2018年11月29日14時04分掲載  無料記事
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TPP/脱グローバリゼーション

安倍政権のウソとごまかしで始まる日米FTA交渉 先にあるのは米国主導のブロック経済圏形成

 実質的な日米FTA(自由貿易協定)となる日米交渉が動き出した。その一方で米国が抜けたあとのTPP合意11カ国によるTPP11が、年末に発効する段取りとなった。そうした動きを包み込んで、この30年ばかり、世界の揺れ動かし、それなりの秩序を作り上げてきたいてグローバリゼーションに狂いが生じてきている。米国と中国が報復関税合戦の貿易戦争に突入、世界の経済を揺るがす事態になっている。この先をどう読むのか、ここでは日米FTA交渉に視点を据えながら考えてみる。(大野和興) 
 
 ◆米国経済圏形成か 
 
 TPP推進の要だった米国はトランプ大統領の出現と同時にTPPからの離脱を宣言、実施した。それに代わって出してきたのが日米の二国間交渉、具体的には日米FTAの締結だった。並行して韓米FTAと北米自由貿易協定(NAFTA)の改定交渉にのりだし、どちらも米国の思惑通りの内容で決着した。 
 
 1994年に発足したNAFTAは、EUをのぞくと世界で最初の多国間FTAであった。米国、カナダ、メキシコの北米三か国が自由貿易で結ばれ、広大な市場が生まれた。メキシコは米国市場の生産基地と位置づけられ、自動車関連工場が次々立地した。日本の自動車メーカーも下請けの部品工場を従え、メキシコに工場を作り、対米輸出の拠点とした。トヨタ、日産、ホンダ、マツダ4社の2017年のメキシコ工場での生産台数は計133万台。メキシコからの輸出台数は計95万台超で、その多くは米国向け。カナダを入れるとこの数字は15万台になる。日本からの対米輸出170万台に匹敵する数字だ。 
」9月30日に合意された内容はほぼ米国の思惑通りとなった。メキシコ、カナダは全面的譲歩を余儀なくされたのだ。追加関税や輸出枠の設定、部品調達条件の引き上げなどメキシコからの輸出には新たな条件が加わり、日系企業は大きな負担を強いられることになる。さらに最近明らかになったのは、現地生産する自動車について、エンジンや変速機といった主要部品を北米3カ国で生産するように義務付けていることである。 
 日本や欧州の自動車メーカーの場合、主要部品を域外から持ち込んでおり、それを域内で作るとなると、新たな設備投資や調達先の変更をしなければならなくなる。 
 
 米国は韓国とのFTA再交渉、「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」と呼ばれる新NAFTAでの成功を背景に、これから始まる日米FTA交渉では、米国は相当の強硬姿勢で臨んでくるとみられている。その一方で米国は中国に激烈な経済戦争を挑んでいる。こうした米国の動きを並べてみると、米国はアジア太平洋地域を対象に、米国を盟主とする新たなブロック経済圏を構築しようとしているのではないか、という姿が浮かんでくる。第二次世界大戦の背景となった帝国主義国間同士が経済的ブロックを作り、激突した時代がよみがえってくる。 
 
◆ウソとごまかしではじまった日米FTA交渉 
 
 9月27日、安倍トランプ会談で日米FTA交渉を開始することが合意された。印象的だったのは、合意されたとたんに日本政府によるさまざまのウソやごまかしが明かになたことだ。日米共同声明に日本語訳で、政府はこれから始まる協定は、対象を物品だけに絞った「物品貿易協定」(TAG)だとし、記者会見でもそういった。しかし共同声明のどこにもTAGの言葉ななく、米国政府は「これはFTA」だと明確に言い切った。これまで安倍内閣「日米FTAはやらない」といい続けてきた手前、そういいつくろうしかなかったのだ。 
 
 また、首相は「日米交渉ではTPP合意以上の譲歩は行わない。米国もそれを了承している」と述べたが、パーデュー米農務長官は「日本にTPP以上の譲歩を求める」と公言している。農産品では牛肉、豚肉の関税引き下げ、コメ、生乳の輸入枠設定、主要農産物全般にわたって譲歩を強いられることになる。 
 
 では自動車は安泰かいうと、そうもいかない。米政権は自動車や部品を対象に最大25%の追加関税を検討している。そして安倍政権は米国の関税引き上げを了承しているのではないかという観測が流れている。すでに交渉の争点は日本に対米輸出の限度枠を飲ませることにあるというのだ。日経新聞によると、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は米国が自動車や部品の輸入関税を25%に引き上げた場合、トヨタは営業利益ベースで8400億円規模のマイナス要因になると試算しているという。これは同社の営業利益の3分の1が吹き飛ぶ額だ。 
 
◆都市も農村も大不況に 
 
 実質賃金は下がり続け、消費の落ち込みは極限にまできている。そこに消費税増税が重なる。日米FTAは雇用減と農産物価格の下落をもたらし、都市も農村も大不況に見舞われることになる。それを許さないためには、労働現場では雇用と労働者の権利を守る闘う労働運動の再生、そのために産業政策の樹立とその実現を迫る運動の確立が大切になる。また地域では、中小規模の商工業、農林水産業が生業として成り立つ地域政策、産業政策の樹立とその実現を迫る運動づくりが課題となる。 


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