2019年01月27日22時15分掲載  無料記事
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フェミニズム

新フェミニズムは男性と共に シンポジウム「しゃべり尽くそう!私たちの新フェミニズム」の報告 笠原眞弓

 1月11日に「しゃべり尽くそう!私たちの新フェミニズム」(出版記念シンポジウム/梨の木舎主催)に行った。登壇者はこの本に登場する望月衣塑子さん(東京新聞記者)、平井美津子さん(公立中学教諭)、猿田佐世さん(新外交イニシアティブ代表、弁護士)。そして、本に登場する伊藤詩織さん(ジャーナリスト)と三浦まりさん(上智大学法学部教授)から、ビデオメッセージが届けられた。会場は男性も多く、この問題が単に女性だけのものではないことを図らずも示していた。 
 
 シンポジウムは望月さんの、伊藤詩織さん事件のいきさつからはじまり、菅官房長官との記者会見の様子やなぜあの時期、山口敬之氏が官邸に守られたか(といわれている)、同時期に出回った「民主党の画策と誤解させるチャート図」は何だったのかなども、あの元気な口調で示した。 
 一時期ひどく落ち込んでいた詩織さんも今はいくつものテーマを追いかけ、八面六臂の活躍だとその多忙ぶりを紹介。そして、彼女の告訴があったから、女性ジャーナリストのセクハラ被害の会「 メディアで働く女性ネットワーク」も出来たといい、ジェンダー指数を上げると男性も生きやすくなると指摘した。 
 
 次に登場したのは大阪の公立中学の社会科の先生平井美津子さん。彼女は、社会科の教諭として生徒たちに何を伝えたいことは、騙されないこと、自分で判断できる人になることときっぱりという。以前は、近現代は時間がないと端折られていたが、最近の教科書はその期間が3分の1を占めていて、じっくり教えられるそうだ。 
 歴史の教科書には、女性は卑弥呼と北条政子くらいしか登場しない。ちなみに百田尚樹氏の『日本国記』の中には、卑弥呼と神功皇后、稲田朋美がどこかの国の偉い人(聞き取れなかった)と話したとうことだけだったというと、思わず笑いが起きた。 
 
 平井さんの関心は平家政権時代の「一般女性がどうだったか」にあるという。大阪が徳川に敗れる時、「東夷(あずまえびす)がやってくるから心せよ」と東国人を野蛮人として警鐘を鳴らしたし略奪や性被害の絵が残っているが、女性の生の声は残っていない。明治になってやっと残ってきた。それを手掛かりに授業で伝えているという。 
 戦時「慰安婦」のことを教えているが、それに対して嫌がらせがあるという。「大阪市長にtwitterで攻撃されても、私はやめない」ときっぱりと宣言。それは、子どもたちのたくさんの夢を戦争で踏みにじられたくないからだ。 
 
 時代が変わるのは、メディアが変わるときであり、教育が変わるときであると平井さんは言う。最近、私が所属するレイバーネット日本の川柳班で『反戦川柳句集〜「戦争したくない」を贈ります』(関心のある方は、レイバーネット日本にご注文を)の中に「教育は戦争しないだけでいい  一志」という句があるが、その実践をしているのが平井さんだと思った。 
 
 続いて立った猿田佐世さんは、弁護士でアメリカ議会でのロビー活動のベテラン。沖縄の基地のロビー活動もしている。 
 印象に残ったのは2つ。一つは、彼女自身が出産・育児でアメリカに行かれなかった時期、主に辺野古問題など沖縄基地に関するロビー活動のやり方など指導し、一括沖縄の人たちに任せたそうだ。その後復帰してアメリカへ行くと、彼らのロビー活動は完ぺきで、米国の関係者に沖縄問題が深く浸透していたという。それくらい沖縄の人たちは真剣に基地問題に取り組んでいると感じたという。 
 もう一つは、日本で「アメリカがこういっている」と大きな声が上がったら、アメリカをスピーカーにしている人は誰なのかを考えてほしい。なぜならあのアーミテージ元国務副長官ですら、そんなに反対があるなら「何も辺野古移設をしなくてもいい」といっているからだ。 
 
 沖縄問題をジェンダーの視点でみると、戦時中にたくさん設置された慰安所の問題が浮かぶ。そして、施政権返還後も続く米兵による性犯罪である。米軍人・軍属は罪を犯しても本国に帰されるだけで、罪に問われないことは有名だ。辺野古移転のきっかけも普天間近辺で起きた小6女子への性犯罪だった。猿田さんは、米軍の中の性犯罪を扱っている議員にたいして、沖縄の現状を話しているという。 
 いまだにある被害者が悪いという発想は、女性の中にもあると指摘した (私の親しかった友だちが同じことを言い、瞬間のどが詰まり、その後彼女と気持ち的に疎遠になったことを思いだした。一緒にいた男子たちが「それを言ったらおしまい」と言ったのが、せめてもの救いだった) 。 
 
