2018年08月12日15時22分掲載
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遺伝子組み換え/ゲノム編集
日本消費者連盟、ゲノム編集技術の規制で関係各省に意見書 「遺伝子組み換え技術と同等の規制と表示を」
政府現在、カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会(座長:大澤良)を設け、ゲノム編集の規制について検討を進めている。これはゲノム編集技術のうち、いかなる技術がカルタヘナ法で規定される遺伝子組換え生物等を作出する技術に該当する技術であるかを整理することが目的。この問題を所管する環境省は7月11日、中央環境審議会の遺伝子組換え生物等専門委員会を開催、今後の検討方向を打ち出したが、その方向に危惧を示す日本消費者連盟など市民団体は8月10日、関係省庁の大臣と検討会委員に対し、ゲノム編集技術など遺伝子操作技術の規制と表示を求める意見書を出し、今後の検討方向について「新技術は遺伝子組み換え技術よりも安全とは認められず、少なくとも遺伝子組み換え技術と同等の規制と表示をすべき」との意見を表明した。(大野和興)
カルタヘナ法とは遺伝子組み換え生物の規制に関する法律で、7月11日の会合で環境省はゲノム編集技術を二つに分けて提起した。一つはDNAを切断し、遺伝子の働きを壊す技術。いま応用が広がっている技術だ。もう一つは、切断部分にDNAを挿入するという技術で、前者は遺伝子組み換え技術の該当しないので法規制の対象とならないという方向を打ち出した。挿入した場合は規制の対象とする。
環境省が打ち出した方向で今後政府内の議論が進むと、このままではDNAを切断して遺伝子を壊すゲノム編集については環境影響評価も表示もされないことになり、イノベーションを進める側の都合だけで突き進んで行くことになる。
【意見書】ゲノム編集技術など遺伝子操作技術の規制と表示を求める意見書(2018年8月10日)
2018日消連第4号
18FSCW第8号
2018年8月10日
環境大臣 中川雅治様
農林水産大臣 齋藤健様
厚生労働大臣 加藤勝信様
経済産業大臣 世耕弘成様
財務大臣 麻生太郎様
文部科学大臣 林芳正様
消費者及び食品安全担当大臣 福井照様
消費者庁長官 岡村和美様
遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン
代表 天笠啓祐
特定非営利活動法人日本消費者連盟
共同代表 天笠啓祐
共同代表 大野和興
食の安全・監視市民委員会
代表 神山美智子
ゲノム編集技術など遺伝子操作技術の規制と表示を求める意見書
今日、ゲノム編集技術やRNA干渉技術など、遺伝子組み換え技術に代わる新しい遺伝子操作技術(以下、「新技術」)による農畜水産物の新しい品種が開発され、その一部は実用化され、市場に出ています。私たちは、不安の多い遺伝子組み換え食品の実用化に反対するとともに完全な表示を求めてきましたが、新技術は遺伝子組み換え技術よりも安全とは認められず、少なくとも遺伝子組み換え技術と同等の規制と表示をすべきと考え、以下の通り、意見書を提出します。
記
1.新技術の安全性は確立されていません
大きく偶然性に依存する遺伝子組み換え技術に比べて、新技術は確実・安全であるかのように宣伝されていますが、そのようなことはなく、不安は払拭できません。少なくとも遺伝子組み換え食品と同等以上の安全性の確認が必要と考えます。
(1)ゲノム編集技術はより確実に標的の遺伝子を破壊もしくは置換できると宣伝されていますが、実際にはオフターゲットやモザイクと呼ばれる意図しない標的以外の遺伝子の変化や破壊が起き得ます。標的とした遺伝子でもRNAの働きに変化が起き、蛋白質に変化が起きるなど、さまざまな機能への影響が考えられます。
(2)一連の操作の過程で、操作対象の生物の遺伝子を傷つける可能性が否定できません。結果として想定外の有害因子を生ずる可能性は否定できず、安全とはとても言えません。
(3)現在遺伝子組み換え作物で実施されている「実質的同等性」の審査は安全性の確認には極めて不十分ですが、新技術の食品ではそれさえも行なわれないとなれば、消費者には大きな不安となります。
2.新技術は自然に起こる現象とは言えません
ゲノム編集によって特定遺伝子が破壊されることは自然界でも突然変異で起こるものであるので規制の対象としないという考え方がありますが、ゲノム編集による遺伝子の変換は、自然界に起こることとは質的・量的に異なり、けっして同等のものではありません。
(1)特定の遺伝子といっても、類似の遺伝子が多数存在しており、それらの多くが壊されたり影響を受けることは自然界ではありえないことです。自然界で起こる突然変異の頻度と異なり、遺伝子を破壊された動植物が次々と生み出され、増殖されていくことは、不自然と言わざるをえません。
(2)人為的な遺伝子の操作は自然に起こりうるものではあっても自然なものではありません。自然界にない特定の遺伝子を欠失した作物はカルタヘナ議定書にいう「遺伝素材の新たな組合せを有する生物」であり、遺伝子の改変には、挿入・置換だけでなく破壊も含まれるとすべきです。新技術の産物は「現代のバイオテクノロジーにより改変された生物」として取り扱うべきと考えます。
(3)新技術で作られた生物が規制対象外となれば、管理されない改造生物が野生化もしくは野生生物・在来種作物と交雑して遺伝子汚染をもたらす可能性があります。その結果、想定外の生態系への影響が出てからでは、もはや対応は困難です。
3.新技術食品は遺伝子組み換え食品と統合して規制すべきです
上記1及び2の理由により、新技術により開発された食品は遺伝子組み換え食品と同等に扱い、環境(生物多様性)と人の健康に影響を及ぼさないよう、審査、規制すべきと考えます。遺伝子組み換え食品と新技術食品を合わせて「遺伝子操作食品」として規制の範疇を広げるべきと考えます。
(1)新技術食品は、完全に解明されているとは言えない遺伝子の働きに人工的に改造を加えるという本質において変わるところはなく、同じようなリスクを抱えているものと捉えるべきです。
(2)遺伝子やその働きにかかわる生命の仕組みを操作する新しい技術は、これからも次々に開発されると考えられます。これに対して規制が後手に回れば、取り返しのつかない惨禍をもたらさないとも限りません。
4.新技術食品と遺伝子組み換え食品の全面表示をしてください
新技術の起こす改変が自然界の突然変異でも起こりうるということと、検査できないことは、新技術による食品の表示を免除する理由にはなりません。遺伝子組み換え食品とともに、全面表示を要望します。
(1)新技術は安全ともいえず自然とも言えないもので、消費者は不安を持っています。消費者には選択する権利があります。遺伝子組み換え食品の表示制度も改め、すべての遺伝子操作食品についての全面表示を要望します。
(2)検査できないことは表示しない理由にはなりません。むしろ検査等でわからないからこそ、表示が必要です。表示があれば消費者は商品を選ぶことができますし、原料段階の表示があれば食品製造者の原料管理は容易となり、混入事故を防止できます。EU(欧州連合)の例を見ても、表示をすることも表示を検証することも困難なことではありません。
以上
*同文の意見書を同日以下にも提出した。
カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会座長 大澤良様
カルタヘナ法におけるゲノム編集技術等検討会委員 各位
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