2018年08月22日13時17分掲載
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コラム
サルトルらが創刊したフランスの評論誌Les Temps Modernesに日本の政治について書きました その2 村上良太
8月16日にフランスで発売となった評論誌"Les Temps Modernes" に日本政治について触れた拙稿が掲載されたことは前回少し書きました。こんなことを言えば、よく日本の人から言われるのが「フランス人は日本の政治に関心があるのですか?」という質問です。また、先月発売となった新刊本「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」についてもフランス人から逆に「日本の人がフランスの政治運動に関心があるのですか?」と聞かれます。
フランスと言えば女性誌やファッション誌、あるいは文芸誌などで哲学思想や流行のファッションばかりが取り上げられる半面、フランス人の生活それ自体や社会の変化が取り上げられることは比較的少ないと思います。まったくないわけではなくて、フランス社会でなぜ出産がしやすいのか、と言った各論的なテーマはあるのですが、それでもバランスから言えば圧倒的に少なく感じてきました。
また逆に日本に関心を持つフランス人たちが漫画やアニメ、浮世絵や日本酒などの文化に関心を寄せる半面、日本人の生活の実像とか、社会の実像あるいは政治のあり方に関心を寄せることは少ない気がします。というよりほとんど知られていないのではないでしょうか。このことは日本人がフランスにおける政治の実像に無知であることと裏返しであると思います。
なぜこのような現象が両国で起きているのかと言えば、互いに生活の問題を抱えている中で、遠く離れた異国に夢やロマンを求めているからではないかと思えてなりません。パリに行けば日本国内で感じているようなうっとおしい現実をしばし忘れられる・・・こうした感覚はないでしょうか。フランス人の中にもそうした感覚がないのでしょうか?いや、仮にそうした性質のものであっても、それはそれで機能を果たしているのであれば否定されるものではないと思います。実を言えば僕自身、先述した文芸誌やファッション誌などには若い頃から親しんできました。とはいえ、そこだけで安住していると、同時代に生きている人々のことが見えなくなってしまいかねません。
そのことを強く感じるのは日本人の観光客に限らず、パリを訪れる観光客の多くがモディリアーニやユトリロ、ピカソといった過去の巨匠の足跡を観光ガイドつきのバスでささっと回っていく姿に象徴されます。そこには今日生きて作品を作っている同時代の芸術家たちへの関心が入り込む余地がほとんどありません。やはり、こうしたあり方は異常な気がします。19世紀末やエコールドパリなどの過去の豊かだった時代の伝説ばかりが再生産されるのは、逆に言えば現代から目を背けることにもつながっているように思えるのです。私たちが生きているのは今、この時代なのです。そこから目を背けて何かが生まれうるでしょうか。
今回、フランスの評論誌に日本の実情を書き、日本で出版される本にフランスの実情を書いたのは、芸術や流行の情報や思想・哲学と、社会のあり方や政治のルポを僕なりに結びつけてみようと考えたからです。
村上良太
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