2019年02月04日10時58分掲載
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コラム
今問題になっている厚労省「毎月勤労統計」のサンプリングについて 谷克彦(数学月間の会 世話人)
公的統計は国民にとって合理的な意思決定を行うための基盤となる重要な情報です.統計が政策の客観的な基礎になるので統計調査は政府の管理下に置き重視しています.統計法(2007年に大幅改正)には,国勢調査などの基幹統計調査での報告義務,かたり調査の禁止,地方公共団体による事務の実施などが決められています.
政府の統計を監督する統計委員会は,総務省に置かれているので,政府からの独立性の懸念はあります.麻生太郎副総理・財務相は2015年10月の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)で,「毎月勤労統計については,企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘されている」と発言しました.これはもちろんその通りですが,2018年のサンプル入れ替えのときに,数値上昇への忖度につながった可能性はあります.
統計調査は全数調査ではなく,サンプリングした集団に対して実施されます.このサンプル集団が元の集団の性質を代表しているとみなせるのは,サンプリングが完全にランダムであることが前提です.しかし現実には不可能で,適切な補正をし現実に近づけようと努力をしています.
調査される側から十分な協力が得難いという問題もあります.私も自分が正規分布の1点として扱われると思うと不愉快だし,個人情報を出すのは嫌がられます.結局,予定したサンプルが集まらないで,何らかの偏りがあるサンプル集団が得られます.サンプル集団の採り方により,得られる統計数値は色々に変わり得るので,数値への信頼はほどほどにしましょう.しかし,数値化されると独り歩きし都合の良い数値が政策に採用されるという懸念があります.
こうして考えると,統計学や数学ではなく,社会の複雑な状態を,おおざっぱでも正しく把握する常識感覚が必要になります.庶民の実感する豊かさと,統計数値に乖離があるとすれば,サンプル集団は,社会状態を正しく代表していないのです.
東京都の「500人以上規模の事業所」については,全数調査(1,464事業所,平成30年)の決まりでしたが,約3分の1の491事業所のサンプリングでした(2004年1月から).
平成16年以降,厚生労働省から東京都に対し,厚生労働省が抽出した事業所名簿を送付し,当該名簿に基づき抽出調査を行うこととしていたといいますが,これはランダムサンプリングだったのでしょうね..
首尾一貫した定義によるサンプル集団を調査のドメインにしないと,経年変動は不正確で意味がありません.アベノミクスの成果と言われる賃金伸び率の数値変化があてにならなくなりました.
谷克彦(数学月間の会 世話人)
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