2018年12月19日12時34分掲載  無料記事
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欧州

「黄色いベスト」が要求した国民投票  そしてその未来

  フランスで起きている「黄色いベスト」による運動について、「立ち上がる夜」の参加者、ルイーズ・ムーラン氏は彼らが市民主導の国民投票を要求したと言っていました。この国民投票というのは”Le referendum d’initiative citoyenne ”と言われているものです。頭文字をとってRICと書かれていることもよくあります。 
 
  これについてEurope1は4つの国民投票を「黄色いベスト」が提案していると報じています。これは直接民主主義に近い方法です。 
 
1、立法府が市民に直接法案作成を委ね、国民投票で採択する 
2、問題のある政治家を国民投票で役職から罷免する 
3、問題のある法律を国民投票で廃止する 
4、国民投票で憲法を改正する 
 
  「黄色いベスト」は各地で自発的に起きている特定のリーダーのいない運動ですが、42の運動体がソーシャルメディアを通してパリのオペラ・ガルニエの前に集結し、主権を国民が取り戻すために国民投票を政府に要求したとされます。 
 
  国民投票自体は以前もフランスで実施されたことがありました。しかし、Europe1によると、国会議員(両院)全体のおよそ5分の1の人数(185人)と有権者の10分の1(450万人)以上の支持がないと実現できない、というような枷があったということです。何を変えるかにもよりますが、一般に考えるとさほど簡単ではない条件と言えます。そこで国民連合(旧・国民戦線)のマリーヌ・ルペン党首などは自分たちはかつてから国民投票を呼び掛けてきたし、国民投票の実現に必要な賛成する有権者の人数も50万人にせよと訴えてきたと言っているようです。 
 
  国民投票を「黄色いベスト」が求めている背景には、国会が国民の代表である役割を捨てて、一部の利益だけを代表しているという見方があることです。このことは今のフランス国会だけでなく、社会党のマニュエル・バルス元首相の時代から、国会議員が有権者に語った公約を破っているという批判がありました。しかも、バルス首相は労働者の多くが反対していた労働法改革を国会(下院)での採決を回避して、内閣への一任という形で無理やり通してしまったことがありました。これは憲法49条3項に規定のある方法ではありますが、民主的なプロセスを回避していると言う意味で禁じ手だと言われているものです。このことが議会制民主主義の危機だと多くの人に映ったのです。国会議員や内閣が公約を守らないのなら、いったいその存在に何の意味があるのか、というラディカルな怒りでした。 
 
  そのため夜ごとにパリの共和国広場に集まって討論をしていたのが2016年3月31日に始まった「立ち上がる夜」(Nuit debout)でした。「立ち上がる夜」では大学関係者や学生、公務員、弁護士といった文化資本を比較的豊かに持ったパリ近郊の住民が多く参加していました。しかし、フランス各地の人々はパリの共和国広場に集まることは不可能ですし、またパリ近郊の住民であってもブルーカラーの人々は仕事を終えると疲れもたまり、難しい議論をするゆとりもなかったのです。そういう意味では「立ち上がる夜」の掲げた改革の射程は広かったのですが、参加者の広がりに限界がありました。 
 
  今回の「黄色いベスト」はパリよりもむしろフランスの地方都市で多数起きており、普通の労働者が多数参加しています。「立ち上がる夜」が十分にオーガナイズできなかった市井の人々が今回、中心になっているのです。そしてルイーズ・ムーラン氏が語ったように、「黄色いベスト」が広がりを見せるうちに要求も拡大し、発端となった車の燃料への課税問題だけでなく、今のマクロン政権が進める様々な政策への反対も掲げ始めています。今後、さらに多くの人が集まるのか、あるいはマクロン大統領が提示した最低賃金の月額100ユーロ引き上げや燃料への増税の1年間の凍結などで終息するのか、そのあたりが今、焦点になっています。 
 
  「立ち上がる夜」に参加したジャーナリストのメディ・グイロー(Mehdi Guiraud)氏は、「黄色いベスト」は金銭的な落としどころでいったん終息する可能性が高い。しかし、第4の大衆運動が近い将来、また起こるだろうと言っています。グイロー氏によると、過去3つの大衆運動は以下になります。 
 
1、”Je suis Charlie”運動 
(シャルリ・エブド襲撃事件の後に行われた「私はシャルリ」と掲げた言論の自由の擁護デモ) 2015年1月11日〜 
 
2、「立ち上がる夜」 2016年3月31日〜 
 
3、「黄色いベスト」  2018年11月17日〜 
 
4、 「 ?  」 
 
  第4の運動がどのような形になるか未知数ですが、この運動はより深く大きくフランスの政治を変える可能性がある、と言います。さらに、グイロー氏は「黄色いベスト」の運動が国民連合などの極右政党に回収される可能性があるとしばしばメディアなどで報じられているが、実際には極右の参加はほんの一握りであり、「黄色いベスト」が極右政党に回収されることはないだろうと言いました。グイロー氏によると、フランス政府が中道・左派の人々に対する「黄色いベスト」の印象を悪くしようとしているのではないか、と言うことでした。折しもラジオ番組などに国民連合のマリーヌ・ルペン党首が盛んに出演して「黄色いベストを支持する」と言っているのです。そして私は今起きている様々な悪しき事態に対して何一つ責任がない、と盛んに訴えていました。ルペン氏にとっては2017年の大統領選の決選投票で争ったライバルがマクロン氏ですから、マクロン大統領批判の「黄色いベスト」にルペン氏が注目するのもうなづけます。そうしたことで、中道や左派の市民の中には、「黄色いベスト」が国民連合に回収されるのではないか、と思う人もいるのです。 
 
 
村上良太 


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