2018年10月14日22時08分掲載
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重信メイ著 「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」 その3
重信メイ氏による「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」の結末にはこう書かれている。
「『アラブの春』の本質はメディア戦争だったと私は思います」
ここで入り口がチュニジアのフェイスブックなどのソーシャルメディアを駆使したジャスミン革命で、出口はリビアやシリアで政府を倒したい勢力がアル・ジャジーラを使って反政府運動を煽ったことが指摘されている。当初はソーシャルメディアが民主化運動にいかに貢献したかというデジタルコミュニケーションを理想化した報道が主流だった。
しかし、若者たちが自発的に始めたという報道には疑問があった。というのはジャスミン革命が始まったのは2010年12月だが、その半年前の2010年7月にニューヨークタイムズでイスラム世界の政治改革運動にアメリカが関与している可能性があることが書かれていたからだ。アメリカのクリントン国務長官のもとでデジタル機器を使った「民主化」の波を起こそうというプロジェクトが進められていたことが書かれていたのである。それもイスラム世界で、だ。だからジャスミン革命の進行した時に「もしかしてあれか」と思えたのだった。2010年7月22日のラミ・クーリ(Rami G.Khouri)氏による" When Wrabs Tweet " (アラブ世界がツイートする時)という一文である。
https://www.nytimes.com/2010/07/23/opinion/23iht-edkhouri.html
ジャスミン革命で、どこまでアメリカの影響力があったのかはよくわからないが、「アラブの春」の仕掛人の一人が米国だった可能性は捨てきれない。そもそもデジタルコミュニケーションを世界的に作り出したのも米軍と米政府と米国企業である。オバマ政権は100年に一度の大恐慌の中にスタートした政権であり、極めて予算が限られていてほとんど国家財政が破綻する危機にさえあった。もちろん軍事予算は徹底的に削られようとしていた。だからこそ、日本の軍事力を使うことが求められていたし、アメリカの国益を進めるためのアラブ世界の政変に予算をかけずに済むデジタル機器の使用が検討されたとしても不思議ではない。ラミ・クーリはこの寄稿で若者たちに民主化を促すなら、金と武器も与えてやれと言っているのだ。実際、リビアやシリアでは兵器のテコ入れや軍事介入などを行い反政府派を支援した。
重信氏はリビアやシリアの民主化運動の裏には国益を背負ったカタールのアルジャジーラ放送が深く関与していたと述べている。原理主義を進めるカタールにとっては世俗派の政権のカダフィらは倒すべき敵だったのではなかろうか。
「アラブの場合、大きな役割をになったのはやはりアルジャジーラです。今回、『アラブの春』の報道をめぐり、アルジャジーラ内部からも不協和音が聞こえています。アルジャジーラがウソの報道をすることにうんざりしたスタッフが大量に辞めています。ジャーナリストとして、メディアに関わる者としてのポリシーに反するという理由や、同じシリア人として同胞を苦しめる報道に与したくないという理由で辞めた人たちです。今回の一連のできごとに対して、アルジャジーラは明らかにリビアでは反カダフィ、シリアでは反アサドというスタンスでニュースを放送していました」
これはインターネットで新聞情報などを読みながら当時考えていたことと同じことであり、自分の中の仮説が少なくとも重信氏の考えと同じだったことを知った。この「アラブの春」は日本のマスメディアがいかに海外情報を正確に伝えていないか、あるいはいかにある意図に沿って報じられているかがよくわかるケースに思えてならない。だからこそ、「『アラブの春』の正体 〜欧米とメディアに踊らされた民主化革命〜」はそのタイトルにあるように外国メディアだけでなく日本のメディアの問題をも如実に描いている書だと思う。それは大手メディアであっても皮相な報道が行われているということである。
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