2018年12月16日14時49分掲載
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N.バンセル、P.ブランシャール、F.ヴェルジェス著「植民地共和国フランス」(岩波書店) 明治元年から150年の今こそ読みたい一冊
今年は明治元年(1868年)から満150年の年に当たるとして、政府は「明治の歩みをつなぐ、つたえる」と宣伝している。幕末の日本を振り返ると、産業革命を経て資本主義が新しい段階に発展した西欧列強がアジアに来航しており、1つ間違えれば日本も植民地にされる危険があった。しかし、歴史の幸運に守られ、日本はその運命を免れた。けれども、日本は逆に朝鮮半島や台湾その他の地域や国々を植民地にしていく。その歴史を考えると、「つなぐ、つたえる」と手放しで称賛だけしてよいものではあるまい、いかに当時の国際状況によって日本の針路が限られていたとしても。
N.バンセル、P.ブランシャール、F.ヴェルジェスによる共著、「植民地共和国フランス」(岩波書店)は明治150年という言葉を考えるための1つの手がかりを与えてくれる1冊だ。植民地という言葉と共和国という言葉を並列することが可能なのか、と冒頭で著者たちは問いかける。自由・平等・博愛のフランス革命の理念は、植民地における奴隷制や差別といかに併存できたのか。その矛盾をフランス人はどう説明してきたのか、あるいはどう自分に納得させてきたのか。
著者の一人、フランソワーズ・ヴェルジェス氏はフランス海外県のレユニオン島出身の政治学者で、レユニオン島といえばかつてはフランスの植民地だった。ヴェルジェス氏の近著には”Le Ventre des femmes ”(女性の腹)というタイトルの一冊があるのだが、これはレユニオン島で行われたフランス国家による堕胎政策を取り上げたものだ。フランス国家で堕胎が合法化したのは1975年だが、それ以前からレユニオン島ではフランス本土に海外県から流入する人口を抑えるために堕胎政策が行われていたと言うのである。つまり、フランス本土で通用する人権基準と植民地あるいは旧植民地での人権基準に大きな差が存在していた。そうした差別はフランスの共和国の理念によってどう合理化できるのか?と本書「植民地共和国フランス」は問いかける。
これまで常に言われたのがフランス共和国が野蛮な人々を文明に導くというもので、それゆえに植民地を作ることは肯定されうるのだと言われてきたのだった。今日の日本でも植民地を作った歴史を肯定する人々は技術も制度もなかったアジアの周辺国に日本が当時の優れた技術で学校やインフラを設置したのだ、と誇る。しかし、ことはそれほど単純ではない。著者たちはフランスの理念と現実の矛盾、二重基準を1つ1つ紐解いていくのだが、かといって本書は一方的にフランスを糾弾して良しとする本でもない。いろいろな視点から歴史を見つめようとしているのが感じられる。3人の共著であるということもそれに寄与しているのかもしれない。そういう意味では本書はフランスと植民地の歴史を振り返る本なのだが、日本の歴史を考えるときにヒントを与えてくれるだろう。ヴェルジェス氏は本書に関して、次のようなメッセージを日本向けに送ってくださった。
"What is interesting with Japan it is that it became a colonizing country itself. Colonialism as a regime was exported by the West and seduced other countries, for some as late as today when we see how China is with Tibet or the Ouigours. Or we could say Brazilians whites with indigenous peoples. "
「日本に関して興味深いことは、日本は(過去に西欧から植民地にされるリスクがあった国でありながら)自ら植民地を作る側になったことです。植民地主義という政治体制が西欧から他の国々へ輸出され、西欧以外の国々をも誘ったわけです。今日に至っても、たとえば中国はチベットやウイグルをそのように植民地化しています。さらにブラジルに関しても白人政権が先住民を植民地化しているのです。」
日本のようにかつては植民地化の恐怖におびえた国や、中国のように植民地支配を経験した国々ですら、自ら植民地を持つ側に回る、あるいは少なくとも植民地主義的にふるまう・・・そうしたことが起きている。それはヴェルジェスさんによると、植民地主義というものが輸出され、伝播していくものだから、ということになる。植民地主義は西欧だけのものではない、ということは押さえておくべきことだろう。
最後に1つ、日本語訳の表紙につけられているポスターが目を引くが、これは1931年にパリのヴァンセンヌの森で行われた国際植民地博覧会のためのもので、本書によれば20世紀フランスの最大のイベントの1つだと言う。「1931年の国際植民地博覧会は、本国における帝国のプロパガンダの到達点であり、また、共和国と植民地の錯綜した関係性を象徴する出来事だった。」ミステリ作家のディディエ・デナンクスが「食人種」という小説を書いたことがあったが、それはこの国際植民地博覧会に陳列されることになったアジアの恋人たちの悲しみを描いたものだった。
村上良太
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