2019年03月04日00時18分掲載  無料記事
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地域

バンクシーが描いた絵は「国内外で大いに注目される」から無罪?〜「反戦」「戦争反対」の落書きは“建造物損壊”で有罪にした日本国で!

 小池都知事の2019年1月16日のツイッターに、 
「あのバンクシーの作品かもしれないカワイイねずみの絵が都内にありました! 東京への贈り物かも? カバンを持っているようです。」というツイートが載り、驚いた。 
 なぜなら落書きは、被害者の告訴が必要な“器物損壊罪”ではなく、非親告罪の“建造物損壊罪”として扱われるからである。 
 
 私は、落書きが器物損壊罪ではなく建造物損壊罪という重罰に格上げされたのは“政治状況”と関連があると考える。 
 というのは、2003年3月20日にアメリカが「イラクが大量破壊兵器を持っている」などを口実として戦争を開始し、これに伴って日本国内で“イラク戦争反対”の様々な行動が行われ、その中で杉並区の公衆便所に「反戦」「戦争反対」「スペクタクル社会」と落書きした人物が逮捕される事件が起こったところ、当初の容疑が“器物損壊罪容疑”だったのに、“建造物損壊罪容疑”に格上げされて起訴されると、一審の地裁と二審の高裁で“執行猶予付き有罪判決”が下され、さらに最高裁が2006年に“上告棄却”したという経緯を辿ったからである。 
 
 このような経緯があったにせよ、落書きの罪刑が“建造物損壊”になっている現時点においては、たとえ描かれた絵が有名なバンクシーのものであろうとも、捜査当局は“建造物損壊容疑”で捜査しなければならないはずである。 
 東京都知事が「東京への贈り物かも?」と、まるで落書きを評価するような書き込みをすることは、「有名人の落書きは利用し、無名人の落書きは取り締まりの対象とする」という典型的な二重基準としか思えない。 
 
「そもそも防潮扉に描かれた絵の作者を“バンクシー”と小池都知事が判断できたのだろうか?第三者の何者かが入れ知恵した可能性があるのではないか?」。 
 そう考えた私は、東京都に対して「絵がバンクシーのものであると情報提供を受けた日時、内容が分かる文書」という形で情報公開請求を行ったところ、 
 
● 『海岸保全施設日G−3に描かれたバンクシーの作品について』と題する文書(以下『文書A』) 
 
● 右上に「平成30年12月19日」、左上に「東京都副知事 多羅尾光睦 様」と書かれた文書(以下『文書B』) 
 
という2文書が開示された。 
 
 『文書A』には日付が入っていない。ただ、開示決定の際の都職員とのやりとりによると、『文書A』は2018年12月18日に出されたものであり、提出者は『文書B』の提出者(=東京国立近代美術館長)と同じであるという。 
 『文書A』の中で、提出者は以下のようなことを語っている。 
「もし確認が取れれば、おそらく日本国内で彼が残した唯一の作品となる」 
「本年10月にサザビーズオークションに出品された『赤い風船に手を伸ばす少女』が約1億5千万で落札された」 
「彼自身の作品であることが確認できれば、国内外で大いに注目されることは間違いない」 
「当面の措置として、本作品を何らの形で保全することが緊急に必要である」 
「その上で本作をアート作品としてどのように保存・公開するか」 
 これらは「バンクシーが描いた絵は貴重なものであり、作品的な価値が高く、保存に該当する」「バンクシーという芸術家の描いた絵だからこそ保存、展示すべきだ」という“芸術無罪”を思わせる主張であり、「落書きは犯罪であり、建造物損壊という有罪行為である」という視点は、まるで感じられない。 
 
 『文書B』にある「面倒な案件を即決で前向きにご対応いただけるとのこと」などの記載を見る限り、防潮扉の施設管理者である東京都が、「反戦」「戦争反対」「スペクタクル社会」の文字と同様に、バンクシーの絵を“犯罪”として扱い、捜査当局などに“犯罪者”として取り締まるよう促したようには思えない。 
 バンクシーのような有名人になれば、落書き行為をしても現職知事がツイッターで宣伝するなど無罪扱いする一方、「反戦」「戦争反対」「スペクタクル社会」と書いた人は有罪とするのでは“法の下の平等”が守られているとは思えない。 
 
 『文書A』によれば、防潮扉の絵は2002年に描かれたらしいので、落書き被害者である東京都が、判例変更される前の“器物損壊罪容疑”で、捜査当局である警視庁に対して『被害届』なり『告訴状』を出している可能性はあろう。 
 もちろん、警視庁がすべての落書きを把握していると考えるのは非現実であり、防潮扉にネズミの絵が描かれていたことをこれまで知らなかった可能性はあるが、小池都知事の2019年1月16日のツイッターにより、警視庁も防潮扉に絵が存在することを認識したはずである。 
 また、警視庁が「世界的に知名度のあるバンクシーを、落書き犯の対象としてきちんと捜査対象にすることこそ、落書き犯の抑止につながる」と考えてもおかしくない。 
 私はそのように判断し、2019年2月21日、以下の三点について警視庁に情報公開請求を行った。 
 
(1)この絵を書かれたことに対して東京都から出された被害届及び告訴状 
 
(2)この絵に関しての検事送致の日時・内容が分かる文書 
 
(3)東京都から警視庁に出されたバンクシーの絵を捜査対象にしないように求める要望書 
 
 警視庁は、こういう情報公開請求に対して「捜査状況に関するものだから存否も含め回答しない」と回答するのが常套句だが、そのような態度では「落書きを容認するかのような小池都知事の姿勢はおかしい」という市井の人の声に答えたことにはならないであろう。 
 ちなみに、小池都知事の2019年1月16日付ツイッターに対し、2019年2月25日時点で1340件もの返信が届いているが、その多くが「小池都知事の対応はおかしい」旨の主張である。 
 警視庁は今、「東京都知事やバンクシーの絵の保全・保存・公開を求めた東京国立近代美術館長などの権力者の言い分を忖度するのか」、それとも「“落書きは犯罪である”と考える市民の要望を理解して行動するのか」が問われている。(アツミマサズミ) 


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