2018年12月18日09時42分掲載  無料記事
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信友直子監督「ぼけますから、よろしくお願いします。」 アルツハイマーになった80代半ばの母と介護する95歳の父、そして一人娘の物語

  10月からすでに話題になっていたドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」を見てきました。とても素晴らしい映画です。監督は信友直子さん。以前、日刊ベリタでもTVドキュメンタリーのディレクターとして紹介記事をUPしたことがありましたが、今回は映画です。もともとはフジテレビのTVドキュメンタリーとして作られたものがベースにあると言うことですが、そこに映画として+アルファして、独自の作品としてブラッシュアップしたのでしょう。 
 
  舞台は広島の呉。美しい瀬戸内の風景から始まります。監督自身も登場し、アルツハイマーが進行している母親と介護する90代の父親と、東京で職業生活を送る自分との家族のドラマになっています。80代半ばの母親は物忘れがひどくなったので、娘が付き添って病院で診断してもらうと記憶をつかさどる海馬の萎縮が認められ、アルツハイマーだと診断をくだされます。若いころはキャリアウーマンで社交的だった母でしたが、今は料理もできなくなり、次第に昼間から床に横になることが増えていく。そうした状況を自ら包丁を握り、買い物に行き、ごみを捨て、自分が行動することで生活を改善しようとする夫と、東京から帰省しようか?と尋ねる50代半ばの独身の一人娘(監督)がいます。一見淡々と時間が流れるように見えて、少しずつ状況が発展し、ドラマでいえば一幕一場、二幕二場・・・みたいに人間劇が展開し、クライマックスに向かっていくような気がしました。これをかちっと意識して編集構成していく手際がすごいな、と感じさせられます。後半に家族の外側から介護ヘルパーがやってくる、というのもこの展開の鍵を握っています。 
 
  物語の核はそれまで家族の面倒を見てきた母親が、その役割を果たせなくなり、夫や娘に面倒をみてもらう立場に立たされてしまう。その役割の転換を母親がスムーズに受け入れることができないことでしょう。周囲から迷惑な存在に見られていると言う思いに母親はさいなまれる。おそらく多くの老いた両親を持つ家族が直面する1コマなのでしょうが、これまでこれほど内面の葛藤が映像で描かれることはなかったと思います。娘だから撮影できたことも多々あるでしょうが、信友さんが学生時代からドラマに強い関心を持ち、戯曲やシナリオをたくさん読み、自分の中にドラマツルギーを持っていることが、こうした力強い構成に仕上がった背景にあるのではないかと思います。そういう意味ではこれまでのTVドキュメンタリーと同様に、信友さんらしい作品になっていたと感じました。 
 
 
■【テレビ制作者シリーズ】(10) ふとした言葉が伝える心模様を描き出す信友直子ディレクター 
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