2019年01月08日21時53分掲載  無料記事
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文化

[核を詠う](276)朝日歌壇(2018年1〜12月)から原子力詠を読む(1)「ほんとうに使う気なんだ核兵器を扱いやすい大きさにする」 山崎芳彦

 今回から朝日新聞の「朝日歌壇」の2018年の入選作品から原子力詠を読む。この連載で、これまでも毎年「朝日歌壇」に掲載された作品からの原子力詠の抄出・記録をしてきたが、新聞歌壇の特徴、意義と言えるだろう社会詠、時代の動向を映した生活詠に、筆者は魅かれることが多い。筆者の読みであるから、行き届かず、作者の思いに沿わない抄出があることが少なくないことを自戒しながら、掲載された全作品(筆者のスクラップによる。)を読み返した。朝日歌壇が掲載される月4回、毎回40首(選者の共選作品も含む)を読むことは筆者にとって楽しい、学びの時間でもあったことを思い返しながら1年分をまとめて読んだ。同歌壇に対しては、少なからぬ毀誉褒貶もあるが、やはり読むに値すると筆者は改めて思っている。 
 
 同歌壇の選者は佐佐木幸綱、馬場あき子、永田和宏、高野公彦の各氏で毎回数多い応募作品からの選歌は容易ではないことと思うが、選者それぞれの個性とともに目配りの利いた選歌によって構成されている毎回の同歌壇に表出される「いま」を、さまざまに筆者は思い、入選には至らなかった膨大な作品について、接することはできないながら思いを馳せないではいられない。 
 
 「核を詠う」短歌作品を読み・記録するこの連載であるから、抄出はできないが2018年とは、まことにこの国が尋常ではない時代のさ中にあったことを明らかにする作品が多く入選作品として掲出されていた。作品が表現し詠って(訴えて)いるそのすぐ背後を思えば、年か改まって2019年になった今年をどう生きるか、自身に問わなければならない。 
 
 2018年1〜12月の「朝日歌壇」の入選作品から、原子力詠として筆者が読んだ作品を抄出・記録させていただく。 
 
  ◇2018年1月◇ 
それぞれの屋根に雪ふるそれぞれの人の定めに雪のふりつむ 
                 (福島市・美原凍子 高野公彦選) 
 
被爆国口を閉ざすも被爆者は世界に向けて口を開きぬ 
                 (横浜市・村田卓 馬場あき子選) 
 
線量は地中でどうだ蛙たちよく眠れるか病んでいないか 
                 (いわき市・馬目弘平 永田和宏選) 
 
サーローさん核は絶対悪と説く心の叫びに会場総立ち 
                 (名古屋市・諏訪兼位 馬場選) 
 
美智子妃の思いは深し広き視野ICAN(アイキャン)の受賞を祝い給えり 
                 (長岡京市・田原モト子 馬場選) 
 
親指で隠れてしまう双葉町フレコンバッグ山と積まれる 
                 (二本松市・開発廣和 佐佐木幸綱選) 
 
新元号に「安」の字入るとうはさありてそれが冗談に聞こえぬ不幸 
                 (郡山市・鈴木次郎 永田選) 
 
被爆者が自身を晒(さら)して語り継ぐ「絶対悪」の証人として 
                 (三鷹市・山室咲子 永田選) 
 
  ◇2018年2月◇ 
逝く者に見送る者に舞う小雪すべてを過去にしてゆく小雪 
                 (福島市・美原凍子 永田選) 
 
七年の避難生活、借り上げの二間(ふたま)の物の隙間に辛く生く 
                 (いわき市・守岡和之 佐佐木選) 
 
「穏やかな住みたい街」に選ばれぬ伊方のリスク識(し)らぬ人らに 
                 (松山市・宇和上正 馬場・佐佐木選) 
 
新設の「原発」分野震災が無ければ載らぬ原発用語 
                 (高松市・島田章平 佐佐木選) 
 
〈焼き場に立つ少年〉は歯を食いしばる耐えて堪(こら)えて生きるしかなかった 
                 (長岡京市・田原モト子 高野公彦選) 
 (注 選者の高野氏は評で「長崎の原爆投下で死んだ幼い弟を背負い、火葬場で順番を待っている少年の写真を詠んだもの。直立不動の姿勢でじっと何かに耐えているその姿は、私たち日本人の心を打ち、遠くローマ法王の心をも動かした。」と記している。 筆者) 
 
広島を訪(と)ひしアイキャンの代表と会ふこともなし日本の首相 
                  (牛久市・伊藤夏江 高野選) 
 
