2019年04月15日13時23分掲載
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検証・メディア
マスメディアは朝鮮半島の平和と非核化に対する合衆国政府の姿勢を問え Bark at Illusions
ベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で合意文書への署名が見送られたのは、合衆国側の強硬路線への回帰が原因であることが明らかになってきた。また会談の数日前にスペインにある朝鮮大使館が襲撃された事件では、「自由朝鮮」と名乗る組織が犯行声明を発表し、大使館から略奪した情報を合衆国の連邦捜査局(FBI)に提供したと認めている。こうした情報から判断するなら、停滞する交渉を再び軌道に乗せるためには、合衆国政府の姿勢を正すのが妥当であると考えられるが、偏見に満ちた日本のマスメディアは合衆国政府の方針を支持し、朝鮮に対する制裁の重要性を強調する傾向にある。
ハノイでの首脳会談後、合衆国側の交渉姿勢を疑わざるを得ない情報がいくつも上がっている。
ニューヨーク・タイムズ(19/3/2電子版)は、会談で合衆国のドナルド・トランプ大統領が朝鮮のキム・ジョンウン委員長に対して「全ての核施設を廃棄すれば制裁解除に応じる」と提案したと伝えている。しかもジョン・ボルトン大統領補佐官やマイク・ポンペイオ国務長官は、朝鮮側がそのような提案を受け入れないことを承知で、トランプにそのように提案するよう忠告していたと言う。朝鮮政府との実務協議を担うスティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表は会談前の講演で、昨年シンガポールで米朝両首脳が行った「全ての約束」を「同時並行で追及する用意がある」と朝鮮側の交渉担当者に伝えたと述べていたのだから(合衆国国務省 19/1/31)、合衆国側が会談で朝鮮に対する態度を硬化させていたことは明らかだ。「全ての約束」には、「朝鮮半島の非核化」の他、朝鮮に対する「平和の保証」や「新しい米朝関係の構築」、「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」などが含まれている。
また会談でドナルド・トランプがキム・ジョンウンに手渡した合衆国側の求める「非核化の定義」を示した文書を入手したロイター通信(19/3/30)は、その内容について「北朝鮮の核施設、化学・生物兵器プログラムとこれに関連する軍民両用施設、弾道ミサイル、ミサイル発射装置および関連施設の完全な廃棄」を朝鮮側に求めていたと伝えている。ロイター通信は、合衆国側の要求はボルトンが主張し朝鮮側が「繰り返し拒否」してきたものだと説明した上で、そのような提案は「うまくいかないのは明確」であり、合衆国政府が「協議に真剣なら取るべき手段でないと学んでしかるべき」もので、「交渉のたたき台にはならない」と指摘する北朝鮮専門家のジェニー・タウン氏の見解を伝えている。
さらに冒頭でも述べたように、「自由朝鮮」と名乗る朝鮮の反体制派グループが、会談の数日前に起きた在スペイン朝鮮大使館襲撃事件で犯行声明を発表し、大使館から略奪した情報をFBIに提供したと主張している。
会談後に明らかになったこれらの情報から判断するなら、合衆国側の交渉姿勢を疑うべきだろう。
ところが、日本のマスメディアは、合衆国側が朝鮮政府に示した「非核化の定義」の内容や、朝鮮の反体制派グループが朝鮮大使館から強奪した情報をFBIが共有しているという情報を伝えながらも、合衆国側の姿勢を批判しているものはほとんど皆無で、むしろ朝鮮側の制裁逃れやミサイル施設での新たな動きなどに焦点を当てて、朝鮮に対する制裁維持の必要性を説く傾向にある。
例えばNHKニュース7(19/3/30)は、ロイター通信が伝えた合衆国側の求める「非核化の定義」の内容や、「自由朝鮮」が略奪した情報をFBIと共有していると主張していることを伝えた後、
「完全で不可逆的かつ検証可能な非核化と具体的な措置が必要だと明確に示す米国の姿勢を支持する」
「外貨獲得の手段になっている海外の北朝鮮労働者について、送還させることが重要だ」
という英国の国連大使の見解だけを一方的に伝えて制裁を維持することの重要性を強調し、
「非核化に向けた動きが膠着状態となる中、アメリカは同盟国の日本やイギリスと連携して非核化に向けた行動を北朝鮮に迫る考えです」
と述べてニュースを終えている。
英国国連大使は前述したシンガポールでの米朝両首脳の約束について誤認している。米朝が約束した非核化は「朝鮮半島」の非核化であり、それには「北朝鮮の核」だけでなく、在韓米軍など朝鮮半島に展開される米軍の核も含まれる。朝鮮側にだけ「完全で不可逆的かつ検証可能な非核化と具体的な措置」を求めるのは間違っている。
また制裁については、過去の朝鮮半島の平和と非核化を巡る交渉の過程で、朝鮮政府に強硬姿勢で臨めば朝鮮側は核開発やミサイル実験を行い、関係国が対話姿勢を示せば朝鮮側も非核化に応じる姿勢を示してきたという事実を思い出さなくてはならない。例えば米朝間の交渉が続いていた1990年代、朝鮮は米朝枠組み合意(1994年)に従って核兵器開発を凍結していたが、2002年1月に当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が朝鮮の「ウラン濃縮計画」の存在を主張して一方的に米朝枠組み合意を破棄すると、朝鮮は核開発を開始した。また2005年の6者協議での共同声明が発表された直後に合衆国政府が偽ドル流通疑惑やマネーロンダリング(資金洗浄)疑惑を理由に朝鮮に経済制裁を課すと、朝鮮政府は反発して核開発を再開させ、翌年最初の核実験を行った。合衆国側が対話を拒んで制裁や軍事的圧力を強化したオバマ政権時代やトランプ政権の初期には朝鮮は核実験やミサイル実験を繰り返していたが、韓国のムン・ジェイン大統領の融和政策が米朝韓の対話ムード創り出し、シンガポールでの米朝合意へと導いた。これまでの交渉過程を振り返れば、朝鮮政府に非核化を促してきたのは対話などの宥和政策であり、朝鮮に核を放棄させるためには制裁が必要だという説は疑わしいどころか、朝鮮半島の緊張を再び高める危険性がある。
朝鮮政府に核の放棄を求めるなら、朝鮮が置かれている状況も理解しなければならない。合衆国による侵略の脅威にさらされ続けてきた朝鮮政府は、合衆国に対する抑止力として核兵器を開発してきた。合衆国の求めに応じて武装解除し、その後合衆国に侵略されて国が崩壊したイラクやリビアなどの教訓から、朝鮮戦争も終結せず、平和の担保がない中で、朝鮮政府が核を放棄できるはずがない。朝鮮半島を非核化するためには、朝鮮半島の恒久的な平和が保証されなければならない。また対話継続と、米朝の信頼構築のためにも、朝鮮側の行動に合わせた制裁の解除も必要だろう。
ハノイでの会談後、「現在の信頼関係で我々ができる最大限の非核化措置」を提案したと述べた朝鮮のリ・ヨンホ外相は「信頼関係を深めれば、非核化の過程はより早く進展できる」と述べ、キム・ジョンウンも、合衆国側が「相応の措置」を取れば、さらなる非核化の措置を取ると表明している。朝鮮半島の平和と非核化が実現するかどうかは合衆国政府の交渉姿勢にかかっている。
マスメディアは明らかになっている情報を正しく分析し、合衆国政府に対して交渉を停滞させて緊張を高める強硬路線ではなく、朝鮮半島の平和と非核化に向けた現実的な行動を取るよう要求すべきだ。
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