2018年08月19日14時11分掲載  無料記事
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映画『ポップ・アイ』 役立たず同士の500キロ  笠原眞弓

 あなたはこれまで自信を持って取り組んできたことに、理由もなく外されたらどうするか? この映画の主人公タナーは、象と旅に出た。 
 
 タナーは、かつては花形建築家。大型商業施設を設計したのだが、それも取り壊すか、建築遺産として残すかが議論されている。新しい大きな仕事も2代目社長に当然のように外された。 
 面白くないなァ。そんな時出会った象。そう、ここはタイである。まさか、フツウに象が街中を歩いているのか? その象は、飼い主に見世物として飼われているようだ。 
 
 運命の出会いだ。タナーは故郷を出る資金としてサーカスに売られた「ポパイ」と再開したのだ。その場で買い取るが妻に嫌われ、ポパイをかわいがってくれたおじさんに預けようとふるさとに連れて行くことに。会社にはやけ気味の「期間不明休暇」の電話をして、始まった1人と1頭の500キロの珍道中。 
 
 ちょっと間の抜けた警察官とのやり取りやゲイのシンガーに助けられたり……。霊感鋭く自分の近い死を予言するホームレスに、何気なく示すやさしさと漂う哀しさ。溢れ出すタナーの人柄は、彼の今の心理状況を物語るのか。 
 
 ポパイを託そうと思っていたふるさとは、言葉の通じなくなった異郷に等しく、決定打は、数年前ポパイはサーカスとして役立たなくなったから殺処分したと聞かされたこと。「役立たなくなった」象と彼は、自然保護区に向かう。 
 
 水浴びをするポパイ。昼寝をするタナーに日陰をつくるポパイ。だが彼(ポパイ)は、1人自然保護区への道を歩き出す……のだが……。 
 
 近代化に向かうバンコク、いやタイ全土で、とり残されていく「昔」。でもまだそれを受け入れる隙間は残っているようにも見えた。 
 シンガポール出身のカーステン・タン監督は長編第1作目を作るにあたり、タイ滞在中に出会った野良象からインスピレーションを得たという。野良象のいるタイって、どんな国なの!!! 運河に蓋をして作ったと聞く広い道路を駆け抜けていった数十台のオートバイを思い出しながら、興味は尽きない。 
 
102分/8月18日よりユーロスペースにて公開後、全国展開。 


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