2018年10月24日05時45分掲載
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コラム
「嬬恋村のフランス料理」25 仲間たちのこと その 2 原田理(フランス料理シェフ)
東京で自分の店をやっていた頃、定期的に来ていただいていたご夫婦のお客様がいました。仲睦まじく、僕の作ったフランス料理を美味しそうに召し上がっていました。僕の料理をとても愛してくれて、嬉しそうに店に来ていただいていました。嬬恋村に移住してからも最初は連絡をしていましたが、ここでの生活になれた頃、いつしか連絡も少なくなっていきました。
嬬恋村に移住してから8年が経とうとしています。嬬恋村は第二の人生と言える、人の力と人の力だけが織り成すことのできる「運命」のような力を持った出会いがとても多くある魅力ある場所のように思います。
失意のどん底にいた僕を引き上げて、一から叩きなおしてくれた先代五十嵐総料理長。長く一緒に働き、今も共にいる橘料理長。今のホテルに入ってフランス料理の厨房を支えてくれた森木、勝又、長橋君などの料理人たち。羽鳥日本料理長とは違うジャンルながらも、協力してホテル全体を盛り上げていきました。ブッフェの厨房で料理も見るようになってから、たくさんの料理人に囲まれ、指示を出し、フォローをしたり、されたりしながらホテル全体のレストランを支えてきました。私たちを信頼し、予約を取り、仕上がった料理をどんな遠くの会場にでも運んでくれた、サーヴィスの人たちの熱い気持ちも忘れてはいません。
振り返ってみれば、何十万という沢山の料理と、何十万という沢山のお客様に、みんなで協力していろいろな料理を作ってきたのです。人との出会いは料理との出会いでもあり、それだけの数の食材との出会いがあります。毎日のように届く野菜や肉や魚は同じように見えても、その日その日でまったく違う表情を見せてくれるのです。日々気狂いのように変わり、前進していく時期や停滞する時期があって、その中にあるほんのわずかな休息もが全て、提供する料理と、一緒に働く料理人の事を考える日々だったように思います。
家に帰ってからも料理をつくるのはご愛嬌。妻と2人だけ、時には沢山の人たちと食卓を囲んで、食事とワインを楽しみながら新しい出会いに心躍らせることができます。そんな8年間でした。
アルバイトで入社してからというもの、ひたすら上を向き、進んできた僕は、先代五十嵐総料理長の影を追い続けていたのかも知れません。先代が勇退されて一年経ったころ、目標を見失っていることに気がつきました。火の前にはほとんど立たず、本社との連絡や厨房内と会場の巡回。レシピを作って渡し、味見をし、報告する数字を追いかける日々。料理というよりは料理人の技術と気持ちの調整をする日々。とても重要なポジションの重要な仕事であることは誰よりも良くわかっているのですが、それに少し疲れてきていたと思います。ただ純粋にまっすぐ料理だけがやれる環境を楽しく思っていた僕はいつしか、まっすぐに料理を作るところから一番遠い場所にいるように感じました。
そんな夏の終わりに電話をもらいました。久しぶりに聞く東京の店のあのお客様の声。時間の経過を感じない、何も変わらない声です。そのお客様がかなり近所でホテルを経営していることも知りました。料理長の紹介を依頼する電話でした。
古い友人が料理長を探している。妻がハードワークに疲れ始めて、笑顔が少なくなってきている。両親が福岡から群馬に移住してきていろいろな余裕が必要になる。橘料理長をはじめ皆成長し、前に進んで僕の力を必要としなくなってきている。そして、何より僕自身が現場の火の前で純粋に料理を作る悦びに飢えている…。全ての要素はジグソーパズルの仕上げの瞬間のように上手くはまっているような気がしました。「タイミングは自分で選ぶのではない、降ってくるのだ。人にできることは、その準備をしておくことだけだ。」と偉大な誰かが言っていたのを実感しました。そういう時期なのかもしれません。
久しぶりに履歴書を書きました。書き進めるうちに、必然と思い出してきます。どこでも良いからと派遣会社に頼んでこの地を紹介され、契約社員から始めて、副料理長、料理長、副総料理長そして総料理長と順調に進んできましたが、一料理人の原点とも言える、全て自分で料理を作る環境に戻る日が来ました。
(つづく)
原田理(おさむ) フランス料理シェフ
( ホテル軽井沢1130 )
■「嬬恋村のフランス料理」1 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」2 思い出のキャベツ料理 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」3 ぼくが嬬恋に来た理由 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」4 ほのぼのローストチキン 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」5 衝撃的なフォワグラ 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」6 デザートの喜び 原田理(フランス料理シェフ)
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■嬬恋村のフランス料理7 無限の可能性をもつパスタ 原田理(フランス料理シェフ)
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■嬬恋村のフランス料理8 深まる秋と美味しいナス 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」9 煮込み料理で乗り越える嬬恋の長い冬 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」10 冬のおもいで 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」11 我らのサンドイッチ 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」12 〜真冬のスープ〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」13 〜高級レストランへの夢〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」14 〜高級レストランへの夢 その2〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」15 〜わが愛しのピエドポール〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」16 〜我ら兄弟、フランス料理人〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」17 〜会食の楽しみ〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」18 〜 魚料理のもてなし 〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」19 〜総料理長への手紙 〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」20 〜五十嵐総料理長のフランス料理、そして帆船 〜 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」21 コックコートへの思い 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」22 原木ハモンセラーノで生ハム生活 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」23 煮込み料理に寄り添う、冬のバターライス 原田理(フランス料理シェフ)
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■「嬬恋村のフランス料理」24 仲間たちのこと その 1 原田理(フランス料理シェフ)
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