保できない」(産経 同) 
 
 NHKも、朝鮮側の「首脳会談の合意に逆行するような動き」だけ──しかも合衆国側の一方的な見方だけ──を紹介して、遺骨を返還したキム・ジョンウンに感謝するドナルド・トランプについて、「楽観的な見通しを強調しているんですけれども、北朝鮮のペースにはまっているようにも見え(る)」と心配している。(有馬嘉男 ニュースウォッチ9 18/7/31) 
 マスメディアはこのように朝鮮政府の行動にばかり注目して非難する一方で、合衆国側が合意を守っているかどうかについては不問に付している。 
 先月行われた米朝高官協議の後、朝鮮政府は合衆国側が「北朝鮮の非核化」だけを一方的に押し付けて朝鮮半島の平和体制構築のための交渉に応じようとしないと抗議したが、その際、マスメディアは合意を守ろうとしない合衆国側を批判するのではなく、逆に合意に忠実であろうとする朝鮮側を非難している。(日刊ベリタ18/7/15) 
 また先月27日には、核搭載可能な米軍のB52戦略爆撃機と自衛隊のF15戦闘機が日本海上空で共同訓練をしている(毎日18/7/29)が、これについても全くお咎めなしだ。 
 
 マスメディアの朝鮮政府に対する非難は、冒頭で紹介した米朝首脳会談の合意を無視するものだ。マスメディアは合意を履行している朝鮮政府を批判するのではなく、合意に反する行動を取っている合衆国政府や日本政府を批判すべきだろう。 
 またマスメディアは朝鮮戦争の終結宣言よりも朝鮮の非核化が先だなどと主張しているけれども、戦争が終結しておらず、相手側が依然として敵対行為を行う中で、朝鮮側が先に核兵器を放棄するなどという事が考えられるだろうか。ましてや相手は、ベトナム・カンボジア・ラオス・グレナダ・パナマ・イラク・アフガニスタン・リビア等々、ほとんど無防備の相手を一方的に攻撃することを得意とするアメリカ合衆国だ。第二次世界大戦終戦間際にも、敗戦が濃厚でほとんど抵抗できない日本に対して2発の核爆弾を投下し、日本政府が1945年8月10日に連合国側に降伏を受け入れる方針を伝えた後も米軍の爆撃機は日本が降伏したことを知らせるビラを上空から撒きながら終戦当日の8月15日未明まで日本各地の都市を空爆した。マスメディアのフェイクニュース(嘘のニュース)に惑わされず、少しでも合理的に物事を考えることができる人なら、朝鮮半島の非核化のためには合衆国が敵視政策をやめて朝鮮戦争を終結する必要があるという結論に達するだろう。 
 キム・ジョンウンは、合衆国の軍事的脅威がなくなれば核兵器を保有する理由はないと述べている。「北朝鮮が合意を反故にしてきた」というマスメディアの主張は事実と真逆の幻想に過ぎない(日刊ベリタ18/3/12)。朝鮮半島の非核化を進めるには、合衆国が国際法を守って武力による威嚇などの挑発行為を止め、米朝首脳会談での合意に従って朝鮮戦争を終結させるための交渉を開始すればいい。それが最も合理的かつ現実的で平和的な解決策ではないだろうか。 
 
 しかし自由に考えることが許され、言論の自由が保証されている日本のマスメディアで、このような提案はほとんど聞かれることがない。独裁国家のキム・ジョンウンも、さぞかし日本のマスメディアから学ぶべきところが多いと考えていることだろう。 


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