2019年01月24日14時28分掲載
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奪われた人権を自らの手で取り戻す女性たち 映画『ナディアの誓い』『バハールの涙』 笠原眞弓
戦争はいつも一番弱いものに多くの犠牲を強いる。この2本の映画は、イラク北部のヤジディ教徒の住む街をISISが襲い、老人と男性は殺され、女性は性奴隷とされた事実を描いている。
『ナディアの誓い』はドキュメンタリーである。昨年ノーベル平和賞を受けたナディア・ムラドがテレビなどのメディアのインタビューを受けたり、政治家にISISのやり口を話していき、国連で演説するまでを描いている。この演説によって国連のプログラムとして訴えが受け入れられ、国連大使になる。しかし考えてもほしい。性的屈辱を受けた本人が、その被害について人前で語ることの辛さを。
カメラはその気持ちをある時は手や指で、または服装やその目の光、目の動きでとらえる。健気に彼らの要求にこたえる彼女。しかし、そんな話はしたくない。だが、まだとらわれている3000人の同胞のために振り絞る勇気。「有名になって変わったか?」ではなくて「どんなに今も若い子たちが苦しんでいるか」「女が戦争で犠牲にならずに済むにはどうすればいいか」と聞かれたいという。
この映画を見ながらどうしても思い浮かぶのは、日本軍によって性被害を受けた「慰安婦」のこと。1992年に金学順さんが名乗り出て以来、国際社会に取り組むべき課題として認識された。しかしいまだになくなっていないのである。こうしてナディアが心身の傷を人前で訴えていかなければならない、その活動がノーベル平和賞を受ける事実が厳然としてある社会なのだ。
『バハールの涙』は、事実に則した劇映画である。監督はこれまで見たことのある映画の場面の焼き直しではなく、寝る時銃はどうしていたかなど、その恐怖の感情や現場の空気を実感として感じられるまで、たくさんの被害者や戦場記者、元兵士にとことん話を聞いたということだが、すべての場面がリアリティーを持って迫ってくる。
眼帯をした女性戦場カメラマンが夢でうなされるところからはじまる。彼女も戦争の被害者なのである。やっと入れた前線で出会ったのが女性部隊の隊長をしているバハールである。記者に心を開いたバハールによって、これまでのいきさつが語られていく。
ある日バハールは捕われている女性たちに、脱出の呼びかけをしているのテレビで放送を見て、臨月のラミンと共に脱出に成功する。その後ラミンの「被害者でいるより戦いたい」という言葉で息子を取り戻したい彼女も兵士になる。
こう着状態が続く中、総攻撃を迫るバハールに犠牲が大きいと渋る男性隊長。その時の一言が忘れられない。「女は失うものがもうない」。
ナディアの誓い
監督:アレキサンドリア・ボンバッハ 95分
2月1日(金)アップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショ
写真 (クレジット): Copyright;RYOT Films
バハールの涙
監督:エブァ・ウッソン 110分
1月19日新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座で公開後順次全国展開
写真(クレジット):Copyright;2018-Maneki Films-Wild Bunch-Arches Films-Gapbusters-20 Steps Productions-RTBF (Télévision belge)
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