 2部は、ディスカッション。望月さんが、こういうことをリアルタイムで話せる最後かもしないと言いつつ、声なき声、歴史に名前の出てこない人こそ重要ではと話す。 
 平井さんは、もう家庭の中で戦争をリアルに語れる人はいない。生徒が戦争の現実を知るのは、学校の授業でしかない。慰安婦を教えるのは、教科書からその記述が消えたからという。最近教科書では復活してきたが、教えることに苦情を言う人たちが学校に乗り込んでくる。校長で埒があかないと教育委員会へ行くが、教育委員会には教える内容に口出しはできない。平井さんが授業で取り上げるのは、2度とこういう被害者が出てほしくないからと言う。 
 
 実はこの時平井さんは、今回のシンポジウムのハイライトと言うべき重大発言をした。彼女は慰安婦の授業をしていることで外部から圧力をかけられている。そのためだろう、平井さんの勤務している大阪の中学校の校長とその管轄の教育委員会の方が会場にいると曝露したのだ。驚きと、軽蔑の「エーッ」の声が会場を満たした。猿田さんの「交通費はだれが出したんでしょうね」にも笑いが。最後まで姿は見せなかったが、その存在はしっかりと感じられた。しかしある意味、校長たちは誠実なのかもしれない。平井さんも言うように、言葉尻を捉えて禁止されるより全体を聞いていその上で判断していただいた方がいいのだから。 
 
 猿田さんは、沖縄の人たちは、やれることはすべてしている。物心ついてから死ぬまで基地問題。それがなければ、彼らには別な人生があったと思うという。 
 日米地位協定を変えるより、基地をなくす方が早いのではないかという意見には、今まで変えてくれと日本政府は言ったことがない。アメリカは日本政府が決めたことだと言っているので、こちらが変えてくれと言えば変わる可能性があるという。とはいえ、変えるだけでは根本的な問題解決にはならないのも事実。 
 
 平井さんからも道徳の教科化や新聞、テレビを見ない子どもがネットから知識を得ていることの弊害などが話され、婚姻届を教材に別姓婚の話など興味は尽きなかった。 
 別性婚で婚姻届を出していなかった猿田さんは、お連れ合いも一緒にアメリカに行くことになり、二人で相談もせず書いた婚姻届は、当然の如くに猿田姓だったと。今も彼は会場にいるが、保育園のお迎えもパパの方が多く、家事もほぼ半々だとか。 
 
 望月さんは、防衛省と安倍のレーダー照射問題の対立があり、日韓関係も悪くなっている。このような構造は権力に利用されること。最近は若者でない人がネトウヨになってヒステリックに対応しているので、一つずつフェイクを潰していかなければならない。小さな違いを大きく取り上げるのではなく、立ち止まって話し合うことが大事と話す。 
 
 安倍政権が続いているのはなぜと質問があった。 
 猿田さんは、自民はそれほど票を取っていないし、改選される人たちは与党が大きく伸びた時のものだから今度は、野党が伸びるのではと希望的だ。 
 望月さんは、与党内で石破さんがあれだけの票を取ったことを考えると、安倍さん一筋ではなくなっていることが分かる。公明党の女性たちが改憲反対を強固に打ち出しているので「改憲ヤルヤル詐欺」に終わるのではないかと思っているとの見方。 
 
 広河隆一氏の事件への質問には、もし10年前に表に出ていてそれにちゃんと対応できていたら、詩織さんは被害にあわなかったし、多くの女性が救われていただろうと。そして今回の被害者たちも、詩織さんがいたから声があげられたし声を上げてこなかった自分たちの責任も感じるということだ。このように、性暴力を表に出せない社会の問題、責任にも言及した。 
 
 最後に平井さんは、ここに来られるか不安だった。攻撃のある中でも、声を上げ続ける人でありたい。救民、民を救う人でありたいと結んだ。 
 猿田さんは、平井さんに学校に迷惑がかかるというのが校長たちだが、そのような圧力に屈することなく、私たちのためにも頑張ってほしいと。そして、今日は平井先生を応援する会ですと、会場にいる校長と教育委員会の方に向けてメッセージを送ると、会場からは大きな拍手が沸いた。 
 
 終わっても、しゃべり尽くせなかった人たちが、しばらく会場に残っていた。 
 
 
●登壇者: 
・望月衣塑子(東京新聞記者) 
東京新聞社会部記者。著書に『権力と新聞の大問題』(集英社)など。2017年、平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞を受賞 
 
・平井美津子(公立中学教諭) 
大阪府公立中学校教師。立命館大学・大阪大学非常勤講師。著書『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』(高文研)など 
 
・猿田佐世(新外交イニシアティブ代表、弁護士) 
自らワシントンにてロビーイングを行う他、日本の国会議員等の訪米行動を企画・実施。枝野幸男立憲民主党代表や、翁長雄志沖縄県知事(当時)に随行する沖縄訪米団、稲嶺進名護市長・玉城デニー衆議院議員(いずれも当時)等の訪米行動の企画・同行を担当。米議員・米政府面談設定の他、米シンクタンクでのシンポジウム、米国連邦議会における院内集会等を開催。著書に『新しい日米外交を切り拓く』(集英社)、『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書)など。 


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