2018年08月12日15時36分掲載  無料記事
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環境

国交省、下水に紙オムツを流すことを検討 懸念されるマイクロプラスチックの海洋汚染 上林裕子

 国土交通省は、人口減少で下水道施設に余裕能力が生じるため、そこに紙オムツを粉砕して流すことを受け入れれば『少子高齢化社会に貢献する』として、「下水道への紙オムツ受入実現に向けた検討会」を設置、紙オムツを下水に流す検討を始めた。介護施設などで大量に排出される使用済み紙オムツの処理は介護職員にとって大きな負担になっている、というのがその理由のひとつだ。しかし、紙オムツは紙だけでできているわけではなくその30%〜60%はプラスチックと高吸水性ポリマーだ。海を汚染するマイクロプラスチックが地球規模の環境問題なっている今、政府が「紙オムツを下水に流す」という方針を示したことに市民団体は猛反発している。 
 
 高齢化の進展で大人用紙オムツの需要は伸びている。2016年に生産された紙オムツは乳幼児用が139億枚なのに対し大人用は74億枚だが、大人用紙オムツの需要は今後さらに増加すると見込まれる。 
 未使用の大人用紙オムツは約50gだが、尿などの排泄物を含んだ使用済み紙オムツの重量は4倍になるといわれ、重い紙オムツをまとめてごみに出す作業は介護職員にとって重労働だ。低賃金で仕事がきついため人員確保が難しいとされる介護職員の負担軽減策として「紙オムツを下水に流す」という提案がでてきた。 
 下水道事業にとっても、人口減少によって下水料料金の収益が下がり、加えて下水道管等の設備・施設の老朽化が課題となっているため、新たな収益事業が検討課題になっている。そのために考え出されたのが「紙オムツを粉砕して下水道下水道に流す」ということなのだ。 
 
■地域で進む紙オムツリサイクル 
 
 年々増え続ける紙オムツの処理には地方自治体も頭を痛めている。水分を多く含んだ紙オムツは焼却炉を傷めるばかりではなくまとめて入れると炉の温度を下げるという厄介な存在なのだ。そのため地方自治体の中にはリサイクル方法を模索し、実施しているところもある。 
 
(1) 人口1万4000人の福岡県大木町は2011年11月から町内54カ所に回収ボックスを置き、家庭から排出される紙オムツを町が週2回回収している。回収量は年間84万トンで、回収された紙オムツは上質パルプ、低質パルプ、廃プラRPF等に再生され、それぞれ建築資材や土壌改良材、燃料として利用されている。 
(2) もともと家庭ごみを27分別していた鹿児島県志布志市は、2016年11月から家庭から出る紙オムツも分別回収する「使用済み紙オムツ再資源化事業」を実施している。同事業はユニチャーム蠅2015年に開発した紙オムツから再生した上質パルプをオゾン処理することによって、再び紙オムツに再生できる技術を利用しているという。 
(3) 島根県伯耆町では2016年から町が病院や介護施設から週5日使用済み紙オムツを回収しペレットに再生、町営温泉施設で利用している。 
 
 こうしたリサイクルの芽が育ちつつあるのに、わざわざ紙オムツを粉砕して下水に流すという政策を打ち出してくる意図が正直、理解できない。島根県伯耆町のリサイクル設備は7000万円台で導入したもので、自治体は介護施設等から回収した紙オムツを、ビニール袋ごと機械に入れるだけだという。 
 
■懸念する市民団体の質問には回答なし 
 
 紙オムツのリサイクル体制が少しずつでも動き出しているのに、国交省が「下水道への紙オムツ受入実現に向けた検討会」を開催、下水に流すという政策の実現化を検討し始めたことに環境団体は反発している。紙オムツの原料の30%〜60%はプラスチックと高吸水性ポリマーだ。 
 
 EUでは2030年までに使い捨てのプラスチック容器包装をやめると宣言している。世界中がマイクロプラスチックによる海洋汚染にどう取り組むかを模索している時に、紙オムツを破砕して下水に流す検討をしている日本の地球環境問題に後ろ向きな姿勢が問われそうだ。 
 
 国交省は破砕して下水に流しても下水処理場できちんと処理、川や海を汚染することはないと言う。これに対し、容器包装の3Rを進める全国ネットワーク(3R全国ネット)は今年3月に「雨水を一緒に流す合流式下水道の場合、雨が降って下水があふれ出したときに破砕紙オムツが流れ出すのではないか。対策は取られているのか」「下水に流した紙オムツは施設内で完全に除去できるのか。プラスチックの微細な破砕物が処理場のフィルターをくぐりぬけて、川や海に流出する可能性はないのか」「すでに実用化されているリサイクルと比較してメリット・デメリットは」等の質問状を送付したが、7月20日現在国交省からの回答は得られてないという。 
 
■企業のための市場拡大をと閣議決定 
 
 国交省は2005年に、人口も減りこれまでと違って地球環境も厳しくなる今後100年を見通して「水ビジョン2100」を策定した。下水を汚水や雨水を排除・処理することから、健全な水循環と資源循環へと転換する『循環のみち』をテーマに掲げた。 
 
 その「下水ビジョン2100」から10数年しかたっていないのに、「紙オムツを下水に流す」という政策が生まれてきたのはなぜなのか。 
 
 それは、2017年6月9日に政府が閣議決定した「未来投資戦略2017」による。この中で下水分野の目的達成は「民間企業に大きな市場と国際競争力強化のチャンスをもたらす」とされており、企業にとってビジネスチャンスをもたらすものであることを求めている。 
 
 確かに家庭内や施設内に紙オムツを粉砕するデスポーザーをとりつけ、紙オムツを投げ込めばそのまま下水に流れていけば便利であるが、その設備費はだれが負担するのか。高吸水性ポリマーが途中で詰まったりしないよう下水管も取り換える必要も出て来るだろう。それが企業の市場拡大ということらしいが「そうしたコストはだれが負担するのか」という点についても説明が必要だろう。 
 
 国交省も老朽化した設備・施設の改修などを下水道事業の収益だけではやっていくことは難しいため、『水ビジョン2100』の中でも「PPP(官民連携)」「PFI(公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間を活用して行う手法)」を政策の柱の一つにあげている。 
 しかし、公共事業である下水道事業でのPFIは単なる企業のビジネスチャンスであってはならないし、環境問題への配慮も忘れてならないはずである。 
 
(ジャーナリスト) 


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