2019年03月04日11時56分掲載
無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201903041156591
コラム
ハノイでの米朝会談に先立ち、NYTコラムニストの二コラ・クリストフが展望を開陳していた
ニューヨークタイムズの逸話にこんな話がある。米ソ間のキューバ危機の渦中、ケネディ政権はニューヨークタイムズのコラムニストを使って、観測気球を打ち上げ世論の反応を見た。トルコにある米軍のミサイル基地を撤去することでキューバからソ連の核ミサイルを撤去してもらうという交換条件の提案だった。実際、その提案は現実的になったがキューバ危機が終結してしばらく後のことだったと言う。
ニューヨークタイムズのコラムニストの二コラ・クリストフがトランプ政権の意を汲んで書いたとは思わないものの、2月26日付のニューヨークタイムズに彼が書いた"The Kim and Trump Nobel Peace Prize"という一文は、今になって読むと、その直後に行われ、合意が見送りになった米朝交渉の先取りのような印象がある。二コラ・クリストフは両者がノーベル賞というのは幻想だが、それが朝鮮半島の非核化と北朝鮮の国際経済への合流を進めるものなら、幻想を抱いてもいいじゃないか、というのである。
この中で、クリストフはトランプ大統領側が今回の交渉では完全な非核化を求めるであろうことを示しており、一方、金正恩朝鮮労働党委員長がすぐには核兵器をゼロにしないであろうことを示していた。つまり、それだけでも合意が見送られる可能性が高い、とクリストフは示していたのだ。しかし、同時に、朝鮮戦争の終結と朝鮮半島の非核化は非常に大きなテーマであり、一夜にして解決できるなどと思わなくていいとも告げていた。クリストフのコラムで興味深かったのはトランプ政権が北朝鮮との交渉担当に抜擢したステファン・ビーガン(Stephen Biegun)氏が実効性のある交渉を進めるであろうと期待していることだ。
思い返せば二コラ・クリストフは2018年に米朝首脳会談が行われることが年初に発表された直後にこの件について書いていた。今思えば当時から彼は同じスタンスだった。予定されていた米朝首脳会談が一度ご破算になった直後に日刊ベリタに筆者は次のように書いていた。
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201805260115296
「トランプ大統領が予定されていた米朝首脳会談を中止したと報じられた。東アジアの平和を期待した人々にとっては嬉しくないニュースとなった。トランプ大統領がなぜ今になって中止を決めたのか、真相はわからない。以下は単なる見聞した情報である。ニューヨークタイムズのコラムニスト、二コラ・クリストフが米朝首脳会談決定直後に冷めたコラムを書いたことがあったのを思い出すのである。二コラ・クリストフは米朝間の首脳会談と平和条約の締結を期待する一人だが、あまりにも急激な事態の進展に警鐘を鳴らしていた。それは何かと言えば、トランプ大統領が平和条約を北朝鮮と電撃的に結んだ場合に、在日米軍の位置づけはどうなるのか、という事があった。朝鮮半島の非核化ということになれば沖縄に核兵器を持つ米潜水艦が寄港することはできなくなるのかもしれない。そのあたりはグレイだろうが。そのことは米軍がこれまで進めてきた中国封じ込め政策にも影響を与えることになる。だから、クリストフは政治のド素人であるトランプ大統領が首脳会談ですべてを決めることに危惧と難色を示していたのである。もっとプロの外交官が事務方の交渉を進めておく必要がある、と。クリストフが中国通であることも記憶にとどめておく必要がある。」(トランプ政権による米朝首脳会談中止をどう見るか)
去年の五月に一度、予定されていた米朝首脳会談が中止になった時、あたかも米朝間の交渉は全部終わって、戦争ムードに傾斜するかのように思った人もいるかもしれなかった。しかし、二コラ・クリストフのコラムを読むと、米国内でトランプ大統領の電撃的なトップ交渉を危惧する人々がより実効性のあるプロの外交官や交渉担当者を交えるように働きかけていることがうかがえる。今回の合意の見送りは二コラ・クリストフのコラムを信じるなら、多少時間がかかっても、確実な合意に向けて進んでいる可能性があるということだろう。
新聞の中には北朝鮮が合意できると確信していたと報じているものもあるが、その裏はどこにあるのだろうか。北朝鮮はこの米朝交渉にこぎつけるまで何十年という時間をかけてきている。だから、それほど簡単に米政権が北朝鮮側の提示した不完全な非核化で合意するとは確信していなかった、という方が正しくはないだろうか。トランプ大統領が発言していたように、北朝鮮が新たな核実験やミサイル実験を停止する、ということは交渉の時間を確保するための北朝鮮側からの提示である。もし、北朝鮮がそれを提示しなかったら、トランプ政権の時代に北朝鮮の核ミサイルが米本土に到達する可能性が生まれることになったはずであり、そうなればトランプ大統領もタカ派の声を抑えることが難しくなるだろう。
重要な時に米側の意図を世界が誤解しないように説明に出てくる二コラ・クリストフはどこか米政府の影のスポークスマンのようにすら感じられる。
Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。