2019年01月28日11時55分掲載
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欧州
黄色いベストの背中にこめたメッセージ その2 村上良太
フランスで昨年11月に始まったマクロン大統領とその政権に対する反対運動「黄色いベスト」(gilets jaunes) は今も週末ごとに続いています。これは韓国で朴槿恵大統領を糾弾した時と同じような長い運動になりつつあります。参加者たちが着用する黄色いベストには、その背に様々な思いが書き込まれています。それを集めたウェブサイトも生まれました。創設したのは参加者の一人、ルイーズ・ムーラン(Louise Moulin)さんです。
ムーランさんは2016年3月に始まった「立ち上がる夜」という運動にも初期から参加していた人で、「立ち上がる夜」が行われたパリの共和国広場で作り出されたメッセージを広場の外に広く発信するコミュニケーションに関わってきました。そして、今回の「黄色いベスト」運動でも、背中のメッセージをみんなからその写真を送ってもらって発信しようというのです。その背中のメッセージは運動が個々の人々の自発性を大切にしており、個々人の声を大切にしていることでもあるように感じられます。つまり、みんなが一斉に同じユニフォームで、上から命じられたスローガンを叫んでいるのではない、ということでしょう。ルイーズ・ムーランさんも黄色いベストの「広報部」ではなく、これも自発的な運動です。そもそも「立ち上がる夜」にも、「黄色いベスト」にも運動を束ねる事務局や本部、あるいは広報部と言ったものは存在しないのです。ソーシャルメディアを通して、多様な人々が自発的に集まって来る運動です。
メッセージのいくつかを紹介します。
(フランス特有の記号は文字化け防止のため、ここでは英語表記にさせていただきます)
"Vous avez BESOIN de nous, pourquoi nous MALTRAITER? "
( あなたは私たちが必要です。
それなのになぜ私たちをひどく扱うのですか?)
動詞のmaltraiterには「手荒く扱う」、「虐待する」、「乱暴に扱う」、「いい加減に扱う」「こき下ろす」などの意味があります。選挙の時は有権者に様々な言葉を発して1票を乞いながら、いったん当選したら王のようにふるまう政治家は洋の東西を問いません。
"JE LUTTE DONC JE SUIS...."
(われ闘う。ゆえにわれあり)
前回も出てきたデカルトの「我思う、ゆえに我あり」のパロディです。自分をアイデンティファイする行動が彼にとっては闘う、と言う言葉になっています。
"OUI a la REVOLTE PACIFIQUE "
( 平和的な反抗に賛成です)
この年配の女性は「黄色いベスト」が暴動のように報じられていることに異を唱えているのでしょうか。写真から女性が多数参加していることがわかります。名詞のrevolteには「反乱」「暴動」という意味もあれば「反抗」とか「不服従」という意味もあります。また「憤激」とか、「激しい怒り」という意味があります。暴動と言う言葉と不服従と言う言葉は日本語ではニュアンスが違いますから、訳がなかなか難しい単語です。動詞がrevolterで、その関連語としてrevolutionがあります。フランス革命の場合は頭文字を大文字のRにするのが慣例です。この名詞、revolutionには「革命」以外に、「大変革」という意味もあります。
”AVEC LA PALESTINE”
(パレスチナとともに)
マクロン大統領への反対運動ですが、この参加者の背中にはパレスチナとの連帯が書き記されています。パレスチナとの連帯と言うのはパレスチナで行われている闘いへの連帯と言うことでしょう。ちなみにその上にプリントされたロゴはスポーツ界における保険を提供する企業のようです。これは最初からこの黄色いベストにプリントされていたものなのかもしれません。黄色いベストは自動車運転用に配布される非常時のベストですから。
そのほか、文字はなく、機動隊によるフラッシュボールと呼ばれているゴム弾の使用や警棒で打つ暴力行為の禁止を求めたメッセージもありました。この人は自転車も黄色く、帽子も黄色く、リュックの背中にも黄色いボードを張り付けています。このあたりのセンス、ちょっとしたメッセージにも芸術性とか、こだわりを感じさせます。昔の感覚でいえば、こういうのは競技に参加するスポーツ選手の背中に印刷された大企業のロゴだったのでしょうが、ここでは多様な人々、その一人一人の声や思いに替っています。
村上良太
■黄色いベストの背中にこめたメッセージ
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■フランスの現地ルポ 「立ち上がる夜 <フランス左翼>探検記」(社会評論社)
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