2018年10月14日11時47分掲載  無料記事
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重信メイ著 「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」 その2

  重信メイ著 「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」を読んでいると様々なことを考えさせられる。アラブに関する報道のあり方だけでなく、国際報道のあり方もだ。日刊ベリタの寄稿者、平田伊都子氏の著作にはカダフィやアラファトなどにインタビューした伝記が何点かあるが、平田氏は常々、日本の大手新聞の支局員がわずか数年で入れ替わるために現地に深く広く人脈を持つ記者が育たないことをしばしば嘆いていた。支局に数年いたあと、記者は別の支局に回されるか、日本に戻されるかとなる。だから、現地の事情に精通した人が比較的乏しい、というのだ。15年あるいは20年以上支局に滞在する記者が果たして何人いるだろうか。 
 
  重信メイ氏の「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」に関して言えば、たとえばリビアに関する大手メディアの報道である。2011年の当初は多くの新聞やテレビでは独裁者カダフィを批判する記事が圧倒的だったと思う。しかし、重信氏はリビアが「世界でも類を見ないほどの福祉国家だった」と書いているのだ。 
 
  「これまでに、チュニジアとエジプトで革命が起こった理由として、『若者たちの失業率の高さ』と『政府の腐敗』を挙げました。しかし、リビアの場合は状況がだいぶ違いました。リビアの場合は、教育に関しては大学まで無料。医療費、電気代、水道代も無料。家やクルマを買うときのローンも国が半分援助してくれます。私が知る限り、世界でもっとも豊富な福祉国家だったと思います。」 
 
  リビアがこうした国家だったとしたら、2011年にメディアで頻繁に見せられた悪の化身のようなカダフィの映像もどこかバイアスがかかっていたのではなかろうか。確かに反政府派を暴力的に封じ込めた面はあっただろうし、批判されるべきだっただろう。しかし、そうだとしたら、批判されるべき国はリビア一国に限らない。サウジアラビアもそうである。アメリカですら自国民を暗殺しているのだ。 
 
  僕の想像に過ぎないが、現地支局員が情報を見誤る原因は先ほど書いた通り、支局員の現地滞在歴が短いケースが少なくないことや、現地事情に比較的疎い支局員の周りを囲む情報提供者たちが現地の有力者に取り込まれている人たちなのではないか、ということである。そうした人びとが政治的な意図をもってバイアスのかかった情報ばかりをメディアの支局員に提供したなら、日本にもたらされる情報は相当にゆがんだものになる。では重信メイさんの記述が何を根拠に正しいと言えるか、と聞かれたなら、その後の事態の推移そのものが語っている。リビアがその後、どのような悲惨な事態になったかということだ。そして、重信さんは2012年の秋の段階で本書にこうも書いている。 
 
  「それまでメディアはあんなに騒いでいたのに、カダフィが死んだ後はさっぱり報道が止んでしまいました。おそらく、世界中の人たちは、その後、リビアは民主化されて平和な状態が続いていると思っているのではないでしょうか。しかし、実はまだ内戦が収まってはいないのです」 
 
  メディアの報道だが、リビアの場合についていうなら、おそらく報じていたのはカイロ支局あたりではないだろうか。朝日新聞の場合はカイロにある中東アフリカ総局がリビアをカバーしており、細かく見れば中東アフリカ総局のもとにエルサレム支局、ヨハネスブルク支局、テヘラン支局、バクダッド支局、ドバイ支局、イスタンブール支局などがある。読売新聞の場合は中東とアフリカで系統が分かれている。中東がカイロ支局、エルサレム支局、テヘラン支局でアフリカに関してはヨハネスブルク支局である。新聞だけでなく、テレビも同じである。 
 
  新聞の読者は読みたくもない様々な紙面の記事とともに、肝心の情報であってもバイアスのかかった誤った情報を高い購読料や受信料を払って読まされていることになる。 
 
 
 
■重信メイ著 「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」 その1 
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