袋剝(は)ぎ除染土落とせば土五尺しずみて終(つい)の置場のごとし 
                  (福島市・青木崇郎 高野選) 
 
泣かぬだけなお悲しきは少年の背負う弟死者なればなり 
                 (佐賀県・白武留康 永田選) 
(注 前記の高野選の歌と同じ写真を持つ少年を詠った作品。永田氏は「長崎の悲劇を伝える写真『焼場に立つ少年』をカードにして配布するようローマ法王が指示した。何度見ても泣けてしまう。」と記している。筆者) 
 
在日の人が一番辛かろう北朝鮮の核とミサイル 
                 (東京都・上原厚美 永田選) 
 
避難せし遠近(おちこち)ゆ来て浪江町の田植踊を久々に舞う 
                 (福島市・青木崇郎 馬場選) 
 
  ◇2018年3月◇ 
捨て雪の山は春には消えてゆく春にも消えぬ核廃棄物 
                 (村上市・鈴木正芳 馬場選) 
 
ほんとうに使う気なんだ核兵器を扱いやすい大きさにする 
                 (千葉市・佐々俊男 永田選) 
 
小型核開発目指す米国に遠きふるさと長崎思ふ 
                 (鳥取市・石井千代子 高野選) 
 
忘れたら君は二度死ぬ七年を供養のために拾う桜花 
                 (さくら市・大場公史 永田選) 
 
原爆の写真に見入る異邦人「祖父母はアウシュヴィッツで死にました」 
                 (高槻市・梅原三枝子 馬場選) 
 
  ◇2018年4月◇ 
田や畑のフレコンバッグは日常の景色となりて菜の花の咲く 
                 (茂原市・植田辰年 高野・永田選) 
 
畑消えて発電パネル増えてゆき野菜を売らずに電気売る農 
                 (山梨県・笠井一郎 高野・馬場選) 
 
トラックが悲鳴あげてる五輪までに運びきれないフレコンバッグ 
                 (石川県・瀧上裕幸 永田選) 
 
線量の無き様にある山桜忘れはしないが知らぬ振りです 
                 (さくら市・大場公史 馬場選) 
 
帰還(かえ)れずに他市(よそ)で入学する子いて福島の避難者なお五万人 
                 (福島市・青木崇郎 佐佐木選) 
 
福島の人間(ひと)は真っ正直という信念ゆらぐ証人喚問 
                 (下野市・若島安子 馬場選) 
 
蕗(ふき)の薹(とう)フレコンバッグの丘に伸び妻と摘みたる昔日を思ふ 
                 (須賀川市・伊東伸也 佐佐木選) 
 
「七年が過ぎたのですね」「七年も続いているのです」積む廃棄物 
                (横浜市・細野八重子 馬場・佐佐木選) 
 
  ◇2018年5月◇ 
セシウムが一日20億ベクレル海に溺れてる八年目の春 
                 (福島市・澤 正宏 馬場選) 
 
フレコンバッグ撤去の土手にニリンソウ、アズマイチゲとカタクリの花 
                 (福島市・美原凍子 佐佐木選) 
 
取り敢えずと庭に置かれし汚染土が四年経て今運ばれてゆく 
                 (福島市・稲村忠衛 馬場選) 
 
笑顔にも少し影あるその人が津波を映すテレビを消した 
                 (渋川市・小暮陶歌人 永田選) 
 
太陽が海から昇る双葉町にもう戻らない昭和懐し 
                 (二本松市・開発廣和 佐佐木選) 
 
七年を経たる樹木の繁茂してアンコールワットになるやわが郷(さと) 
                 (二本松市・開発廣和 高野選) 
 
滝桜散れば野山は次々と咲く花有りて淡きパステル 
                 (福島県・北村ミヨ 高野選) 
 
フクシマの常磐道の新緑の中をポルシェが疾走してゆく 
                 (いわき市・守岡和之 高野選) 
 
  ◇2018年6月◇ 
富岡のメガソーラーの直ぐ西を一時帰宅で七年も往き来する 
                 (いわき市・守岡和之 高野選) 
 
福島に滝桜あり妹が嫁いで逝きて十年を経し 
                 (山形県・平田安雄 永田選) 
 
フクシマの線量高き山道を行けば躑躅(つつじ)の鮮やかに咲く 
                 (福島市・櫻井隆繁 佐佐木選) 
 
 次回も「朝日歌壇」入選作の原子力詠を読む。    (つづく) 


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