2019年01月09日14時25分掲載  無料記事
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社会

アメリカのユダヤ人とイスラエルのユダヤ人に大きな亀裂が生じていると指摘 「トランプ時代にアメリカのユダヤ人であること」の著者、ジョナサン・ワイズマンの分析記事

  トランプ大統領のイスラエル寄りの外交政策は昨年5月にイスラエルにおける米大使館をエルサレムに移転したことでも明らかだが、さらにイランに強い圧力をかけてオバマ時代に発展させた核合意の転覆をはかっているように見えることにもつながる。トランプ大統領がなぜそれほどイスラエル寄りなのかについては様々な説がある。娘婿がユダヤ系アメリカ人であることとか、選挙でユダヤ系の寄付が欲しいとか・・・。それについて、9日付のニューヨークタイムズにジョナサン・ワイズマン氏の分析記事 ”American Jews and Israeli Jews break up" が出ていたが、今のアメリカのユダヤ系とイスラエルのユダヤ人との軋轢が書かれていて興味深い。 
 
  たとえばFBIによると、2017年にヘイト犯罪がアメリカで17%増加した。中でもユダヤ系やユダヤ系の施設への犯罪は37%も増加した。さらに昨年10月にはユダヤ系の人々11人がシナゴーグで銃撃されて殺されている。つまり、レイシズムを隠さないトランプ政権になってメキシコ人やヒスパニック系だけでなく、ユダヤ系の人々も敵意の対象に入っていることがうかがえる。 
 
  こうしたことからアメリカのユダヤ系の75%が昨年の中間選挙で民主党に投票した。一方、イスラエル人の69%はトランプ政権下のアメリカを支持していると言う結果も出た。2015年に同じ調査をしたら45%しか支持していなかった。つまりオバマ政権のアメリカはイスラエル人から見たら半数以下の支持率だった。トランプ政権になって急激に支持が増えたのである。これはPew Research Centerの情報に基づくと言う。 
 
  ワイズマン氏はニューヨークタイムズの記者(編集者)でワシントンに駐在している人とされ、「Being Jewish in America in the age of Trump(トランプ時代にアメリカのユダヤ人であること)」という本を書いている。トランプ時代になって反ユダヤ主義が台頭していることを記しているらしい。 
 
  アメリカとイスラエルの結びつきはジョージ・W・ブッシュ政権下でネオコンと呼ばれた親イスラエルのスタッフに象徴された。彼らが生んだ作品がイラク戦争である。イラク戦争の結果、アメリカの公的債務は激増し、経済は悪化の一途をたどった。そればかりでなく中東は液状化していった。ブッシュ政権をユダヤ系が支持しているとよくその当時、報道されたのを筆者は記憶している。とくにブッシュ大統領の属するキリスト教原理主義とイスラエル国家に親和性があったというものだ。だから、アメリカのユダヤ人の多くはネオコンじゃないか、とみられる傾向にあったように思う。しかし、9日付のジョナサン・ワイズマンの分析はもっと細かく事象を拾っている。単純化してユダヤ人とひとまとめにせず、もう少し、その内実を知りたいと思う。そこを掘り下げていけば今世紀のアメリカ、というものが立体的かつリアルにに見えてくるのではないだろうか。 
 
 
村上良太 


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