2019年01月18日12時36分掲載  無料記事
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労働問題

女性医師の職場は「ブラック」だ 根本行雄

 出産後に育児休業を取得できない女性医師が後を絶たない。育児休業を取らせずに退職させる医療機関も少なくなく、「ブラック業界」ぶりに波紋が広がっている。医師の働き方について検討してきた厚生労働省の審議会は、2019年1月11日、女性医師支援の必要性を改めて強調した。昨年6月に成立した働き方改革関連法で適用除外になっていた医師の残業規制について、厚生労働省は1月11日に地域医療を支える勤務医は年1900〜2000時間を上限とする案を示した。一般労働者の約2倍に当たり、過労死した人の遺族や労働団体などの反発は避けられない。一方、医師不足地域では、医師の「献身」で救急など過酷な現場を支えている実態があり、規制を不安視する声も上がっている。危険水域で働く勤務医は、女性に限ったことではない。ある病院で過労死ラインとされる月80時間超の残業をしていた後期研修医は27人中20人。月200時間以上の医師もいた。全国で見ても、厚労省の16年調査で4割の勤務医が月80時間超だった。 次の犠牲者を出さないためには、文字通りの「抜本改革」を断行するしかない。抜本的な改革とは、すべての労働者が人間として、基本的人権をもっているということを前提にした改革をするということである。 
 
 「大変驚いた」。厚労省の審議会で昨年11月、連合の村上陽子氏がこう切り出した。 
 
  毎日新聞(2019年1月16日)は、このような書き出しの記事で、次のように伝えている。 
 
 日本医師会(日医)が、出産経験のある女性医師5214人を対象にした2017年調査で、育休を取得しなかったのは2131人(41%)。理由として、複数回答で「制度がなかったため」としたのは719人(36%)と最多だったからだ。 
 
 育休は育児・介護休業法に基づき、労働者が育児のために勤務先を休む制度だ。「雇用期間が1年以上」など一定の条件はあるが、勤務医も対象に含まれないはずがない。村上氏は「『制度がない』という認識があるなら、解決していかなければならない」と強調した。 
 
 審議会では、法律の専門家や子育て支援に詳しい女性医師の委員らも「時々聞くが、法律上は許されていない」「当直ありのポストしかなければ、(人事担当者から)『休めます』という説明もないのだろう」などと問題視した。 
 
 同じく、毎日新聞(2019年1月13日)では、次のように伝えている。 
 
 昨年6月に成立した働き方改革関連法で適用除外になっていた医師の残業規制について、厚生労働省は1月11日に地域医療を支える勤務医は年1900〜2000時間を上限とする案を示した。一般労働者の約2倍に当たり、過労死した人の遺族や労働団体などの反発は避けられない。一方、医師不足地域では、医師の「献身」で救急など過酷な現場を支えている実態があり、規制を不安視する声も上がる。 
 
 □ 新潟市民病院の事例 
 
 「医師は人の命を扱うため、精神的な負荷は高い。一般労働者より残業規制は厳しくてもいいぐらいだ」。2016年に過労自殺した新潟市民病院の後期研修医の女性(当時37歳)の遺族側代理人を務める斎藤裕弁護士は、厚労省の規制方針に憤る。 
 
 新潟労働基準監督署の認定によると、女性は亡くなる4カ月前の15年9月にうつ病を発症。直近1カ月間の残業は約177時間だった。朝7〜8時に出勤し、深夜に帰る日々。午前2時ごろ退勤しても、翌朝7時台には戻った。当直の日は、わずかな休憩だけで翌日午後3時まで働き続け、休みは1日だけ。関わった手術は約4時間の大腸切除を含め36件に上り、女性は「医者にならなきゃよかった」と家族に漏らしていた。こうした危険水域で働く勤務医は、女性に限ったことではない。同病院で過労死ラインとされる月80時間超の残業をしていた後期研修医は27人中20人。月200時間以上の医師もいた。全国で見ても、厚労省の16年調査で4割の勤務医が月80時間超だった。 
 
 □ 問題の背景 
 
 育休が取得できない背景に、高度化、専門化が進む医療現場の特殊性がある。この女性が担当する分野は、院内の他の医師では務まらず、長期間休むと患者に迷惑をかけるという。 
 
 寝る時間が十分に取れないほど忙しい職場で、子育てしながら復帰すると、同僚の過重労働に拍車がかかる。自分さえ辞めれば、長時間労働できる他の医師が補充されると考えた。 
 
 上司の子育てへの無理解も大きい。「24時間ベビーシッターがいれば、仕事を続けられるでしょう」。女性は復帰の条件をこう突きつけられた。「辞めろ」と言われたのに等しく、長期間の育休など望むべくもなかった。 
 
