2019年02月23日00時18分掲載
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核・原子力
文科省「小学生のための放射線副読本を読む」 山端伸英
日本の文科省は「小学生のための放射線副読本」と称する読本を小学5年生に配布している。これについて筆者はFacebookのコンタクトから知ることが出来たが、日本の現実から遠いところにいる上にメキシコのラグナ・ベルデでは福島原発と同モデル同型同年製の原子炉(ゼネラル・エレクトリック製)が稼動中なので関心があり、物理学者の入口紀男さんにFacebook上でこの自民党政府の副読本についてのコメントをいただいた。以下が、そのコメントだが、より多くの方に知っていただきたい。
・・・・・
この『小学生のための放射線副読本〜放射線について学ぼう〜』(平成30年9月文部科学省)は、表紙を含めて24ページからなる小冊子のようです。
【はじめに】
これは全 1ページからなっているようです。これを見ると、
1.要するに「放射線は有用なものであるのに、福島第一原発の事故によって多くの人が避難を余儀なくされていじめがおきた」と書かれている。
2.「放射線が危険であること」についてひと言も触れられていない。
3.「二度といじめが起きないように」とは書かれているが、「二度と放射線災害が起きないように」とは書かれていない。
4.大勢の生徒たちが福島県双葉郡に各地から集まって「第4回双葉郡ふるさと創造学サミット」という横断垂れ幕をもった写真が掲載してある。
以上を良いの悪いのと批評するわけでありませんが、「はじめに」には以上のように書かれています。
以下、幾つかちょっと見て気がついたことを申し述べます。せっかくなので、もう少し正確な書き方をすれば良かったのではないかと思われます。
【10ページ】
この本では、広島と長崎の瞬間的な被ばく線量のデータのみに依拠して100〜200ミリシーベルトで「固形がん」のみの発がんリスクを「1.08」しかないとしています。長期にわたる放射能汚染のことや白血病の発症のことなどの重要なことについて触れていません。
【12ページ】
この本では、福島第一原発事故のセシウム137飛散量はチェルノブイリの「約7分の1」としています。
しかし、チェルノブイリ原発事故のセシウム137飛散量は広島原爆の955発分であったと考えられており、一方、福島第一原発事故のセシウム137飛散量は広島原爆の 168発分(日本国政府)または 384発分(英科学雑誌ネイチャー)でした。その数値(約7分の1)が誤っています。
【13ページ】
この本では現在(平成30年9月)福島県内の放射線量は最高 0.15マイクロシーベルト/時(福島)、最低 0.04(南会津)であるから、パリが 0.04、ソウルが 0.12であることを考えると、福島第一原発のすぐ近く以外では世界の主要都市とほぼ同じくらいであるとしています。
しかし、「新・全国の放射能情報一覧」の平成31年2月の測定グラフ(添付図)によれば、福島県内は 2.0〜8.0マイクロシーベルト/時であり、これは世界の主要都市の 16〜200倍です。
【14ページ】
この本では福島県で何らかの生まれつき障害がある新生児が生まれた割合は全国平均と差がないとしています。
しかし、周産期死亡(妊娠 22週以後の死産と生後 1週未満の新生児死亡を合わせたものは岩手・宮城・福島・茨城・栃木・群馬では「15.6パーセント」高くなり、東京・千葉・埼玉でも「6.8パーセント」高くなっていることなどが書かれていません。
【17ページ】
この本では日本の食品中の放射性物質の基準値は世界で最も厳しいレベルであるとしています。たとえば、日本では一般食品は1キログラムあたり100ベクレルです。
「ベクレル」とは放射性物資が1秒間あたりに核分裂を起こす回数です。私が 100ベクレル食べると、私のお腹の中で1秒間あたり100回の核分裂が起こります。1分間に6,000回。1日で864万回です。
3.11の事故以前に人工の放射性物質であるセシウム137は食品に含まれていませんでした(ゼロでした)。ですから、基準値としては実は 500ベクレルでも1,000ベクレルでも2,000ベクレルでも何でもよかったのです。
たとえば、アメリカでは「1キログラムあたり 1,200ベクレル」ですが、現実に食品にセシウム137は含まれていないのですから、そのような基準値が幾らであろうとなかろうと、アメリカのほうがはるかに安全な国です。
(筆者:「この引用は入口紀男博士の許可の下に発表いたしました」)
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