2018年08月21日07時49分掲載
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国際
国際的協定を次々ぶち壊すトランプ − イラン制裁復活の悪影響は重大。すり寄るのは日本だけ −坂井定雄(さかいさだお):龍谷大学名誉教授
米、英、仏、独、ロシア、中国の6か国は、イランの核開発中止を求めた安保理決議に基づいて06年から対イラン経済制裁を実施。2年間にわたるイランとの交渉の末、2015年4月に厳しく平和利用に制限する協定―合同包括的行動計画(JCPOA)を取りきめた。同10月から安保理決議に基づいて制裁を解除。その後、JCPOAの実施を国際原子力機関(IAEA)が監視、現在までに10回の現地査察も行い、ごく小さな違反数件以外、協定が実行されていることを確認していた。制裁解除後、イランは石油輸出を大幅に増やし、国民生活を改善、欧州諸国からの投資による開発プロジェクトも始まっていた。
ところがトランプ米大統領は5月、JCPOAから米国が一方的に脱退することを公式に発表。他の5か国それぞれから強く批判されながら、対イラン制裁を新項目を含め復活、拡大しはじめた。トランプ自身が明らかにした8月7日から実施された禁止項目はー
1. イラン政府による米国銀行券の調達
2. 金およびその他の貴金属の貿易
3. グラファイト、アルミニウム、鋼鉄、石炭、産業用ソフトウエアの貿易
4. イランの通貨リアル関連の取引
5. イランの公的債券発行に関連する行動
6. イランでの自動車関連事業
これと同時に、11月5日からは、さらにイランにとって重い以下の禁止事項を実施するとトランプは明らかにした。
1. イランによる港湾作業、エネルギー、海上運航、造船
2. イランによる石油関連取引
3. 外国の金融機関によるイラン中央銀行との取引
トランプ政権のイラン制裁再開に対し、米国以外のJCPOA参加5か国は強く反発、厳しい批判声明を発表するとともに、米国に同調して制裁を復活する意思はないことを表明した。しかし、一部企業は、イランで新しく着手した事業を中断することを発表した。また、イランの通貨リアルが暴落し、一時は対ドルレートが半分近くになる事態もあったが、その後回復し、現在は80−85%程度でほぼ安定している。リアルの暴落で、輸入品の価格が暴騰、イラン国内ではリアルを金に替える騒ぎが発生したが、それも収まったようだ。
トランプは、イランの原油輸出をホルムズ海峡で阻止する可能性も示唆。イランはホルムズ海峡で軍事演習、サウジアラビアはじめ湾岸諸国からの原油輸出全体を止める可能性を示唆したが、小規模にとどめた。しかし、米国がトランプの発言通り11月からのより包括的なイラン制裁を実施すれば、事態は急変する可能性がある。JCPOA参加5か国の努力に期待がかかる。
トランプ政権下の米国は、1年半の間にユネスコ(国連教育科学文化機構)、TPP(環太平洋連携協定)、パリ協定(地球温暖化対策)、そしてイラン核開発制限合意(JCPOA)などの国際機関、国際協定から一方的に脱退、UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への拠出金(年額1億2500万ドル)のうち半額の6,500万ドルの支払いを凍結した。この金額はUNRWAの年間予算の約6分の1.米国がこれだけの拠出金を支払ってきた理由は、米国が主導した1947年の国連パレスチナ分割決議、イスラエル建国とその後の4回の戦争で発生したパレスチナ難民を支援するため。これまで、米国はその責任としてUNRWA経費の約3割を負担し続けてきたが、トランプはいわばその責任の半分を放棄したのだ。
わたしが6月に滞在したパレスチナでは、UNRWAが運営する学校の先生給与が減額され、男の先生たちは、一家の生活のため、タクシーの運転手などのアルバイトをしなければならなくなっていた。
戦後の歴代米政権では、トランプ政権ほど米国の利益をむき出しにして、自国が参加している国際的な協定や合意をつぎつぎと破り捨てる政権はなかった。世界の主要国はトランプ政権を厳しく批判して、同調しないが、日本の安倍政権だけが、トランプを非難どころか批判もできず、すりよるばかり。情けない限りだ。
坂井定雄(さかいさだお):龍谷大学名誉教授
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