2018年10月07日15時08分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

日米物品交渉なる官製フェイクについて 小倉利丸

 9月26日の日米会談で発表された日本政府のいう日米物品交渉については、その日本政府訳が怪しいという報道を数日前に東京新聞が報じ、その後、米国はこれをFTAと認識し、日本政府はFTAとは別ものの協定だと主張して、双方国内ナショナリズムに配慮した化かし合い合戦が起きています。 
 
 結論からいうと、かなりこの声明は問題が多く、得に、物品以外に明示的に「サービス」を入れているので、金融など従来の分野だけでなく、公共サービスを米国並に市場開放させて米国資本のビジネスチャンスにしようとする思惑があるとすると、オバマケアですらあれだけの攻撃なのですから、海外の公的な医療や社会保障への攻撃はもっと深刻になるかもしれません。また水道の民営化も現在狙われているので、こうした分野や、あるいは公共交通(自治体が運営しているバスなど)もターゲットになるかもしれません。下記のちょっと詳しく訳文の分析をしましたが、米国は、サービス分野と物品分野を並列して攻勢をかけるので、サービスで妥協できないなら物品で妥協せよというやりくちになるかも。(ぼくはこの手の政治の実務的な判断は苦手ですが) 
 
声明本文の英語はホワイトハウスにあります。 
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/joint-statement-united-states-japan/ 
 
日本語訳は 
日本政府訳 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000402972.pdf 
在日本米国大使館の仮訳 
https://jp.usembassy.gov/ja/joint-statement-united-states-japan-ja/ 
 
 この二つの訳を比較するだけでも興味深いです。 
 
 とくに第三段落が問題の焦点です。 
<日本政府訳> 
日米両国は、所要の国内調整を経た後に、日米物品貿易協定(TAG)について,また,他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても,交渉を開始する。 
 
<米大使館訳> 
3. 米国と日本は、必要な国内手続が完了した後、早期に成果が生じる可能性のある物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する。 
 
<英語の原文>では 
3. The United States and Japan will enter into negotiations, following the completion of necessary domestic procedures, for a United States–Japan Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services, that can produce early achievements. 
 
 
 TAGという文言がないことは問題として注目されていますが、それ以外に、重要なのは、Proceduresを日本政府は「調整」と訳し、米大使館は「手続き」と訳していることです。しかも、日経は「日米でTAGを交渉する場合、米国は議会承認が必要となる。」と報じており、あたかも日本国内では国会承認が不要であるかのように報じていますが、「手続き」であるなら必要でしょう。国会での議論を回避するために「調整」と訳したと思います。 
 
 そのほか、以下は翻訳についてのメモみたいなもの。 
 
 第三段落の下記の箇所について 
 
United States–Japan Trade Agreement on goods, as well as on other key areas including services, that can produce early achievements. 
官邸訳 日米物品貿易協定(TAG)について,また,他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても,交渉を開始する。 
 
United StatesーJapan Trade Agreement on goodsを「日米物品貿易協定(TAG)」と訳している。しかし、英文で大文字になっているのは、 United States–Japan Trade Agreementであり、on goodsは小文字だ。しかもTAGという略語はない。なぜこの略語を追加したのだろうか。これは「誤訳」というよりも意図的な声明の趣旨の改変とはいえないだろうか。略語を追加したことで、あたかも物品交渉が主な課題になってるかのような印象を与えた。 
 
 もうひとつの問題は、「as well as」をどのように訳すかだ。で、ニュアンスが変わる。ネットの辞書「eijiro」では、 
 
《A as well as B》AもBも、AおよびB、BだけでなくAも、BはもちろんAも 
 
と説明している。次のように訳すこともできる。 
 
「日米貿易協定について,サービスを含む他の重要な分野―早期に結果を生じ得るものであるが―についてはもちろんのこと,物品についての交渉も開始する。」 
 
 日経の報道にあるように、安倍首相は「TAG交渉はこれまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と説明している。しかし、声明にはTAGという文言は存在しないし、FTAとも異なるということの明言はない。こうした政府の説明は、「正しい」のだろうか。もし「正しくない」とすれば、TAGという声明にはない文言を訳文に入れたことも含めて、その意図が問題になる。 
 
「日米共同声明」について 
・日米貿易交渉でなぜ日本政府は英語の「共同声明」にはない文言を挿入したのだろうか。 
・日本語による「共同声明」をメディアが報じることによってどのような「効果」が生まれるのか。 
・こうした政府の日本語訳は「フェイクニュース」といえるだろうか。 
 
 
 こうした翻訳を介した世論操作の例は日本国憲法も含めて山のようにあります。 
 
toshimaru ogura 
rumatoshi@protonmail.com 
http://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/ 


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