 さらに、「制度がない」という回答の裏には、多くの医師が自身を労働者だと思っていないという根深い事情もあるようだ。 
 
 医師の多くが、数年おきに大学病院と民間病院との間を渡り歩き、医師としてのキャリアを積む。人事権こそ勤務先の病院にあるが、実質的には所属する大学の医局が勤務先の病院を決めている。終身雇用を前提にした日本社会では異質な働き方と言える。そのため医師は労働法制に詳しくなく、育休制度は30年近くも前にできたにもかかわらず、日医の調査報告書でも「制度の周知、理解が進んでいない」と分析した。 
 
 厚労省は審議会で、女性医師が増える中、多様な働き方を進めないと人材確保は困難になるとした。一方、医師を特例扱いし、「過労死ライン」を大幅に上回る異常な働き方をさせている現状を追認した。 
 
 大学病院を辞めた女性医師は、育児と両立できる職場環境を求め、当直を免除してもらえる遠方の一般病院に移った。「余裕のある職場なら助け合えるのに」と、多様な人材が認められない医療現場に疑問を呈した。 
 
 □ 厚労省案は過重労働の容認だ 
 
 今回の厚労省案は過重労働の容認だ。 
 
 毎日新聞(2019年1月13日)では、次のように伝えている。 
 
 一般勤務医の上限は他の労働者と同様に年960時間(月平均80時間)だが、地域医療の核となる医療機関に従事する医師はその約2倍もいる。そのレールを敷いたのは、日本医師会(日医)と、日医の支援を受ける自民党である。 
 
 日本医師会(日医)には勤務医も加入しているが、活動の中心は病院経営者や開業医で、使用者団体の側面が強いという。勤務医の労働時間が縛られると人員確保や人件費の負担が膨らむことを意味する。 
 
 □ 働き方改革に合わせた「自衛策」 
 
 毎日新聞(2019年1月13日)では、次のように伝えている。 
 
 一部医療機関では、働き方改革に合わせた「自衛策」も広がりつつある。毎日新聞が昨年6月、大学病院など全国85の特定機能病院を調査したところ、少なくとも21病院が診療体制や患者サービスを縮小するか、縮小を検討していた。深夜帯の軽症患者の受け入れをやめたり、患者や家族への説明を平日の勤務時間帯に限定したりと、比較的影響の小さい対策にとどまるものの、ある病院幹部は「上限に達したからといって代わりの医師がいるわけではなく、病院を閉じない限りは(規制を)守れない」と強調する。 
 
 新潟市民病院でも、女性研修医の過労自殺後、紹介状のない患者の原則受け入れ停止や、病状が安定した患者の近隣病院への転院促進などで医師の勤務時間を減らした。 
 
 だが、こうした対応は患者の不利益にもつながるだけに、際限なく拡大できるものではない。 
 
 □ 医療体制維持と医師の過労防止は、どうすれば両立できるのか。 
 
 毎日新聞(2019年1月13日)では、次のように伝えている。 
 
 昨年6月に成立した働き方改革関連法で適用除外になっていた医師の残業規制について、厚生労働省は1月11日に地域医療を支える勤務医は年1900〜2000時間を上限とする案を示した。一般労働者の約2倍に当たり、過労死した人の遺族や労働団体などの反発は避けられない。一方、医師不足地域では、医師の「献身」で救急など過酷な現場を支えている実態があり、規制を不安視する声も上がる。 
 
 次の犠牲者を出さないためには、文字通りの「抜本改革」を断行するしかない。政府や厚生労働省などと、日本医師会(日医)と、日医の支援を受けている自民党などは、現状維持を前提にして、現実の問題を糊塗しようとしている。しかし、この問題を先送りすればするほど、問題はますます深刻になるばかりである。そして、結果的には、「次の犠牲者が出ること」を待つことになる。 
 
 ある病院で過労死ラインとされる月80時間超の残業をしていた後期研修医は27人中20人。月200時間以上の医師もいた。全国で見ても、厚労省の16年調査で4割の勤務医が月80時間超だった。 次の犠牲者を出さないためには、文字通りの「抜本改革」を断行するしかない。抜本的な改革とは、すべての労働者が人間として、基本的人権をもっているということを前提にした改革をするということである。 
 
 この問題は、もう、先送りはできない。できるだけ早急に、文字通りに「抜本的な改革」をするしかない。まず前提になることは、医師かどうかではなく、人間かどうかなのだ。すべての働く人々にとって、働く場が、働らく状況が、安全で、しかも健康的でなければならない。 
 
 日本国憲法 第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 
 
 日本国憲法 第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。 
 
 「抜本的な改革」をどのように進めていくかのタイム・スケジュールを立てるのはよいが、問題の先送りになってならないし、問題を過小評価し、ごまかしの改革であってはならない。彼ら、彼女らは、医師である前に、まず人間だと言うことを忘れてはならない。すべての人間にとっての基本的人権なのだということ、それを実現することが、犠牲者を出さない、文字通りの「抜本的な改革」となるのだ。 
 
 万国の労働者を団結せよ。 
 
 人権の獲得の歴史は戦いの歴史である。 


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