2019年02月04日11時44分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201902041144041
健康上のリスクありと開発者が警告したGMジャガイモ、日本は安全を評価し認可 上林裕子
高温で揚げたときに生成する発がん物質「アクリルアミド」を低減し、収穫時の打撲による黒斑を4割削減したという米国シンプロット社の遺伝子組み換え(GM)ジャガイモ。日本では2017年5月に食品安全委員会が食品としての安全性を評価、認可されている。しかし、2013年まで同ジャガイモの開発に関わってきたカイウス・ロメンス博士は「GMジャガイモは通常のジャガイモには存在しない毒素を蓄積する可能性がある」として、健康上のリスクがあると指摘、その結論を『Pandora's Potatoes』という本にまとめ、出版したが、同書は発売直後に絶版になっている。
◆発がん物質や打撲の黒斑を低減
アクリルアミドは炭水化物を多く含む食品を120度以上の高温で調理すると食品中のアスパラギンとブドウ糖などの還元糖が化学反応を起こして生成される物質で、WHO(世界保健機関)が2A(人に対しておそらく発がん性がある)に分類する発がん物質だ。シンプロット社のGMジャガイモは、アクリルアミドの原因となるアスパラギンの生成に関わる遺伝子を沈黙させることによってアクリルアミドの生成を最大7割低減するという。
また、複数あるポリフェノール・オキシターゼ(PPO)遺伝子の1つを沈黙させることにより、打撲でできる黒斑を4割以上削減することが可能になった。
今回使われた遺伝子組み換え技術は「特定の遺伝子の働きを止める(沈黙させる)」もので「RNA干渉」と呼ばれる新しい技術だ。
シンプロット社は、GMジャガイモの特徴として「黒斑が少ない」「皮をむかれたりカットされたりしても、白さを保ち、より新鮮に見える」などの点を上げている。
◆遺伝子を沈黙させたことで毒素を蓄積
ロメンス博士によると、「GMジャガイモは打撲によって変色しないので、従来のものより傷つきにくいと思われているがそれは違う。傷ついているが変色しないので、傷が隠されているだけ」なのだという。チラミンはワインや熟成チーズ、チョコレート、発酵食品などに含まれるが、血管収縮作用があり血圧や心拍数を上昇させる作用がある。損傷したジャガイモの組織にはチラミンが蓄積する。傷が黒変した場合は加工時に切り取られるが、GMジャガイモの場合は変色しないので切り取られないため、消費者は傷ついた組織を食べてチラミンにさらされることになる。多くの場合チラミンは代謝されるが、MOA抗うつ薬を飲んでいる場合はチラミンを代謝することはできない。
黒斑を低減するためにPPO遺伝子を沈黙させたことにより、調理や加工中にAGEs(糖尿病やアルツハイマー、がんなどを引き起こす終末糖化産物)に変換されるα-アミノアジピン酸や、吐き気や嘔吐など、神経影響を引き起こすチャコニン・マロニルを増加させることが分かった。
「PPO遺伝子を沈黙させることは、ジャガイモの自然のストレス反応の障害を含む多数の影響を及ぼすことは明らかだったのに、われわれは遺伝子が1つの効果しか持たないと仮定して遺伝子を沈黙させた」「しかし、すべての遺伝子機能は相互に関連しているので、それはこっけいな仮定だった」と、ロメンス博士は語る。
◆シンプロット「博士はコメントする立場にない」と声明
ロメンス博士は「GMジャガイモは健康への懸念がある。市場から撤退すべき」であるとして『Pandora’s Potatoes』の本を出版した。
シンプロット社はこの書籍に対し「GMジャガイモ開発と安全性について誤った、誤解を招くような陳述と憶測でいっぱい」であるとする声明を2018年10月16日に発表している。声明では、GMジャガイモの承認を得るためにロメンス博士の結論を一切使用していないし、ロメンス博士は2013年の辞任後シンプロットのデータに一切アクセスしていないので、コメントする立場にないとした。
◆消費者団体、「RNA干渉」に関する検証が不十分
食品問題等に取り組む米国の消費者団体「食品安全センター(CENTER FOR FOOD SAFETY)」は新たな遺伝子組み換え技術である「RNA干渉」について十分な検討がされていないことに懸念を示す。
特定の遺伝子の働きを止める(沈黙させる)RNA干渉技術は「環境保護庁(EPA)の要請により分析した独立した科学者パネルが、潜在的なリスクについて多くの重大な不確実性があると指摘している」「アスパラギン遺伝子は病原体に対する防除において重要であると指摘されている。GMジャガイモは病原菌からの防除能力が弱まる可能性があるが、この点について検証されていない」と、新たな技術によってつくられたGMジャガイモに関する問題点を指摘している。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。